物言わぬ幽霊

kc

第1話

「ねえユウコ、幽霊って信じる?」

 下校途中、マキは話の途中で少し考え込んだかと思うと、いきなりそんな事を聞いてきた。それまで、やたらうるさいサエコとか、1年の終わりに転校していったレイナの話をしていたのに、一体どこから幽霊が出てきたのか。話が変な方に逸れるのは、マキには良くある事だけど、今日のこれは、特に強烈だった。

「うーん、微妙だけど、あまり信じてない、かな」

 この質問をされると、多分その時の気分で、答えのニュアンスが変わると思う。TVで心霊特集を見た後は、ああ、やっぱり幽霊なんて作り話なんだって気分になるし、友達が迫真の演技で霊体験を喋っているのを聞いた後は、幽霊の実在をちょっと信じちゃってると思う。

 いずれにせよ、あたし個人としては、幽霊とか、そういうオカルト方面にあまり興味があるわけでもなかった。

 そもそも、あたし自身は、幽霊を見た事も、霊の仕業だと疑いたくなるような現象にも、遭遇した事がない。だから、幽霊を心から信じるなんて事は、さすがに出来ない。それでいて完全に否定しない理由は、正直なところ、自分でも良く分からない。理由なんて無いような気がする。

「でも、どうしたの?いきなり幽霊とか」

 マキは、その先を言うかどうか、少し悩んでいる様子だった。

「幽霊を見た——ような気がする」

「見た、気がする?」

「はっきり、しっかり見えたわけじゃないのよ。こう、端っこの方に、それっぽいのがチラッと居たような……」

「気のせいじゃないの?」

「かもしれないけど、一回だけじゃないの。ここ最近、急に、何回も。だから、気持ち悪くって」

 マキは真顔だった。こんな嘘をつく子じゃないし、幽霊かどうかはともかく、何かしら変なものを見たのは間違いないのだろう。

「いつも同じ人?」

「たぶん。顔はちゃんと見えてないけど、服装が同じみたいだから。白っぽいシャツとスカートに、青いカーディガンか何か。あ、あとたぶん、髪型も同じ」

「顔は見なかったの?」

「無理。チラッとだけ見えて、そっちの方を向いても、何もいないの。だからもう、本当に気持ち悪くって」

 要するに、それが幽霊であれ人間であれ、ストーキングされてるわけね。確かに気持ちいいものではない。いずれにせよ、あたしが何か手助け出来そうな事ではなさそうだけど。

「で、どうするの?正直、あたしじゃ力になれそうにないけど」

「とりあえず、こういうのに詳しい人に——」

 と、こちらを向きながら言いかけて、そのままマキは引きつった顔で固まってしまった。

「今、いた」

「え、どこに?」

「ユウコの顔の、後ろの方。道の反対側のあたり」

 ゆっくりと、振り向いてみる。しかし、やはりと言うか、何も見えない。

「もう、見えないのね?」

「うん、一瞬だけ見えて、ユウコの髪に隠れちゃったと思ったら、そのまま」

 これを聞いて、背中をスッと冷たいものが走った。

 その人には見えても、 あたしには何も見えないし、何も感じない。こんな事は、これまでに何回かあった。中学の修学旅行で、古びた旅館に泊まった時とか、いつだったかのキャンプの時とか。正直なところ、幽霊が見えようが見えまいがどうでも良かったから、あたしを置いて周りの子が騒いでいても、特に何も思わず、軽く流していた。

 なのに、なんで今日のこれは、こんなに気味悪いのか。なんか、理由も分からず不気味で、気持ち悪い。

 マキを見ると、顔が少し青くて、落ち着きがない。

「どうする?とりあえず、今日はマキの家まで一緒に帰る?」

 マキはちょっと躊躇ためらったけど、「ごめん、今日はお願い」と答えた。

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