9.なぜか多いよ、君のゴールド <2>

「よし、これで次の村でも大丈夫そうだ!」

「私も、2発同時の射出は嬉しいわ」


 ゴールドが戻ってから数日後。連日、日がな一日モンスターとのバトルに明け暮れていた俺達は、まだ宿屋に居候している武具屋のおじさんに会い、鋼の剣とデュアルアロー、そして以前買ったものより幾分性能の良い防具を手に入れた。


 値下がりしたままの価格で買ったけど、おじさんにモンスターの異常が治った話をすると「よしっ!」とガッツポーズする。


「これですぐに値段を戻して売っていけば、店が持てるぞ!」

「いや、おじさん、俺も経済省の知り合いに聞いたんだけど、今すぐに値段戻しても、いきなり売れ出すとは限らないみたいだよ」

「大丈夫だ。最悪、柄の部分だけ先に売るさ」

「なんか聞いたことある売り方!」

 どこの村でも考えることは一緒ですね!




「道具も買ったし、この酒場で一発景気づけといくか!」

「良いと思います!」

 アンナリーナが両手を挙げて賛成アピール。


 まだ日の高い昼間のステップトン村は、明日の朝市の準備だとかで村全体が活気に溢れている。

 俺達は武具屋の後、家を手放した道具屋の主人が働いているあの酒場で、薬草などの道具を大量に買った。お金に少し余裕ができると、精神的にも大分楽になる。


「この店も大分お客さんが落ち着いてきたような……」

 案内されてテーブルに座ると、店員さんがボールペンで「そうなんですよ!」と俺を指した。


「閉鎖してた3店舗のうちの1店舗が営業再会したってことで、ようやく元に戻りました。今日はゆっくり食べて頂けますよ。ヘンな話ですけど、モンスターさまさまですね!」

「モンスターさまさまか」


 平和を脅かすモンスターのお金が戻ったおかげで生活が安定するなんて、ホントにヘンな話だ。


「で、注文は、と……じゃあ野菜と果物のミックスジュースを4つと……お前ら、他に何かあるか?」

「アタシ、これ気になる! 魔法使い料理人の、気まぐれ魔法調理サラダ!」

「全然美味しそうじゃないのがすごいな」

 なんなの、気まぐれ魔法調理って。


「私はこれがいいわね。サモナー料理人の、気まぐれ召喚獣」

「は? え? 何それ? 料理なの?」

「かしこまりました!」

 俺の疑問は流されたまま、女の子の店員さんは元気に厨房に戻っていく。


「レンリッキ、食べたらタストナ村に向かうって感じでいいよな?」

「そうですね。新しい武器も買ったし、アンナさんも新しい魔法着々と覚えてるし、タストナまでの草原は問題なく突破できると思います」


「ふっふっふ、レンちゃんの言う通りよ。アタシ、昨日も新しい魔法覚えたんだから。なんと、敵の落とすゴールドをちょっとだけ増やす魔法よ!」

「このタイミングで!」

 もう少し早くマスターすることは出来なかったんでしょうか!



「お待たせしました! まずジュースになります!」

 店員さんがお盆から下ろしてくれたグラスを4人で掲げる。


「それでは、タストナ村への無事な冒険を祈念して、乾杯!」

「かんぱーい!」

 うん、美味い! お金に心を悩ませないで飲むジュースは最高だ!


「続いてお料理お持ちしました。気まぐれ魔法調理サラダになります」

 コトッと置いた皿は見事に空っぽ。

「……え、これは何、今から何かが飛び出すの?」


「いいえ、今日は気まぐれで仕上げに消滅魔法使ったので」

「なるほど、それで何も乗ってないのね!」

「アンナリーナ、ここは納得するところじゃない」

 これまさか代金取らないだろうな。



「あと、こちら。サモナー料理人の、気まぐれ召喚獣になります。今日はソードホークになります。刀を持った鳥人ですね」

 そう言って、男の店員さんがソードホークを抱きかかえてきた。ジタバタと暴れている。


「うん…………うん…………ん?」

「はい、気まぐれ召喚獣は以上になります」

「終わり!」

 まさかの観賞用!


「ちょ、ちょっと待って、え、ホントに見るだけなの!」

「あ、いえ、もちろん、ご飯を注文して食べさせてあげることもできますよ」

「さらに追加料金が!」

 なんで客が自腹で養うシステムなのさ。


「可愛い召喚獣ね。じゃあ私ね、この魚と食用花のグリル、それから焼きたてデニッシュをあげるわ」

「ご注文ありがとうございます!」

「イルグレット、先に俺達が食べるもの!」

 空っぽの皿と鑑賞用モンスターしか頼んでないんだよ!




「ここからまた4日くらいは歩くな」

「そうですね。4日で行ければ相当早い方だと思います」


 レンリッキが苦笑いする。ステップトン村を出て、広々とした草原へ。目的地に向かう先は起伏が激しく、歩くだけでも重労働であることがうかがえた。


「結構キツそうな道のりですから、腹ごしらえ出来て良かったです!」

「ソードホークのおこぼれだけどな」

 結局、イルグレットが気まぐれ召喚獣に頼んであげた料理の余りをもらうという、人間としての尊厳が危ぶまれるような食事でお腹を満たした。


「よし、じゃあタストナ村に出発! って、あれ、ソードホークだ」

 剣を勢いよく振り回しながら一直線に飛んで向かってくる鳥人を、アンナリーナが見つける。


「さっき酒場にいたのに、逃げ出したのかな」

「アンナちゃん、あれは純粋な敵だと思うわよ……」

 イルグレットにツッコまれる。あの攻撃態勢見れば分かるでしょうが。


「さっきの召喚ホークへの恨みつらみも込めて、俺が行くぞ!」

 あんなモンスター鑑賞で余計な金取りやがって、しかも俺達より先に食事しやがって、許せん!


「うおりゃああっ!」

 飛び上がって、上から串刺しにするように突き刺す。怒りのおかげか、バッチリ急所を捉えたらしく、二撃目を繰り出す必要はなかった。


「シーギスさん、やりましたね。ソードホークは20Gですから、結構高いですよ!」


 レンリッキが小さく拍手して喜ぶ。パンッという音と共に消える敵、続いて草むらにコインが落ちる音。



「本当だ、結構高いな。10G硬貨2枚……に…………1G硬貨が6枚…………?」


「……なんで増えてるの……?」


 イルグレットの声が、やけに遠くに聞こえた気がした。

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