第五話【ジョンストン—砂藤電話会談】

『我々の国のマスコミはすっかり萎んでしまいましたが市民レベルでは反核戦争運動は過去形ではありません。日本、アメリカ、欧州だけでなく中東、南米、アフリカ、東南アジア諸国でもそういう声は無視できないほどの大きさになりつつあります』サトーは回線の向こうで言った。


「肝心な国の市民が抜けているところが気にかかる」俺は言った。


「しかし運動の有無や規模で賞賛と非難を決めるのは画一的に過ぎると私は考えています。果たして彼らに覚悟ある〝蛮勇〟があるのかどうか。核攻撃をチラつかされてそれでもなお平常心を保っていられるほどでなければ〝核廃絶〟など叶いません。だから私は非常に懐疑的です。非核保有国の人間がどこまでできるでしょうか? 核恫喝されれば『核恫喝国に譲歩し経済的恩恵を与えよう。そして一刻も早い緊張緩和を』などと言い出す者があっという間に多数派になるのではないかと、そう疑っていますよ。カネで安全は買えぬのだという現実が理解できない人間は未だにいるのです」

 そうサトーは俺に言った。

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