第8話 もう一度
不思議なほど衝撃は少なかった。初めて病気を知ったときは、あんなに取り乱したのに。
まだ治療法のない難病だと言われた。研究途上で今の医療技術では治せないのだと。宣告された余命は一年だった。
「あと数年の内には確立される。だから」
そう父に勧められたのは、未来の技術に託すという選択だった。
コールドスリープ。身体を冬眠状態にして病気の進行を止めるのだと言う。
目覚める頃には必ず治る。そう諭されて治療を受けたのだが。
気持ちに反して動かない身体。きっと治療自体がされなかったのだ。
こんな世界だ。それどころではなかったのだろう。
やっぱり、簡単に言ってはいけないのだ。必ずとか、絶対だなんて。
今、落ち着けているのは、多分もともと諦めていたからだ。
もう目が覚めないかもしれない。麻酔が回る間、ずっとそう思っていた。それから何度も後悔が押し寄せてきた。
傷付けてしまった。御見舞いのたびに掛けてくれていた声が、優しければ優しいほど辛くなって、拒絶の言葉を浴びせてしまった。
謝りたかった。もう一度、会いたかった。もしも、まだ生きていられるのなら。
眠りにつくまで、ずっとそう思っていた。
そして目覚めた今も。
「うん。でもね。私、行かなきゃいけないから」
治っていなくたって、まだ生きていた。だからより強く思ったのだ。
(ちゃんと謝ろう)
例え、残された時間が僅かだとしても。
「……、そんな身体でなんで? どこにだよ?」
そう聞かれて、浮かぶところは一つあった。亡くなった人に会える場所なんてないけれども。
「う~ん? お墓参り?」
確かめなければと思ったのだ。
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