女優

ナユタ

第1話

 陽のシズクが零れるように降り注ぐ、朝。

シズクが一滴、彼女の頬を撫でる、撫でる。


 ほろり。


 彼女のその長い睫毛にも、シズクが一滴、また一滴。思わず瞬きをする。


ほろり。


 シズクが零れていく。


ほろり。


 彼女は伸びをする。ゆっくりと身体を起こしカーテンを開ける。陽のシャワーが彼女の身体を洗い流す。艶やかな黒髪には天使の輪がよく映える。


 彼女は美しい。彼女は自分の美しさに気づいている。彼女は自分の魅せ方を知っている。だから彼女は美しい。

──彼女は女優である。彼女は自分の醜さに気づいている。彼女は自分の魅せ方を知っている。だから彼女は女優である。


「今日も素敵な笑顔ね、貴女」


「今日も醜い心ね、私」


彼女に向かって、甘ったるい声で囁く彼女は、私の知る中で一番美しく、一番醜い女である。

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女優 ナユタ @SHINITAGIRL

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