第7話 クエスト
薬草採集は地味だった。
ノーマルリーフという草を5本1束にするのだが、これが全然見つからない。
ただ、ひたすら森の中を歩き、探す。結局、昼間まで探したが4束しか手に入らなかった。これではクエスト依頼量の30束を集められるかどうかも危ういな。
仕方なくそこで薬草採集は諦め、いったん城下町に戻って昼食を食べることにした。
文字が読めないので、一番安い昼食を注文した。
昼食後、いよいよキングフロッグ討伐に向けて出発した。
キングフロッグがいるという草原に出ると男女の冒険者が2匹のキングフロッグ(でかいカエル)と戦っていた。
「おりゃぁーっ。リナ、そっちに行ったぞ。」
「分かってる。『アヂン・ファイヤ』」
おお、魔法を使っている。
男の方は大きな斧でキングフロッグを一刀両断すると、もう一匹が逃げていく。
その逃げる奴に向かって女が魔法を放つ。
ファイヤーボールだな。
キングフロッグが燃える。
こんがり焼けたところで炎が消えた。
「すごいですね。ああやって、戦うんですか?」
初めて見る戦いなので、思わず感動して、近づいて声をかけていた。
男女の冒険者はこちら見てくる。
男が俺に向かって答える。
「討伐クエストは初めてか」
「はい、なのでつい見てしまっていました。ご迷惑でしたか。」
「そんなことないぜ。それに俺達もつい一週間前に始めたばかりだし。それに、こいつは今日が初陣だからな。俺はその付き添い。」
そう男の方が答えると、
「私は一人でも良いって言ったのに無理やり付いてきて」
「仕方ないだろ、親父に付いていってやれっていわれたんだから。」
「そうだ。兄ちゃんも初めて戦うなら、一緒にどうだ?一緒に戦えば、効率も良いし」
「嬉しい申し出ですけど、君は良いの?」
「別に。ただ、足手まといにならないで」
「ま、そういうことだしどうだ。それと、俺たちに敬語は不要だぜ」
「分かった。それなら、ぜひ頼む」
男は思いついたかのように俺に提案するので快く受け入れた。
一時的なメンバーでのキングフロッグ討伐をすることにした。
「じゃ、まずは自己紹介だな。俺はロフト。ロフト・P・キャンベル。で、こっちはリナリー・S・キャンベル。」
そう言って、女の子を指さす。
「兄妹?」
ロフト「おうよ」
リナ「不服なことに」
兄妹別々の反応が返ってきた。
「俺は栗原優斗。よろしく」
それから下らない雑談をしながらお互いの戦い方などを話しつつ、キングフロッグを探す。
話の内容からこの兄妹は2人でパーティーを組んでいたけれど、前衛が少々心もとなかったらしく、少数のはぐれキングフロッグを狙っていたのだが俺が入ったことで多少大きなキングフロッグを狙えるという魂胆があって誘ったということだった。
「そういや、兄ちゃんジョブはなんなんだ」
そう、ロフトがさりげなく聞いてきた。
リナが一瞬ピクッと反応していたが気にせずに答える。
「俺は『裁定者』っていうジョブだよ。」
「兄ちゃん珍しいジョブだな。でも、『裁定者』か。なら大丈夫か」
「どこが大丈夫だよ。問題だらけだよ」
「いや、こっちの話で…」
「静かに」
リナが俺らの会話を遮る。
「あれを狙う」
そこには6匹のキングフロッグがいた。
「確かにちょうどいいな。俺らはもう4匹狩っているから残り1匹だし、兄ちゃんはまだ1匹も狩ってないんだろ。なら、狩った後の核石やるよ」
ロフトはそう言うけれど
「いいの?」
「おう」
「別に構わない」
あまりにも太っ腹すぎて逆に怪しく見えてきた。
ちょっと訝しげな目で見ていると
「なんにも裏なんてねぇよ。兄ちゃんの門出を祝っていると思え。まぁ、6匹全部狩れないかもしれないがな。そしたら、諦めてくれや」
「まぁ、そういうことなら」
貰っておくか。
まぁ、6匹全部狩れるか分からんが。
「とりあえず、作戦だ。リナ頼む」
「妹に丸投げかよ」
思わず言ってしまった。
ロフト、お前がリーダーじゃないのかよ。
「分かった。私、クリハラ、バカが奇襲をかけてそれぞれ1匹ずつやる。奇襲が失敗した場合はすぐに逃げる。成功したら、残りの3匹を連携して倒す。大丈夫?」
「ああ」
「了解」
ロフトお前妹にバカ呼ばわりとかされているけど、そこは気にしないのか。
「クリハラはスピード重視の戦闘っていうことだから奥のを、バカはパワータイプだから手前のを。私はその2匹以外のを燃やすから。最初にクリハラが突っ込んで敵の注意を引いて、その後私とバカが行く。」
「了解」
「分かった。」
一通り作戦を伝え終えるとそれぞれ別れて、草むらから様子を伺う。
俺の出るタイミングが攻撃開始なので慎重にキングフロッグの様子を観察する。
良し、今だ。
俺はそう思うと草むらから飛び出しダガーを握りしめながら一番奥にいるキングフロッグに向かっていく。
奥のキングフロッグは俺に気づいたようだが遅い!
跳躍しカエルの首もとへ素早くダガーで切り裂く。
ザシュッ
良し!確実にやった。
EXP35
レベル2になりました
頭の中に音声が流れる。
地面に降りるとすぐに体制を整えて後ろにいるキングフロッグにダガーを向ける。
キングフロッグ達がこちらを向いたと同時にロフトが草むらから飛び出し斧を降りかぶってキングフロッグを後ろから両断する。
それと同時にファイヤーボールが他の一匹をこがす。
キングフロッグ達も慌てるが、その隙に俺は最初に倒したキングフロッグのように2匹の首もとを続けてダガーで切り裂く。
EXP35
EXP34
レベル5になりました
すると、我に帰った最後のキングフロッグがロフトに飛びかかる。
「ロフト、逃げろ。」
「クソッ、抜けない。」
まずい、斧がカエルの背骨に挟まって抜けなくなっているのか。
リナもまだ魔法の詠唱ができてないのか打てない。
クソッ、間に合え。
俺はダガーを投げる。狙うは…足!
なにか投げる瞬間不思議な感覚がしたような気がした。
ザクッ。
良し、当たった。
キングフロッグは急に片足に痛みが入って力が入らなかったためか、まっすぐ飛ぶはずだったのが左に大きくそれてロフトから離れた場所に飛ぶ。
そこへリナのファイヤーボールがぶつかり燃やす。
EXP28
レベル6になりました
一度でも攻撃すれば俺にも経験値が入るのか
ふぅ、どうにか勝てた。
まさにギリギリ勝利だった。
最弱のモンスターでこれだとこの先大丈夫か。
俺は自分の冒険に強い不安を覚えるのだった。
戦闘が終わりロフトのもとへ集まる俺とリナ。
「ありがとぉおおおお。本気で死ぬかと思ったよぉーーー。お前は俺の命の恩人だ。」
ロフトが俺にすがって号泣してくる
「お前、俺の中のお前のキャラがぶっ壊れるからやめてくれ。引っ付かないでくれ。」
キングフロッグとの戦いが終わってからロフトはずっとこんな調子だ。そんなに怖かったか。
「ほら、いい加減離れる。」
リナが殴る。
ロフトが2メートルくらい飛ぶ。
なんか鳴ってはいけない音がしていた気がするが。ロフトも動かなくなった。
俺はキングフロッグよりお前の妹の方が怖いよ。
「ごめん、クリハラ。そして、ありがと。あんな兄でも家族だから助けてくれて本当にありがとう。感謝する。」
「いやいや、あのときは本当に上手くいっただけだからそこまで感謝しなくていいよ。それよりも、リナはケガはない?」
「うん。問題ない。」
「そっか、良かった。」
「クリハラ」
「なに?」
裾を引っ張てくるから、リナの方を向くと
「ごめん」
謝ってきた。
「えっと、どうしたの」
「私、最初クリハラのこと弱いと思った。バカはああ見えて『剣士』だから『裁定者』って聞いたときクリハラ弱いと決めつけていた。でも、動きや戦いはとても弱職の人の動きだとは思えなかったから自分の考えや思い込みを訂正したくなった。だから、クリハラに謝りたい。ごめんなさい」
「まぁ、実際弱職だって言われているしね。そう思って仕方ないよ。まぁ、こっちでもそれなりに動けることが分かって良かったよ。ありがとう、ほめてくれてうれしいよ」
素直にそう思った。
弱職だのと見下されていただけにリナから評価をもらえたことは嬉しく、自信になった。
「別に」
リナは顔を俺から背ける。
「これ、あげる。」
キングフロッグの核石を渡してくる。
「本当に良いの、君が倒した奴のだろ。小遣いの足しにでもすれば―」
「もらって」
有無を言わせないように俺の手に無理やり持たせる。
「じゃあ、ありがたくもらうよ。」
正直、後2匹キングフロッグと戦いたいとは思わなかったし。俺はもらえるものならもらう主義だ。
「ついでにこれもあげる」
「これは?」
リナはポケットから黒い結晶がついた首飾りを取り出し俺に渡す。
「記念に」
「分かった。ありがとう、大事にするよ。」
俺はもらった首飾りをかける。
「クリハラはこの後どうするの」
「俺はもう帰るつもり」
「そう。なら、ここで一旦解散。私はまだ少しやることがあるから」
「分かったよ。じゃあ、先にギルドに帰るね。またギルドで会うことがあったらよろしくね」
「うん、またね」
そうして俺達は別れ、俺はギルドへの帰り道に向かった。
俺の人生初のクエストは終わった。
キングフロッグは倒せたが、薬草採集はもう無理。
これ以上は精神が持たない。
薬草採集については途中リタイヤでいいや。
キングフロッグとの戦いで、俺のレベルは6にまでなった。
――――――――――――――――
クリハラが見えなくなったところでバカを起こす。
「おい、起きろ」
ゆさゆさっ。
「う~ん。女の子がいっぱい。うへへへへへっ。」
こいつっ。
腹に向かって全力で殴る。
「ぐはぁあ。た、たんま。死んじゃう。それ以上は死んじゃう」
バカはすぐさま起き上がり、私から大きく距離を取る。
私は仕方なく振りかぶった拳を下す。
「彼は違った。勇者特有の力も感じなかった。やはり、勇者たちは厳重な警備が敷かれているんだと思う」
そうするとバカは熟考し、やがて顔をあげると
「やっぱりな。城から出てきて一人でいたからもしかしたら勇者かなぁーって思ったんだけどな。」
「殺す?今なら追い付けるけど。」
「いや、いいんじゃない。『裁定者』はどんなに鍛えたって俺らには遠く及ばないし。それにリナちゃん。彼のこと結構気に入っちゃったでしょ。『黒棺』、しかもあそこまで純度の高い物あげるなんてねぇー」
「う、うるさい」
私が渡したあの首飾りは『黒棺』という魔道具で、所持者が死ぬとその死体を結晶の中に閉じ込めそれを与えたものの場所まで転移して持ってくるものだ。
純度が高いほど死んだときの死体の保存状態が良くなるし、死体が損傷していてもある程度は直してしまう。
「それにあなただっていつもなら討伐の手伝いなんてしないですぐに殺す」
「話しているとさ、結構面白いんだよ。俺も気に入っちゃんだと思う」
「ほら、早く帰らないと『憤怒』がうるさいからゲートをつないで」
「はいはい。彼を死霊術で蘇らせたらさ、俺にも貸してよ。いいだろ、リナリー・スロウス・キャンベル」
「分かったから早くして。ロフト・プライド・キャンベル」
そうして、魔王城へのゲートが開かれる。
二人の魔王、『怠惰』『傲慢』は帰っていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――
草原からギルドに着き、フェルミナさんに報告する。
「すみません。クエストの報告に来ました。」
「あ、はい。分かりました。しかし、ずいぶん早いですね。普通、2~3日はかかるのですが。」
「まぁ、薬草採集の方があまり上手くいかないのでやめようと思って。これがキングフロッグの核石5つと途中までですがノーマルリーフ4束です。」
「分かりました。では、これがキングフロッグ討伐クエストの報酬銀貨5枚にノーマルリーフ4束の買い取り銅貨40枚です。」
「ありがとう」
そう言って、裏門に戻るとすでに馬車はなかった。
俺は一人で城まで歩いて戻れってかよ。
あの王子は本当に人を不愉快な気分にさせるな。
もう堪忍袋の緒が切れそうだよ。
仕方なく、城に歩いて戻る。
門番に事情を話し、城の中に戻るのまでもひと悶着あったが、あんまりにもイライラしたので割愛する。
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