散歩
私がこの町に戻ってきて半年が過ぎようとしていた。12月の風が強い日、父の友達のおじさんに誘われて川辺に行くことにした。おじさんは普段、大阪に住んでいる。たまたま仕事でこちらの方まで出て来ていたようで、帰りに私の家によったのだと言う。寂れた商店街を抜け、大通りに出てしばらく進むとイベントごとなどが開かれる大きな公園にでる。最近はポケモンがよくとれると、人気のスポットになっているその公園の中には、大きな桜の木が何本か生えている。春になるとそれらが大きく花を咲かせ、淡いピンクが公園の色を華やかに見せる。花粉症の私はいつまでも見ていたいという気持ちと、早くここを去りたいという気持ちの狭間で揺れ動く。ただし今は冬の真っただ中。花粉症の心配はする必要もなく、思う存分澄み切った空気を吸える時期だ。
公園を抜けるとそのまま橋に繋がっていて、川の向こう側に行けるようになっている。橋を渡ると河川敷を歩き始めた。散歩をする人や、ランニングをする人とすれ違う。川をみると傾き始めた夕日のオレンジが一面に広がっていた。きれいだ、すごく綺麗だと思った。川に見とれ足を止めると「この町はいい所だと思うよ。何が嫌なの?」と穏やかに訪ねられた。
「嫌な訳じゃないんです。ただ、凄く中途半端だなって。」私は顔をおじさんの方に向けた。
「中途半端?」
「はい。駅前に出来たビルは階の途中からマンションだし、新幹線は停まらないし。他にも色々。」新幹線が停まらないのは中途半端と関係のない気がしたが、一回言ってしまったものを訂正するの面倒だった。
「なんとなく、なんとなく息苦しさを感じていて。それでも高校まではよかったんです。学校に行って、帰ってゲームやって、テスト近くなったら勉強して。毎日毎日、ゲームにのめり込んでたから。でも、じゃあいざ大学決めようってなった時に何も思い浮かばなかった。一つだけ分かったのは、この町で私は一生このまま生きていくのかなと。そう思ったらもうダメでした。」
「それで、大学は家から通えないような所を選んだんだね?」
私たちはただひたすら真っすぐ進む。河川敷を進んだ先には港がある。このまま港まで行こうか、とおじさんに言われ無言で頷く。風が強いせいか雲の流れが速い。
「戻ってきて息苦しさはなくなった?」はい、と小さく答える。
「やっぱり都会だからって自分に合うとは限らないですね」自嘲的に笑う私を見ておじさんは何とも言えない微笑みを返してきた。
「比べなくていいと思うよ。好きなら好きで、いいんだよ。」
夕日が真正面で私の顔を照らす。視界が赤とオレンジのグラデーションで染まっていく。あまりの眩しさに涙が出そうになった。
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