20.1つじゃないのさ <2>

「何、その石?」

 手に持った大小の石を見て、イルグレットが目を細める。


「ちょっと待って、当てるから!」

 相変わらず真っ直ぐにイノセントなアンナリーナ。レンリッキは無表情。


「んっとね、んっとね……新しい宝石か……? いや、違うな……分かった! シーギスが帰るときのドラちゃんへのお土産だ!」

「魔王倒してこんな石持って帰る勇者がいるか!」

 渡した瞬間に毒舌の嵐だよ!


「アンナさん、多分これ、新しいゴールドなんですよ」

「えっ!」

 レンリッキがため息混じりに説明する。


「フレイムコングが倒れたところに、これが落ちてました」

「なるほど、だから大小2種類、こんなにきっちりと分かれてるのね」

 イルグレットが腕組みをしながら苦笑いした。


「魔王のやつ、棒のゴールドで混乱させようと思ったのに、国であっという間に対策練ったから慌てて別のものに変えてきたんだな……」

「これでまた、国が石をゴールドとして認可して村々に通達するまで、混乱が続きますね」


 多分今回の棒の件で、手続き自体には慣れているはず。2~3日すれば、今度は宿屋も道具屋も石で支払えるようになるだろう。


 が、それでも絶妙にイヤらしいストレスだし、魔王の棲家に行くのも遅れるだろう。ホントに厄介だ……。


「どうするの、シー君? ドラりんに連絡する? 連絡して『なんだ、石なんか集めて。有名な魔力スポットの近くで採れた幸運が巡ってくる石とか言って騙し売りでもする気か』とかなじられる?」

「なんでみんなしてアイツの口真似覚えようとしてるの!」

 しかもちょっとずつ上手くなってるし!


「まあ、連絡する気ではいるけど、天候があんまり良くないからな。雨が降り始める前に、進めるだけ進んでおきたい。連絡するのはもう少し歩いてからにしよう」

「あ、それなら」

 レンリッキが元来た道を指差す。


「さっき地図で確認したんですけど、どうやら少し戻って脇道に入った方がイステニオ村には近いみたいです。そっちのルートで行ってみましょう」

「オッケー。アタシ達はレンちゃんに付いていくよ!」

 そして、来た道を少しだけハクエン村の方に引き返し始めた。と、歩き出して間もなく。


「わっ、ツインダイル!」

「また気持ち悪いのが来たわね……」


 嫌悪感を全面に表情に出し、アンナリーナが呪文を唱える。前にかざした手から炎の渦が走り、双頭のワニを包み込んでこんがりと焼き上げた。


 そして、いつものようにパンッと弾けて消える。後に残ったのは――。


「…………え?」

「あれ?」

「なんで棒なの……?」



 石ではなくて棒。おかしい。変わってない。



「ってことはやっぱり、さっきの石がゴールドじゃなかったんじゃない?」

 イルグレットがもっともな仮説を立てる。

「いや、でも確かにあの辺りには棒のゴールドは落ちてなかったぞ」

 アンナリーナが「じゃあ」と俺の返事に被せる。


「多分あのフレイムコングは、ゴールド無しのハズレだったってことね」

「今更そんなくじ引きみたいな説を!」

 ずっと「魂が持っていった」みたいなこと言ってた人が急にそれを唱えるか!


「どういうことだろう……変だな……」

 ずっと唇に手を当てて考えこんでいたレンリッキだったが、やがて顔を上げて口を開いた。


「ちょっとさっき石が落ちてたところまで行ってみてもいいですか?」

「ああ、俺も気になるからな。一緒に行こう」

 4人で、さっきフレイムコングを倒したところまで駆け足で移動する。

 空には、どう見ても雨を降らせる気満々の黒い雲が少しずつ増えていた。




「シーギスさん、右です!」

「任せろ!」


 ブォンと剣でなぎ払うと、2体いた鳥のモンスターのうち、1体の胴を綺麗に斬ることができた。とんでもない速さで襲ってくるキラーイーグル。


「シー君、助かるわ。1体になれば、私も十分狙える」

 イルグレットが弓を構えて放つ。もう1体の飛行先に合わせるかのように高速で飛んでいった矢は、完璧なタイミングで体に刺さった。


「イルちゃんお見事! さて、ゴールドは……」

 アンナリーナとレンリッキが一緒に探す。しばらくして、レンリッキがゆっくりと地面のものを拾った。


「石、ですね……」


 おかしい。間違いなく、さっきのツインダイルは棒を落とした。


「もう1回さっきの地点まで行くぞ」


 さっきワニを倒したところまで戻って別のモンスターを倒すが、今度は棒が出た。


「魔王に近いところから徐々に石に変わってるってことなのかしら」

 アンナリーナが首を傾げる。確かに、それならイステニオ村に近いあの場所で石が出たのも納得だけど……。


「ドラフシェに話してみよう。レンリッキ」

 彼から声霊石を受け取り、彼女に繋ぐ。


「おい、ドラフシェ、割と面倒な事態だ」

「『ごめんなさい、両親が、会うだけでも、って勝手に予定組んじゃって』と答えるしかないだろうな」

「お見合いなんか勧められてないよ!」

 どっから出てきたんだよその前提は!


「もっと面倒なやつだ。ゴールド関連の」

「ああ、分かってる。報告が来ているよ」


 まあそうだろうな。俺たちより先に、棒から石になってるのを発見している人もいるはずだ。


「ゴールドが茶色くて堅い木の実になっているということだろう? アマック村の近くにいる勇者から連絡が来たぞ」

「…………は?」



 何だそれ? 木の実?



「ひょっとして……」


 慌てて地図を開くレンリッキ。そして、自分自身に言い聞かせるように、ゆっくりと話す。


「さっき棒が出たのはハクエン村領、石が出たのはイステニオ村領ですね……」


「え、それって……」

「地域によって、出るゴールドが変わってる……?」


 俺達を嘲笑あざわらうかのように、強い雨が降り始めた。

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