18.使えなければ、ただの棒 <2>
「国からの命令……そんなの出来るのか?」
「必要があればせざるを得ないさ。そのためには、村のどこでも棒のゴールドが使えないことを確認する必要がある。シーギスルンド、お前の方がまだ使えるってことを確認しないとだな」
「…………ああ、じゃあ明日お店が開いたら確認するよ」
「シーギスルンド、お前の方がまだ使えるってことを確認しないとだな」
「なぜ2回言った!」
1回目は温情で聞かなかったことにしたのに!
「おい、ドラフシェ。俺に対する扱い、ちょっとひどくないか?」
「そうか? 昔からこんな感じで話していたと思うが」
「もしかしてお前、俺のこと好きなんじゃないだろうな」
「…………………………………………」
「黙らないで! 悪かったから!」
なんかものすごく侮蔑と同情が含まれた沈黙だったよ!
「とにかく、明日確認したらまた連絡するよ」
「ああ、頼む。もしどこでもその棒が使えないようなら、私の方ですぐに省に向けて緊急稟議をかけるからな」
通信を終わろうとすると、アンナリーナとイルグレットが同時にずいっと身を乗り出した。
「ドラちゃん、またね! 次も毒舌期待してるからね!」
「もっとシー君をコテンパンにしてあげてね、ドラりん」
「お前ら、つまんないこと言ってないでお礼しろ。経済省のエリートだぞ」
「2人とも、ありがとう。今日は少し優しすぎたな、次回はもっと厳しくいくよ」
「今日ので優しいの!」
お前と話す気分じゃないとか言われてましたけど!
「私の方では、その新しいゴールドへの切り替えについて稟議書を作っておくよ。じゃあ、また」
こうして、幼馴染との通信が切れる。
「さて、今日はもう寝るか。明日も忙しくなりそうだ」
「シーギス、この棒切れ、そおっと置くと立つよ! せっかくだからドミノでもしない?」
「しないよ! それは未来のゴールドなんだよ!」
お金で遊んじゃいけません!
次の日。4人で武具屋に言ってみたが、やはり棒のゴールドは使えなかった。「何だい、それは?」という感じで、宿屋のおばさん同様、見たこともないらしい。
「シーギスさん、どうします?」
「……一応道具屋も行ってみるか。道具は十分あるんだろ? 買えなきゃそのまま店出ようぜ」
武具屋の隣、薬草のマークの看板でお馴染みの店に入る。
「あ、珍しい、特薬草が売ってる! あの、すみません、これ5つ、頂けますか?」
レンリッキがカウンターに青々とした緑の草を置くと、お兄さんは「はいよ!」と笑った。
「450Gだね」
「えっと……これ使えますか?」
「何だい、これ?」
やっぱりか。まだこの村ではコインしか使えないんだな。
と、アンナリーナが俺の腕を掴んで後ろに引き、前に立った。
「お兄さん、この棒はね、新しいゴールドなの。これで買い物出来ちゃうんだから」
「あ、そうなんだ! じゃあこれでいいよ!」
「良くないよ!」
いや、そりゃ使えれば嬉しいけどさ! そんなに簡単に信じていいのかよ!
「ちょっとシーギス!」
顔を近づけて小声になる。
「このままいけばこの棒で押し通せるでしょ。うまくやれば金額もテキトーに誤魔化せるかもしれないのに。アンタ、それじゃパーティーのリーダーとして失格よ?」
「お前は人として落第だよ!」
騙して買った薬草で回復するなんて何かイヤだ!
「あれ、イルさんは……?」
レンリッキが気付いて店内を見渡すが、どこにもいない。
嫌な予感がしてドアの方に目を遣ると、外で見覚えのある煙があがっていた。
「おい、イルグレット!」
「どうしたの?」
彼女は、恐ろしく強そうな手の4つある
「召喚獣にもやっぱり棒は使えないみたいね。代償はコインで払ったわ」
「うん、別にそれは確かめなくても良かったんだぞ」
ほら、今俺達にとってコインで貴重じゃないですか。もう誰も落としてくれないじゃないですか。
「ダークアーマーのダー君。750G、高いわね」
「だからそんな高いの召喚するなよ! もっと安いヤツ呼べよ!」
さっきの特薬草買えるじゃん!
「イヤよ、最近ダー君と会ってなかったんだから。私だって寂しいのよ」
「恋仲か! 恋仲なのか!」
残コインをムダに900Gまで減らし、俺達は棒のゴールドが全く機能しないことを理解した。
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