大坂の夢

ニュー侍

第1話 長い夢の始まり

 3月、勉学を励む学生たちにとっては期末試験があるとても大切な月だ。石田秀幸いしだひでゆきは日本史のテストに出題される範囲を一夜漬けで勉強していた。出題範囲は主に戦国時代の終わりのことだ。具体的には豊臣秀吉が亡くなってから徳川家康が亡くなるまでがテストの範囲だった。日本史は暗記科目なので秀幸も関連するキーワードを頭にたたき込んでいた。

 

 「関ヶ原の戦い、石田三成、敗れる・・・。大坂の陣、豊臣家滅亡・・・。覚えること多いなぁ。歴史なんて勉強して意味があるのか。」と秀幸は思った。そう、秀幸は日本史の授業が大嫌いだった。出てくる人物の名前は漢字が難しいし、何年に何が起きたのかなどを覚えなくてはならない。

 

 「日本史なんか絶対に役に立たないのに・・・。なぜ、勉強させるのだろう。数学だって同じだ。勉強なんか大嫌いだ!」と鉛筆に力が入りすぎたのか、鉛筆は大きな音をたてて折れてしまった。

 

 勉強のやる気が出てこなくなった秀幸はベッドで漫画を読み始めた。日本史のテストは完全にあきらめたようだ。漫画を読み終えるともう日付が変わる時間だった。秀幸は目覚まし時計をセットもせずに寝てしまった。

 

 秀幸は目が覚めた。カーテンを開けると日差しがまぶしい。目がしっかりと開いたところで時計を見ると午前8時を過ぎていた。

 

 「やばい、遅刻する!母さん、なんで起こしてくれなかったの!!!」と大きな声を出しながら学校へ行く準備をした。

「秀幸、まだ学校へ行っていなかったの?もう行っているのかと思ってたわ。」と母は優しく応えた。

「うわー、もう最悪。急がないと。朝飯いらないから。行ってきます!」と秀幸。

「いってらっしゃい。あせらずに学校へ行きなさいよ。車に気をつけてな。」と母。

 

 秀幸は自転車で学校へと通っている。いつもならゆっくり行っても大丈夫だが、今日はテストなので急いで学校へと向かっていた。学校近くの交差点。この横断歩道を渡ればもう学校だ。テスト開始時間が迫っていた。遠くから信号を見るとラッキーなことに信号は青だった。しかし、近づくと点滅し、秀幸が横断しようとするころには赤になっていた。

 

 「ププーーーー!」と大きなクラクションの音、「キーーーー!」というブレーキ音。

 

 秀幸は車にはねられて気を失ってしまった。頭を強く打ったようだった。交差点の近くにいた人が電話で救急車を呼んで、早急な救急活動が行われたため、命は助かった。しかし、秀幸は気を失ったままだった。

 

 病院には秀幸の母がやってきた。

 

「先生、秀幸は、秀幸はだいじょうぶなのでしょうか」と大きな声で言った。

「安心してください。命に別状はありません。ただ、ちょっと長い夢を見ることになるかもしれません。」と医者。

「長い夢とは・・・。」

「私にもわかりません。ただ、夢を見終わったとき、彼は目を覚ますでしょう。」

 

 秀幸は森の中にいた。周りは木に囲まれている。いつも見慣れている景色ではないことに気付いた。


「ここどこだろう。テストはどうなった。そう言えば、頭を打ったような気も。」


 秀幸は森から出ることにした。歩き進んで行くと声が聞こえた


「そこにいるのは誰だ!」

 

 秀幸は人の声が聞こえた方へと進んだ。歩いていくと甲冑を着た兵が10人くらいいた。兵は秀幸を見ると言った。

 

「おい、そこの怪しい者。お前は徳川の偵察か!」

 

 秀幸は混乱した。徳川?この人たちは何を言っているのか?

 

「ちょっと待ってください。徳川って何ですか?」

「聞かれなくてもわかっているだろう。やはり、徳川の偵察のようだな。」

「ちょっと、ちょっと待ってください。」

「徳川の偵察をここで成敗だ!うぉおおおおーー!」

「やめてください。私は徳川の偵察ではありません!」

 

 大きな声で秀幸は言ったが兵は攻めてきた。秀幸に逃げ場はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る