ガーディアン・キー『勇者の話』

面屋サキチ

第1話 プロローグ

 私は南の小国の騎士団に所属していた、一介の騎士だ。名前はアルブレヒト=テオドシウス。私の生まれた国は、小さいけれど豊かで平和な国だった。


 十字型とひし形の間の子のような形の世界地図の上、南に位置する、周囲を大きな山脈に抱かれた辺境の国。古くからこの土地に住んでいた王族と共に、民がひっそりと生活を営んで来た小さな王国。私の生まれた国はそんな辺境の小国だった。

 国の人口の半分は月の民や星の民が占め、残りの半分は亜人種の水の民が大多数を、残りの少数は火の民によって成り立っていた。


 亜人種達は主に郊外へとその住居を持ち、農耕と機織りを生業としていた。乾季に入ると体力自慢の火の民は山へ入り石の採掘をし、その優れた鍛冶技術の腕を振るった。出来上がった質の良い農作物は城下町や城への食料として取引され、質の良い織物や鉱石は職人によって加工され、加工品は城下町に住む商人によって国の外へと輸出されていた。城下町に住む人々は、前述した職人や商人達によって賑わっていた。


 私は城下町に住む商家の家に、次男坊として生まれた。両親は質の良い織物を織る郊外の家と何件か取引をしており、それを職人に売る小売業を営んでいた。長兄が家業を継ぐ事は決まっており、幾分自由に未来の選択をする事の出来た私が、自分の行く末に選んだのは剣の道だった。


 国は大きな争い事に干渉する事もなく、周囲の山から時折姿を見せる猛獣達による被害が出る以外、これと言った争いの無い国だった。しかし国には王家へ仕える騎士団がある。騎士団は街の警護等も担う、自警団としての役割も持っており、この小さな国の規律であり正義であった。


 そんな騎士団に憧れを抱き、私は五つの頃から剣の稽古を始め、めきめきとその頭角を現し、十二才で王国騎士団へと入団。三年後、十五の年で白銀騎士団へと配備を許された。


 白銀騎士団は三分隊で構成される王家直属のエリート集団。一番実力のあるのはもちろん第一分隊で、私の所属した第三分隊はそれから見れば格下ではあったが、多くの民衆の憧れの的でもあった。両親や親類からも良くやったと誉れの言葉を多く貰い、私自身この地位に満足する事無く、更なる上を目指して精進せねばと思っていた。


 入団式にて、温和で優しそうな国王と、美しく自愛に満ちた微笑を浮かべる女王に誓いを立てた。騎士団の制服となるコートを肩に、一般解放されていない城内への立入りを許され、警備の順路や手順を覚えた頃。


 私は城内の不穏な空気に気が付いた。それは国王の下で働く家臣たちの行動や言動から感じ取れた。


 今思えば、あの温和な国王を影から操り、私腹を肥やしていた家臣たちは、一丸となって国の全てにその触手を伸ばしていたのだと分かる。しかし、当時の私はそんな事にまで考えは至らず、そしてあの結末を迎える事となる。

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