21.今がチャンスだ、カオスに乗じろ <2>

「うわっ、早いな。もう使えるようになってる」

「混乱するの目に見えてるもん、手続きも急ぐわよね」


 翌日、イステニオ村のあちこちに、棒に替わって石が新しいゴールドになるという貼り紙が掲示してあった。経済省もてんてこ舞いだろうに、迅速に対応している。


「これでこの村では、コインと石が使えるようになったってことですね」

 石が重かったんで減るのは助かります、と苦笑いするレンリッキ。


「道具屋に行って、少し補充しましょう」

 薬草のマークでお馴染み、道具屋。店の前のイーゼルには小さい黒板が立て掛けられていて、「石のゴールド、使えます!」と丁寧な文字で書かれていた。


「いらっしゃい!」

 明るいお兄さんがお出迎え。棚に並んだ様々な道具から、レンリッキは魔力回復に使うドワーフの水や毒消し草をまとめて手に取り、カウンターに置いた。


「はい、毎度!」

「えっと、支払い石でお願いします」


 リュックからゴロゴロと石を出すと、お兄さんは「へえ、これが新しいゴールドか」と興味津々の目で1つを手に取り、まじまじと眺めた。


「初めて見るからね。でも勇者さんも大変だね、ゴールドがコロコロ変わるなんて」

「いやいや、お互い様だよ」


 俺が手を横に振りながら返事していると、アンナリーナがレンリッキの横にずいっと出てきた。


「あと、この石もお願い! 全部10Gよ」

 ポケットから石を出して、カウンターに置く。あれ、いつの間にお前持ってたんだ?


「はーい、計算するね。あれ、でも他の石は銀色だけど、これは違うね。大きさも歪だし……」

「そ、そう? 色違いもあるみたいね。形はほら、きっと倒したモンスターががさつだったのね」

 これ以上ないほどに分かりやすいタイミングで口笛を吹くアンナリーナ。コイツは……


「……とりあえずアンナさん、ここは僕が持ってる分で足りるので」

 レンリッキが何事もなかったかのように彼女の石をどけて支払いを終えた。


「あのな。いつからお前はそんな金の亡者になったんだ」


 店を出てから、アンナリーナを問い質す。


「そんなんじゃないわよ。ちょっとラクしてお金が入ればなあって思っただけよ」

「完璧な亡者だよ!」

 その言い訳が何になると思ったんだ!




「でも、今度は棒のゴールドが要らなくなったわね……」


 モンスターを倒すために草原に出たところで、やれやれというように髪を後ろに払うイルグレット。そう、もうこの銅製の棒は必要ない。ハクエン村や、「まだ棒をゴールドと認めている村」でしか使えなくなってしまった。


「これを石かコインに換えれば使えるのに……」

「ねえ、シーギス、シーギス」

 アンナリーナがトントンと肩を叩く。


「アンタ、予言者みたいね!」

 彼女の指差した先に、「交換商」という札を立てたおばあさんがちょこんと座っていた。


「おばあさん、ここってひょっとして、ゴールドを変えてくれるんですか?」

「ああ、棒と石を換えてあげるのさ。アタシはハクエンにもイステニオにも行くから、どっちのゴールドも使うからねえ」


 レンリッキにニコニコと答える。

 ううん、村同士が近いから出来る商売とはいえ、石がゴールドになった日にもうこんな仕事が出来るとは……村の人は商魂逞しいなあ。


「交換手数料は1回100Gだよ」

「それ払っても、石に換えてもらえるならありがたいよ。じゃあ、もってる俸、全部換えてくれ」


 1000G近くある棒をバラバラとレンリッキのリュックから出し、おばあさんが座っている薄緑の敷物の上に広げる。

「はいよ、じゃあ100G引いて、と」

 目の前で計算して、1つ1つ確認しながら銀色の石に交換してくれる。

 うんうん、やっぱり商売は正直さが一番だ。


「はい、じゃあこれで終わりね」

「ありがとな、おばあさん!」

「あの、シー君、ごめんね」

 気持ち良く交換取引を終えた直後、イルグレットがちょっとバツの悪そうな表情を見せる。


「私、さっきの棒、結構綺麗で気に入ってたんだよね。だから、記念に持っておこうかなあと思って」

「ああ、そっかそっか。わかったよ。おばあさん、この石の幾つか、さっきの棒に戻してくれないかな」

「あいよ。手数料は100Gだね」

「これも交換に入るの!」

 ガッチリしてるなおい。


「じゃあ150G交換で、差し引き50G分だけこっちにくれ」

 おばあさんから手渡されたものを、嬉しそうなサモナーお姉さまに渡す。


「はい、これな」

「ありがと、シー君」

「シーギス、やっぱりアタシも棒のゴールド欲しくなってきた! おばあさん、交換お願い!」

「あいよ。手数料は100Gだね」

「一辺に済ませろよ!」

 そんでもってそろそろ手数料サービスする気になりませんか!


「ったく……」

 結局300Gも手数料を払って交換してもらい、おばあさんは「ありがとねえ」とお礼を言ってハクエン村に向かって歩いていった。


「まあ、石も手に入ったし、いいじゃない」

 イルグレットがなだめてくれるけど、手数料の3分の1は貴女のせいなのですよ。


「お兄さんお兄さん」

 そこに、声をかけてくるおじさん。荷車を見ると、中古の武具商らしい。


「なんだい、おじさん。武具なら今は買わないけど」

「ああ、いやいや。俺はこれからハクエン村に行くんだけど、棒のゴールドが必要でさ。お兄さん達、もし持ってたら石と交換しないかい? もちろん無料だよ」

「交換商に頼む必要なかった!」

 新しい商売に、迂闊に食いついちゃダメですね。

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