魔王同士の争いには興味ありませんが暇なので各方面に喧嘩を売り世界を荒らしましょう
鬼怒川鬼々
第1話
真夜中。とある森林内。
「嫌だぁ! こっち来ないでよぉ!」
星々が煌めく夜天の下。
柔らかい夜風に乗ってどこからともなく悲鳴が響く。
「……」
水辺の巨石に腰を下ろし小川のせせらぎを堪能していた黒髪黒目着物姿の女性は静かに飛び降りる。かちゃり、と腰に提げた刀から音が鳴った。
「あっち行って! 行ってたらぁ!」
何とはなしに悲鳴が聞こえた方へ足を進めた女性は程無くして開けた空間へ辿り着く。
「あぁもううるせぇな!」
「嫌だぁ! 来ないでったらぁ!」
視界に映ったのは開けた尻餅をついた蘇芳色の髪と眼が特徴的なワンピース姿の可愛らしい少女と、少女に詰め寄る鎧を着た緑色の醜悪な人形の小さな生物が六匹。
「大人しくついてこい! あの糞骸骨のせいで人手が足らねぇんだからよ!」
「嫌だぁ! 離してよぉ! 誰かぁ!」
ゴブリンの手が少女の肌白い手を掴むと一段と大きな悲鳴が上がる。
「あぁもう! 本当に一々うるせぇガキだな!」
「もう、無理矢理黙らせちまわねーか?」
「だよな。性的暴行は加えるなって言われてるけど、それ以外は禁止されてねーんだし。そもそも甘い対応してたらこれなんだから、力強くでわからせないとダメだろ」
そうだそうだと二匹のゴブリンの提案に他のゴブリン達も同意する。
するとそれもそうだなと、少女の腕を掴んでいるゴブリンも仲間の意見を聞き入れ手を振り上げた。
咄嗟に眼を瞑る少女。
だが、少女の行動とは裏腹にゴブリンの手が少女に振り下ろされることはない。
疾風。そう表現するしかない速度で女性は一気に距離を詰めると抜刀。
刹那。六匹全員のゴブリンの頭が吹き飛び、体がごろんと地へ転がる。
一瞬。それは本当に一瞬の出来事。ゴブリン達は己の死を悟ることなく絶命した。
「……?」
いつまでも痛みを感じないことに違和感を覚えたのか少女は眼を開ける。ひっ、と切断面から血液を多量に流す頭部を失った体を黙視した少女の口から小さな悲鳴が漏れた。
「大丈夫ですか?」
「え……?」
労るような声に少女は振り向く。
交差する蘇芳色と黒色。
星明かりと月明かりが降り注ぐ中。
その者達は見る者が見れば幻想的な光景と称するだろう運命的な出逢いを遂げる。
だがそれは始まりに過ぎない。
片や全てを混濁させる事に長けた混沌たる者。
片や気に入った者に静かに忍び寄る這い憑きし者。
一つの星を取り合う二人の魔王より遥かに
善がなければ悪もない。悪化しなければ好転もしない。ただその星に残される生きとし生きる者達の中に言いようもない感情を残すだけの、そんな混沌とした未来へ。
星は突き進む。
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