恋文(ラブレター)

神木 ひとき

恋文(ラブレター)

冬の足音が近づいているのがわかった。

色づいた街路樹の葉が冷たい北風に揺れている。


銀杏の落ち葉が積もり重なっている歩道を、学校へ行くために駅に向かって歩いていた。


マフラーはしているけど、制服のスカートから出ている生脚は否が応でも寒さを感じてしまう。


女子高生も楽じゃない‥

心の中でそう思ってみたけれど、やっぱり可愛く見られたいからスカートの丈を少し短めにしてしまう。


駅に着くと改札を入って、上りの新宿方面へのエスカレーターを上がった。


ホームには沢山の人が整然と列を作って電車が来るのを待っていた。

到着した小田急線の車内は各駅停車とはいえ、いつものように通勤、通学の人々で混雑していた。


豪徳寺駅で電車を降りて改札を出ると、乗り換えのため少し離れた世田谷線の駅へ歩いた。


世田谷線の駅名は豪徳寺ではなく山下というのだけれど‥

何でなんだろう?


2両編成の路面電車によく似た車両に乗って、学校のある三軒茶屋を目指した。


小さな電車の車内は沿線に区役所があったり、学校も多いので結構混雑している。


つり革につかまって、ぼんやりと車窓の景色を眺めた。


こんな高校生活で良いのだろうか?

毎日が何事もなく過ぎていく‥

そう思ったら憂鬱な気分になった。


世田谷線終点の三軒茶屋駅を降りると学校までは歩いて5分程で着く。


高校は幼稚園から大学まで同一敷地内にある私立の女子校ということ以外はごく普通の学校だと思っている。


昔から女子校に憧れていたという理由だけでこの高校を選んだ。


実際に入学してみると、高校から入学したわたしは、附属組と言われる中学やその前からいる子達とは上手く人付き合いが出来ないでいた。


「おはよう、和加奈わかな


「おはよう真衣まい


いつものように声を掛けて来たのは同じクラスの篠原真衣しのはらまいだ。


真衣も高校から入学したので、附属から来た子たちとは、馴染んでいなかった。


そんな理由から、真衣と自然と話すようになって仲が良くなった。


「相変わらずだね和加奈は」


「相変わらずで悪かったわね」


「朝からつまらなそうな顔してるよ」


「そんなことないよ‥」


「そうかな?」


「ただ‥何だか毎日が平凡で退屈なだけ」


「退屈って‥学校なんて退屈だよ、来月は期末テストだよ、少しは勉強してるの?」


「勉強はちゃんとやってるよ‥真衣」


「まあ、和加奈の言うこともわかるけどね‥女子校ってもっと楽しいと思った。友達もいっぱい出来てさ」


「そうでしょ?わたしもそう思ったんだよね」


結局、真衣と話すことは決まって女子校生活に対する愚痴になってしまう‥

ドラマのような華やかな女子校の世界なんてないんだ。


そんな話をしながら教室に入って行った。





その日も授業が終わると、部活をしていないから早々と帰る支度をしていた。


「真衣、一緒に帰ろうよ?」


「ごめん和加奈、わたし今日ちょっと用事があるから先に帰るね」


そう言うと真衣は先に教室を出ていった。


仕方なく、しばらくしてから一人教室を後にして、三階の校舎の廊下から階段を降りようとした時、廊下に何かが落ちているのに気がついた。


「何だろう?」


拾い上げると、それはピンク色の洋形封筒で封がしていなかった。


封筒を反対にひっくり返してみると、表には住所と宛名が書いてあり、如月巧きさらぎたくみ様と記されていた。


辺りを見回したけれど誰もいなかったので、封筒を制服のポケットに入れると階段降りて昇降口で上履きからローファーに履き替えた。


校門を出てると、いつものようにまっすぐ三軒茶屋駅に向かった。


秋の日は釣瓶落つるべおとしと言うけれど、太陽はかなり傾いて肌寒い夕暮れだった。


小田急線の狛江駅から程近い場所にある八階建てのマンションがわたしの住んでいる家だった。


小学校五年生の時に両親が離婚して、母に引き取られここに引越して来た。

それ以来わたしの姓は母方の双葉ふたばになった。


一人っ子なのと母が仕事をしているので家に帰っても誰かが待っている訳じゃない。


家に戻ると制服を着替えてボンヤリと机に向かった。


今日も何も無かったな‥

部屋の窓から見えるすっかり暗くなった景色を眺めながらそんなことを考えていたら、さっき学校で拾った封筒のことを思い出した。


クローゼットに掛けた制服の上着のポケットから封筒を取り出した。


封筒をまじまじと見ると綺麗に整った文字で住所と宛名が書かれていた。

差出人は高山綾乃たかやまあやのと記されていた。

住所を見ると、以前住んでいた住所の近くだった。


「やっぱり‥」


彼女はあの高山さんなんだ‥


好奇心から封筒の中を見たくなって、封筒から便箋を取り出した。


封筒と同じピンク色の便箋を開くと、やはり整った綺麗な文字が並んでいた。


如月 巧 様


突然の手紙であなたは驚いていると思います。

わたしはあなたを電車の中で見かけて、一目惚れをしてしまいました。

毎日あなたと同じ電車に乗って学校へ行くことが、わたしにとって、とても幸せな時間なんです。


最近、寝ても覚めてもあなたのことばかり考えてしまい、何も手につかないんです。


思い切ってあなたに想いを伝えることにしました。直接あなたに告白する勇気が無かったので手紙を書くことにしました。


自宅の住所は帰り道にあなたを偶然見かけて後をつけて調べました。


失礼なことだとはわかっていますが、他に方法が見当たらなかったので許して下さい。


もし、こんなわたしでも良かったら返事を貰えたら嬉しいです。

一度会ってお話ができたらって思います。部活のテニス頑張って下さい。


高山 綾乃



何これ?

もしかしてラブレター?


あの高山さんが‥

こんな手紙を書くんだ?


高山さんは同じクラスで、成績優秀、容姿端麗の付属組のリーダー的な存在の子だった。


封筒に書かれた高山さんの住所から、彼女が同じ小学校だった高山綾乃さんだとわかった。


一緒のクラスになったことはなかったけれど、家がお金持ちでその頃から目立った存在の子だった。


わたしは両親の離婚を機にその小学校を転校してしまったのと、彼女は中学からの付属組だったので、今まで彼女と話しをしたことは殆ど無かった。


大体、苗字が変わったわたしのことを覚えているかどうかもわからなかった。


この手紙をどうするべきなのか?

高山さんに返した方が良いとは思ったけど、直接返すことを躊躇ためらった。


高山さんはプライドが高そうで、何か言われても面倒だし‥


宛名の如月巧きさらぎたくみってどんな人なんだろう?

あの高山さんが好きになったという彼に興味をいだいた。


「テニスの部活のことが書いてあったけど、彼はテニスをしてるんだ‥」


‥ちょっと調べてみよう。


明日の予習を済ませると夕飯の準備に取り掛かることにした。


母が仕事から帰ってくるのが8時頃なので、それまでに夕飯を作るのが日課になっている。


8時を少し過ぎて、いつものように母が帰宅した。


「お帰りなさい、お母さん」


「ただいま、和加奈」


「今日のご飯は頑張ったよ」


「そう、楽しみにしてるね、着替えたら一緒に食べようよ」


母はそう言って自分の部屋に向かった。


しばらくして着替えを済ませた母がリビングに戻って来た。


「わあ!和加奈、すごいね」


母がテーブルの上に並べられたお皿を見て声を上げた。


「うん、今日は和食だよ、キンピラ、肉じゃが、ほうれん草のごま和え、お豆腐となめこのお味噌汁、さあ食べようよ!」


「いつもありがとうね」


「ううん、わたしこそ、ちゃんと学校行かせてもらってるし」


「和加奈‥あなた本当いい子だね」


「そうでもないよ、お母さんには感謝してます。いただきます」


平日は夕食の時間が母との唯一の会話の機会だった。


「学校どう、相変わらず楽しくなさそうね?」


「まあね、何か想像してたのと違うんだよね」


「だからお母さん言ったじゃない、共学の方が絶対に楽しいよって」


「そうだけど‥行ってみたかったんだよね女子校って」


「お母さんは共学だったからあまりわからないな、女子校って出会いがないでしょ?」


「出会いって?」


「出会いと言えば普通は男の子でしょ?」


「そんなのある筈ないよ、さすがに女子校に男の子はいないからね‥」


「和加奈は部活もしてないから、何かやったら良かったのに」


「私立に入れてもらったから部活はいいよ。それにやりたいことも無いし」


「中学では一生懸命テニスやってたじゃない?」


「友達がみんなやってたからだよ、もう熱が冷めたんだ‥」


「そうなの?せっかく都大会まで行ったのに、もったいないって思うけど、今からでもまた始めたら?」


「部活だってお金か掛かるから、もう良いんだよ」


「お金は何とかなるよ、お母さんこれでも課長なんだから」


「いいの、こうやってお母さんと話す時間も無くなるから、それより高山綾乃さんて覚えてる?」


「高山綾乃さん?」


「そう、世田谷に住んでた時の小学校にいた子なんだけど」


「同じクラスだったの?」


「ううん、一緒になったことはない、勉強が出来て、目鼻立ちがハッキリした子、家がお金持ちで‥」


「ああ、お父さんがPTAの会長やってた子かな?」


「そうそう、その高山さん」


「その子がどうかしたの?」


「同じクラスにいるんだ」


「へ~っ、仲良いの?」


「話したことない‥多分向こうは覚えてないと思うよ」


「そうなんだ、じゃあ何でそんなこと訊くの?」


「別に、何となく‥」


「そう、和加奈、ご馳走様、片付けお願いしてもいいかな、お母さんは洗濯するから」


「洗濯なら、もうやっておいたよ、お風呂入って寝ても大丈夫だよ」


「和加奈‥あなた、わたしと違っていい奥さんになるよ」


「相手を探す方が先だよ‥」


「そりゃそうだね」


そう言って母は笑った。


次の日、学校へ行く途中で真衣を見つけて背中を叩いた。


「おはよう真衣!」


「おはよう和加奈、今日は機嫌が良さそうだね?」


「うん、ちょっと面白そうなことがあってね」


「面白そうなこと、何それ?」


「まだ秘密、今度話すよ」


「ふ~ん、わかった」


真衣はそう言うと、昨夜のテレビドラマの話を始めた。



その日も授業が終わると、急いで帰宅する準備をした。


「和加奈、もう帰る?一緒にお茶して行こうよ?」


「ゴメン!ちょっと行きたいとこあるんだ」


真衣にそう言って足早に学校を出ると、手紙の宛先の住所を目指した。


三軒茶屋から世田谷線に乗って上町かみまち駅で降りた。

この駅で降りるのは初めてだった。


高山さんの住んでいる最寄りの駅は、以前に住んでいた京王線の桜上水駅だから、手紙にある彼と一緒の電車はこの世田谷線に違いない。


スマホを見ながら彼の住所を探した。

小さな商店街を抜け、世田谷城址公園から程近い、決して大きくはないけれど、立派な一軒家が彼の家らしい。


如月という表札が門に掲げられていた。


「間違いない‥ここだ」


よくよく考えてみたら、興味本位でここまで来てしまったけど、後先を考えなかった自分の行動を後悔した。


インターホンを押すことも出来ないし、かと言って彼をここで待っている訳にもいかない。


だいたい彼がテニスの部活をしているとしたら、まだ帰って来てはいないだろう‥


高山さんはどうやって彼の名前と部活のことを知ったんだろう?

その疑問の答えも見つからなかった。


仕方がない‥

その場を離れて上町駅に戻ることにした。


上町駅で下高井戸方面のホームに入ると、ベンチに座ってポケットから封筒を取り出して何気なく眺めていた。


「わたしは何をしてるんだろう?」


明日、手紙を高山さんの机の中にそっと入れて返そう、そうすることが一番だと思った。


電車がホームに入って来たので、手紙をポケットに入れようとした。


その時、封筒が手から離れて風に飛ばされ、数メートル先のホームの地面に落ちてしまった。


「あっ、手紙!」


慌てて封筒を拾おうとしたけれど、ホームに入って来た電車から降りる人波に阻まれて、すぐに拾いに行くことが出来なかった。


気がつくと封筒がホームから無くなっていた。


「あれ?手紙が‥無い」


ホームの地面から目線を上げると、電車から降りて来たと思われる制服姿の男の子が手紙を手に持っていた。


仕方なくベンチから立ち上がると彼の元に歩み寄って、


「すいません。それ、わたしのです」


と彼に声を掛けた。


その男の子は背が高くて、色黒でとても爽やかな顔をしていた。


「あの、返してもらえますか?」


彼は封筒を見ながら不思議そうな顔をしていた。


「これ君が?」


「そうですけど‥」


「どうして?僕の名前が‥」


「‥ま、まさか」


彼の表情と言葉から、顔から血の気が抜けて絶望的な気持ちになった。


よく見ると彼はラケットバッグを背負っていて、そのバックには池尻大橋にある都立高校の名前と、テニス部如月巧と刺繍がされていた。


彼が如月巧なんだ‥

高山さんはラケットバッグを見て彼の名前がわかったんだ。


わたしは頭が真っ白になった。


「これって僕に?」


「いえ、その‥」


わたしは上手い言い訳が見つからなかった。


「あの、その‥はい」


仕方なく、そう返事をしてしまった。


「読んでもいいのかな?」


「‥どうぞ‥」


そう答えるしか無かった。


彼は封筒から便箋を取り出すと、ベンチに座って手紙を読み始めた


手紙を読んでいる彼を見ていると恥ずかしくなった。

わたしが書いたものではないのに、わたしが書いたような気持ちになっていた。


彼、如月君はそのくらい、女の子だったら誰でも振り返ってしまう素敵な容姿をしていた。

高山さんが彼に好意を持った理由をすぐに理解することが出来た。


彼は手紙を一読すると封筒に便箋をしまった。


当然、彼から手紙を突き返されると思った。


「手紙ありがとう、嬉しいな‥僕なんかで良いのかな?」


「それ、どういう意味ですか?」


彼の予想外の言葉に驚いて質問した。


「どういう意味って、僕のこと好きになってくれたんでしょう?」


「その‥うん」


わたしは小さく頷いた。


「だったら、今度一緒にどっか行かない?」


「はい、‥喜んで」


何言ってんだろ‥


「良かったら君の連絡先を教えてくれないかな?」


「連絡先‥」


拒む理由が見当たらず、スマホの番号とメアドを彼に教えた。


幸いにもメアドに名前などは使って無かったから、本当の名前がバレることはないと思った。


彼もスマホの番号とメアドを教えてくれた。


「あの‥如月君」


「何だい?」


「如月君って何年生?」


少し大人びた彼の表情から、わたしより絶対に年上だと思った。


「一年生だよ、高山さんは?」


「わたしも一年生‥」


如月君は同級生なんだ‥


「高山さんって学校は三軒茶屋にある付属の女子校だよね?」


「えっ?」


「その制服、そうでしょう?」


「うん、そうなんだ」


頷いて返事をした。


しばらく駅のベンチに座って話しをして、彼と別れて世田谷線に乗ると、彼がホームから見送ってくれた。


一人になった電車の中で大変なことになってしまったと思った。


どうしよう‥

まず第一に、わたしは高山綾乃じゃない。


第二に、わたしは彼に好意を持ってしまったみたいだ。


第三に、彼もわたしのことを好きと言ってくれた‥

いや、これは単に揶揄ってるのかも知れない。


第四に、このことが高山さんにバレたら大変なことになる‥


これが一番の問題だった。


狛江駅で小田急線を降りると、駅前のスーパーに寄って夕飯の食材を買って家に帰った。


自分の部屋に入って制服のまま机に向かうと大きくため息をついた。


これからどうしよう‥

そうだ、今から彼に電話をして本当のことを言えば良いんだ。


スマホを手に取ってアドレス帳からさっき登録したばかりの彼の番号を開いた。


その時、彼からメールの着信があった。


『家に帰って君からの手紙を読み返しています。君の気持ちが嬉しくてメールをしました。運命の出会いってあるんだなって‥君のことがもっと知りたいです。これからもよろしく!テニスとか興味あるかな?良かったら今度一緒にやりませんか?』


如月君‥

どうしよう?

思わず深い大きなため息をついた。


実際実際

わたしも彼のことがもっと知りたかった。


次に彼に会った時に本当のことを言えば良いか‥


『わたしも如月君のことがもっと知りたいです。テニスいいですね、今度、是非お願いします』


そう返信をした。


明日の予習をし終わると夕飯の支度を始めた。献立は豚の生姜焼きと豚汁に決めた。


夕飯を作りながら如月君のことを考えると何故だか笑みが溢れてくる。


いつものように8時過ぎになって母が帰宅した。


「お母さん、お帰りなさい」


「ただいま、和加奈」


「今日は豚肉の生姜焼きと豚汁だよ」


「ありがとう、楽しみね」


母が着替えを済ませてリビングの席で一緒にご飯を食べ始めると、わたしは母に切り出した。


「お母さん‥わたし、またテニスやるかも‥」


「良いんじゃない、でもどうしたの?昨日は熱が冷めたって言ってたのに」


「うん、ちょっとね」


「部活に入るの?」


「そこまでは考えてないけど‥」


「そう、まあ和加奈は少し発散した方が良いと思うから、がんばって」


「うん、ありがとう」


「和加奈‥」


「何?」


「何でも無いわ‥頑張って」


「変なお母さん‥」



次の日、教室に入ると高山さんを探した。

彼女はクラスの仲の良い友達といつものように集まって話しをしていた。


「おはよう和加奈!」


「‥」


「おはようってば!」


「‥」


「和加奈!」


真衣から声を掛けられていたことにまったく気がつかなかった。


「何、真衣?朝からいきなり大きな声を出さないでよ」


「和加奈、いきなりって‥さっきから何回も声を掛けたのに無視してるからだよ」


「ゴメン真衣、ちょっと考えごとしてた‥」


「考えごと?高山さんのことをずっと見てたけど何かあるの?」


「えっ、いや‥別に」


「まさか、付属組とお友達になりたくなったとか?」


「それはないけど‥」


「ところで、昨日言ってた面白そうなことって何?」


「ああ、それは‥大したこと無かった」


「何それ?」


その時、制服のポケットのスマホが震えてメールの着信があった。


誰だろう?

スマホを取り出して画面を確認すると、メールは如月君からだった。


『おはよう、もう学校着いたかな?僕は部活の朝練で一汗かきました。部活の友達から何か良いことあったのかって訊かれました。みんな鋭い‥とても嬉しそうな顔をしているようです。良かったら今週の日曜日、テニスしませんか?』


メールの内容に思わず頬が緩んでしまった。


「和加奈、何スマホ見てニヤけてるの?」


「えっ?わたしニヤけてなんかないよ‥」


「よく言うよ、顔からデレデレ感、出まくってたぞ!」


真衣はそう言いながらわたしの頬っぺたをつねった。


「痛っ!‥そ、そんなことないよ」


?」


「まさか‥って」


じゃないよね?」


そう言って真衣は親指を立てた。


「ちょっと、真衣やめてよね!彼はそんなんじゃないんだから‥あっ!」


「か、彼〜?」


「ハハハ‥わたし何言ってんだろうね?」


「和加奈の裏切り者!」


「裏切り者って、どういう意味よ?」


「は~っ、和加奈に先を越されるとはね‥」


「先って、彼氏なんかじゃないよ‥まだ知り合ったばかりだし」


「ふ~ん、和加奈ってよく見ると可愛いからな‥今度紹介してよね?」


「真衣、よく見るとは余計だよ‥本当に彼氏じゃないんだから、機会があったら紹介するからさ」


そう言ったけれど、紹介など出来る筈がなかった。

わたしは彼の前では高山綾乃なんだ、さすがに真衣にも本当のことは言えないな‥


昼休みにトイレの中で彼に返事のメールを打った。


『メールありがとう。日曜日の件はもちろんOK!テニス楽しみ!お天気が良いといいな』


そう返信すると程なく彼から返事があった。


『やった!日曜日は世田谷線の三軒茶屋駅の改札で9時半に待ってます。僕もとても楽しみです。絶対晴れる!と思います』


好意を持ってる人とのメールのやり取りだけでこんなにドキドキするんだ、彼に嘘をついたことを悔やんだ。



その日、家に帰ると久しぶりにテニスのラケットをクローゼットから出してみた。


ラケットカバーを外してラケットを握ってみた。

毎日遅くまでボールを追いかけていた中学時代が懐かしく思い出されてきた。


わたしがテニスを始めたのは友達に誘われて何となく入部したのがきっかけだった。


中学のテニス部は軟式と硬式と二つあって、どうせやるならと硬式を選んだ。


テニスの面白さを知って、すぐにのめり込んでいった。

三年間の努力の甲斐があって、中学三年の時は都大会のベスト16まで進むことができた。


本当は高校に入ってからもテニスを続けようと思っていたけど、テニス部の見学に行くと付属組の先輩達が幅を利かせていて、同じ付属組の一年生を優遇していたので入部するのをやめた。


わたしが付属組の子とあまり話しをしないのはそのせいかも知れない。


「ガットの張りが弱っているな‥明日ショップで張り替えてもらおう」


ラケットを勉強机の横に立てかけて明日の予習に取り掛かって、それを終えるといつものように夕飯の支度を始めた。



次の日、ラケットを持って学校へ登校した。

教室に入ると真衣がいつものように話しかけてきて、


「テニスラケットなんて持って、どうしたの?」


少し驚いた顔をして言った。


「帰りにガットの張替えしてもらおうと思って‥」


「へ~っ、和加奈ってテニスやってたの?」


「うん、部活で少しやってたんだ‥」


「そういえば入学した頃の和加奈って随分浅黒いなって思ったんだよね、今はまったく面影ないね」


「そうだね、テニスは日焼けするから」


「ところで、例の彼氏にはいつ会わせてくれるのよ?」


「彼氏じゃないよ‥だいたいまだ一度しか会ったこと無いんだから」


「どこで会ったの」


「どこって‥そんなのどうでもいいでしょ」


真衣の質問をはぐらかして答えた。


授業が終わると、ガットの張替えをしに行くため、一人教室を出ようとした。


「双葉さん」


背後から不意に声を掛けられた。


振り返ると高山さんがにこやかな顔で立っていた。


「た、高山さん‥な、何にか?」


少し声を震わせて答えた。


「そんなに緊張しないでよ、わたし怖いかな?」


「いえ、そんなことは‥」


「双葉さんとはほとんど話したこと無いよね ?」


「そうだね‥」


「双葉さんってテニスやるの?」


「えっ?」


「ラケット持ってるから」


「うん、中学のとき部活でやってたんだ」


「そうなんだ、羨ましいな」


「羨ましい?」


「わたし運動苦手で、テニス出来る人って憧れなんだよね」


それは如月君のことなんだ‥

心の中でそう思った。


「わたしはそんな上手くないから」


「そうなの?」


「うん」


「ごめんね引き止めて」


「ううん、これから行くとこあるから、それじゃ」


そう言って教室を後にした。


高山さんの方から話し掛けられるとは思ってもみなかったので焦った。

後ろめたい気持ちがあるからか、まともに顔を見て話すことも出来なくて、彼女、変に思っただろうな…


学校を出ると、ガットの張替えをするために田園都市線を渋谷で降りた。


久しぶりに来た渋谷は相変わらず人が多い、渋谷で山手線に乗換え新宿駅の南口で降りると雑居ビルの一階にある中学時代によく通ったテニスショップに入っていった。


ガットの張り替えとグリップの交換を頼んでしばらく店内で出来上がるのを待っていた。


店内を見回すと懐かしさと共に、あんなに好きだったテニスを辞めてしまったことへの後悔の念が湧いてくる。


どうしてテニスを辞めてしまったのだろう?

あんなに好きだったのに…



名前を呼ばれ我に返って、ラケットを受取ると、ガットの張りを確認して支払いを済ませた。


そのまま新宿駅から小田急線に乗って狛江の自宅に戻った。


日曜日は如月君に会える‥

そう思うと胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。



いつものように夕飯を食べながら母に日曜日のことを話した。


「今度の日曜日だけど、出掛けていいかな?」


「日曜日に和加奈が出かけるなんて珍しいわね、もちろん良いけど、どこ行くの?」


「テニスする約束して‥」


「学校の友達?」


「いや‥」


「もしかして、男の子と?でしょ」


「うん‥」


「良いんじゃない、和加奈がデートなんて」


「デートじゃないよテニス、テニスだよ!」


「ハイ、ハイ、どっちでも良いから行ってらっしゃい」


母は嬉しそうに笑いながらそれだけしか言わなかった。


「男の子って誰?とか聞かないの」


「そんなこと聞いてどうするのよ?聞くだけ野暮でしょ、一昨日からなんか様子が変だから、怪しいなって思ってたんだよね、和加奈の嬉しそうな顔を久しぶりに見たからそれでいいよ」


「お母さん‥」



日曜日は少し寒かったけど朝から天気が良く絶好のスポーツ日和だった。


早起きしてお弁当を二つ作ってから家を出たると、いつも学校へ行く道と何も変わらないのにどうしてこんなに気分がいいのだろう?と思った。


三軒茶屋に着くと、改札で彼の姿を探した。


「高山さん」


「高山さんてば!」


わたしはハッとして声の方を見た。


そうだ‥わたしは高山綾乃だったんだ。


「如月君、おはよう」


「おはよう、どうしたの?」


「ゴメン、ちょっと考え事してた」


「そっか‥あれ、ラケット持ってるんだね?一応、君の分も用意してきたんだけど」


そう言って彼はウィンドブレーカーの上から背負っているラケットバッグを親指で指した。


「うん、自分の持って来た」


「テニスやってたんだね?」


「中学の時に部活でね、でも上手くないよ」


「衣装もバッチリ決まってるし、そう言って実は上級者とか言わないでよ」


彼は笑いながら言った。


彼の笑顔がとても素敵で、わたしは彼の笑顔をまともに見れず下を向いた。


「さあ行こうよ」


「どこへ行くの?」


「君の学校の裏に区営の公園が有るんだよ、そこに貸しコートが有ってね、なかなか日曜日は予約が取れないんだけど、キャンセルが出たのか、たまたま空いてたんだよね」


「うちの学校の裏にそんな公園が有るんだ?」


「知らないんだ?結構有名だよ」


「そうなんだ、知らなかった」


高校入学してから半年ちょっとが過ぎたけど、学校と駅の往復だけで、反対側には行ったことが無かった。


学校の前を通り過ぎてしばらく行くと区営の公園はあった。

テニスコートだけでなく、野球場等もある大きな複合施設を持った公園だった。


受付を済ませるとテニスコートに入った。


「寒いからしっかり準備運動してね」


彼が優しく言葉を掛けてくれる。


「うん、久しぶりだからちょっと不安だな」


十分にストレッチをした後、最初に軽くラリーをして体を慣らすことにした。


彼のボールを何球か打ち返すと、


「高山さん、上手だね!」


そう言って彼は褒めてくれたけど、彼のボールは打ち返しやすい絶妙な高さとスピードにコントロールされていて、彼が相当な上級者だということがわかった。


しばらくラリーを続けた後、試合形式のゲームをすることになった。


「如月君、お手柔らかにね」


「手加減なしでいいからね、 先にサーブして良いよ」


わたしはベースラインの後ろに立つとボールを左手でバウンドさせた。


卒業以来ラケットをほとんど握っていなかったから上手く入るか心配だった。


サービスの体制をして、思い切りボールを叩くと、ボールはサービスラインギリギリをかすめてラインの内側に入った。


彼は手を伸ばしてボールを打つ体制をしたけれど、何故だかそのままボールを見送ってしまった。


「‥やるね!」


「如月君、どうして打ち返さなかったの?」


理由を彼に質問した。


「打ち返すにはもったいサーブだったから‥やっぱりすごく上手いんだね!」


「そんなことないよ、今のはまぐれだよ」


「謙遜しなくていいよ、でも次は手加減無しで行くからね」


「望むところね!」


久し振りに心地よい汗をかいてテニスを終えた。


「今日はありがとう、本当に楽しかったよ」


彼がお礼を言うので、


「ううん、わたしもテニス久し振りだったからとっても楽しかった」


と返した。


「それは良かった‥」


「どうかしたの?」


「テニス、今は部活やってないんだよね?」


「うん‥」


「どうして辞めたの?」


「わたし、両親が離婚してお母さんと二人なんだよね‥」


「そっか‥」


「私立に進学したから、あまりお母さんに迷惑掛けたくなくって、自分のことばっかり言ってられないから‥でも、これからもこうやってたまにテニスの相手して欲しいな」


「もちろん、僕で良ければいつでも!」


「ありがとう」


彼の優しい言葉が嬉しかった。


「ねえ、これからどうする?わたし、お弁当作って来たんだけど、良かったら一緒に食べない?」


「君が作ったの?」


「そうだよ、口に合うかどうかわからないけど‥」


「良かったら僕の家に来ない?」


「えっ、如月君の家に?」


「うん、僕の親父は単身赴任で母さんは日曜も働いてるから‥」


「そうなんだ‥家には誰もいないんだ?」


「ち、違うって‥変なつもりはないんだ、僕には妹がいて、一人で可哀想だから妹の相手をしてもらえたらって」


「妹さんの?何年生なの」


「小学校五年生なんだ」


「そうなんだ、でも、わたしなんかが行っても大丈夫かな?」


「もちろん、実は今日、彼女を連れて帰るって話してあるんだ」


「彼女‥」


「迷惑だったかな?」


「ううん、そんなことないよ‥」


「今更変なこと聞くけど、どうして僕に手紙をくれたの?」


「それは‥如月君のことが好きになったから」


「本当に?」


「本当だよ、如月君こそ何で?わたし絶対に断られると思った」


「君と会えたのは奇跡なんだよな‥」


「奇跡?それってどういう意味?」


彼の言葉の真意はわからなかったけど、彼の気持ちは嬉しかったけど、言いようのない複雑な気持ちでいっぱいだった。



彼の家に着くと、彼は玄関扉を開けて中に招いてくれた。


琴美ことみ!帰ったよ」


「お帰りなさい、お兄ちゃん」


彼の妹さんが玄関に出て来て迎えてくれた。


「妹の琴美です。琴美、お姉さんに挨拶して」


「初めまして、如月琴美きさらぎことみです」


彼女は恥ずかしそうにわたしに挨拶をした。


「初めまして琴美ちゃん、‥高山綾乃です」


わたしは嘘の名前で自己紹介をした。


「お兄ちゃん、突っ立ってないで上がってもらいなよ、お兄ちゃんが何も言わないからお姉ちゃん困ってるよ!」


「そっか、ごめん、ごめん、さあ上がって」


「うん、ありがとう‥」


「お姉ちゃん、どうぞ!」


琴美ちゃんがスリッパを出して手招きをした。


「お邪魔します」


そう断って玄関を上がった。


リビングに通されるとわたしはソファーに座るよう勧められた。


「お姉ちゃん、どうぞ!」


そう言って琴美ちゃんがお茶を出してくれた。


「ありがとう‥」


「お兄ちゃん、お昼どうするの?」


「うん、彼女がお弁当作ってくれたって、みんなで食べようと思って‥」


「へ~っ、お弁当‥お姉ちゃん料理得意なの?」


「美味しいかどうかわからないけど、作るのは好きだよ、良かったら食べて」


そう言うとわたしはトートバックからお弁当を取り出して包みを開けた。


「うぁーすごい!めちゃめちゃ美味しそうだよ!お兄ちゃん、凄くいい彼女見つけたね!」


「琴美‥失礼なこと言うなよ」


「お姉ちゃん、お兄ちゃんの彼女でいいんだよね?」


「えっ?その‥うん、そうだよ」


「やったね!お兄ちゃんにもようやく春が来たね?」


「琴美‥ごめんね、こいつ生意気で」


「いいな、わたし一人っ子だから、琴美ちゃんみたいなかわいい妹が欲しかったな」


「へへっ、お兄ちゃん聞いた?かわいいって!じゃあ遠慮なく頂きます!」


そう言うと琴美ちゃんはお弁当に箸をつけた。


「美味しい!お姉ちゃん料理天才!お母さんより美味しいかも‥」


「そんな、琴美ちゃん‥褒めすぎだよ」


「お兄ちゃんも食べて見て!」


そう言って琴美ちゃんはお弁当を彼に差し出した。


「如月君はこっち食べて、それは琴美ちゃんに」


「でも‥お姉ちゃんの分無くなっちゃうよ?」


「いいから食べて、そんなに喜んでくれるんだから、わたしは大丈夫だから」


「お姉ちゃん‥ありがとう!」


琴美ちゃんは嬉しそうに箸を動かしてお弁当を食べている。


「如月君もどうぞ」


彼もお弁当を箸で口に運んだ。


「上手い!本当だ、母さんより美味しい!」


「でしょ!お姉ちゃん絶対天才だよ」


「そんなこと言われたら、お世辞でも嬉しくなっちゃうよ」


「お世辞なんかじゃないよ!本当美味しいんだから」


「ありがとう、琴美ちゃん」


「いいな、琴美に今度料理教えて欲しいな‥」


「わたしで良かったらいつでも良いよ」


「本当に?絶対だよ、約束!指切り」


そう言って琴美ちゃんは小指を立てた。


琴美ちゃんと料理を教える約束の指切りをした。


夕方まで如月君と琴美ちゃんと過ごして彼の家を出た。


玄関を出る際にも琴美ちゃんはわたしに何度も手を振ってくれた。


「お姉ちゃん、約束忘れないでね」


「わかってる、琴美ちゃん、また会いましょう」


そう言って琴美ちゃんと別れた。


如月君が上町駅まで送ってくれた。


「今日は本当にありがとう、遅くまで引き止めてしまって悪かったね、琴美があんなに嬉しそうにしてたの久しぶりに見たよ」


「可愛い妹とさんだね、羨ましいな‥ん?どうしたの如月君」


わたしは如月君の真剣な表情に理由を訊いた。


「いや‥こうして一緒にいられることが夢みたいだから‥今日はありがとう」


彼の言葉は嬉しかったけど、胸が苦しくて、もうこれ以上、彼に嘘はつけないと思った。


こんなにも優しい如月君や琴美ちゃんを騙している自分が許せなかった。


「あのね、如月君‥わたし、わたし、‥」


涙が溢れてきて言葉が出てこなかった。

やっぱり本当のことなんて言えない‥


そんなわたしに如月君は何も言わず、黙って肩に優しく手を添えてくれた。


結局、世田谷線に乗って彼と別れた。


たった二回しか会ってないのに、こんなにも如月君のことを好きになってしまっていた。


心が揺さぶられ、底の見えないジレンマに陥っていた。



次の日の月曜、授業が終わって、わたしは帰る準備をしていた。


「和加奈、帰ろうよ」


真衣の誘いに、


「そうだね、帰ろっか」


そう返事をした。


「双葉さん、ちょっと良いかな?」


「高山さん‥」


目の前に高山さんが厳しい顔で腕組みをして立っていた。


「話があるんだけど、少し時間もらえるかな?」


彼女の落ち着き払った表情と少しトーンを抑えた声で、これから起こることを容易に予感することが出来た。


「真衣、悪いけど先に帰って」


「うん‥和加奈、じゃあね」


ただならぬ空気を感じたのか、真衣は一人で教室を出て行った。


「さてと、ここじゃ何だから場所を変えない?」


どうすることも出来ず、高山さんの後に付いて教室を出た。


誰もいない音楽室に入ると、彼女は扉に鍵を掛けた。


「ここなら誰にも邪魔されないわね」


「高山さん‥」


「双葉さん、あなたは頭良いからもうわかるわよね?何の話だか‥」


「‥」


「ふ~ん、黙秘するつもり?じゃあ、わたしが言うわね、昨日の朝、わたしは見ちゃったんだよね、三軒茶屋の駅で‥双葉さんいたわよね?」


「‥」


「素敵な人だね双葉さんの彼氏、一緒にテニスなんて羨ましいな」


「‥」


「でも驚いた、あなたの彼氏、あなたのこと高山さんて呼んでた‥双葉さん、ちゃんと話聞いてる?」


高山さんは相変わらず低いトーンの声と冷静な口調で言った。


わたしは黙ってただ頷いた。


「そう、じゃあ、話しを続けるね、わたし最近落とし物したんだよね、好きな人に書いたラブレター‥どこで落としたのかまったく検討がつかなかったけど、ノートに挟んでおいたから、学校で落としたのかな?」


「‥」


「偶然なんだけど、あなたの彼氏ってわたしが電車で見かけてからずっと片想いしてた人なんだよね、落としたラブレターは彼に想いを伝えようと書いたものなんだ」


「‥」


「ここからはわたしの推測ね、あなたはわたしの書いたラブレターを拾った。わたしにすぐに返してくれれば良かったのに‥わたしの書いたラブレターを何故だか彼に渡した。わたしの名前が書いてあるのに‥何でかな?あなたはわたしの名をかたって彼と付き合い始めた。どう?わたしの推測、間違ってるかな?」


わたしは観念した。


「間違ってない、そのとおり‥」


「何故なの?双葉さんが誰と付き合おうと構わない、もちろん如月君であってもね、でも、わたしの想いを込めた手紙を渡したりするのはどうかな?何でわたしの名前を騙らないといけないの?」


わたしは仕方なく口を開いた。


「高山さん、何を言っても言い訳になってしまうから、話してもわかってくれるとは思わない。あなたの言うとおり、わたしはあなたの手紙を拾った。そして如月君に会いに行った。でもそれは、あのラブレターを渡そうと思った訳じゃない、高山さんみたいな頭良が良くて、美人で、お金持ちで、何でも出来る人が好きになる人ってどんな人か知りたかっただけ、覚えてないかもしれないけど、わたしは高山さんと同じ小学校にいたの。あなたはとても目立ってみんなの人気者だった、それがとっても羨ましかった」


「双葉さんって、わたしと小学校一緒なの?」


「両親が離婚して五年生の時に転校したけど‥その時は木村和加奈きむらわかなだった」


「木村和加奈さん‥そう言えばそんな子いたかも、で?」


「興味本位で如月君の家まで行ったけど、当然彼に会うことは出来なかった。手紙は高山さんの机の中にそっと返すつもりだった。でも、帰るときに上町駅で手紙を風に飛ばされてホームに落としてしまって、それを偶然に如月君に拾われてしまった。そして手紙を読まれてしまった。わたしは如月君に好意を持ってしまったけど、きっと断られるに決まってるって思った。けれど、彼もわたしのことが好きだって‥」


『バシッー』


わたしの頬に鈍い音とともに彼女の平手が当たるのがわかった。


「何よそれ!それじゃあ、わたしがラブレターを落としたのが悪いみたいじゃない!ラブレターを落とさなければこんなことにはならなかったとでも言いたいわけ?」


冷静な口調を維持していた高山さんが初めて大きな声を出した。


彼女に打たれた左の頬を押さえながら答えた。


「そんなことは言ってない‥高山さんには悪いことをしたと思ってる。本当に申し訳ないと思ってる。謝って済むことじゃないのもわかってる、彼にも嘘をついたことをすごく後悔している。それでも‥それでも、わたしは如月君が好きなんだ‥」


「やめて!もういいわ、わたしはあなたを許せるほど広い心の持ち主じゃない。明日、彼に会ったら本当のことを話すだけ、わたしが本物の高山彩乃って話すだけ、その後はもうどうでも良いわ。あなたと彼がどうなろうと、そんなこと知ったことじゃない。このままじゃわたしのプライドが許さないから‥絶対に許さない」


そう言うと彼女は音楽室の扉を勢いよく開けて出ていってしまった。


一人残されて思った。

これは罰なんだ‥

彼を騙した罰なんだ。


音楽室を出ると教室にかばんを取りに戻って学校を後にした。


校門を出ると西陽に照らされた夕焼け空がとても綺麗だった。


夕日を見ながら、彼に本当のことを伝える決心をした。


三軒茶屋から世田谷線に乗って上町駅で降りると、踏切を渡って通り沿いのスーパーに入って食材を買った。


琴美ちゃんとの約束だけは絶対に果たさなければ、そう思って彼の家のインターホンを押した。


『はい、どなたですか?』


「琴美ちゃん、わたし」


『お姉ちゃん?どうしたの』


「うん、ちょっと」


『今開けるね』


琴美ちゃんはそう言うと、玄関から門のところまで出てきてくれた。


「突然ごめんね」


「お姉ちゃん、どうしたの?顔色悪いよ」


「うん、大丈夫、ご飯一緒に作るって約束、今日でも良いかな」


わたしはスーパーの袋を見せた。


「えっ?構わないけど‥」


そう言って琴美ちゃんが門の扉を開けてくれた。


家の中に入ると琴美ちゃんとキッチンに入って作業に取り掛かった。


「お姉ちゃん、何を作るの?」


「うん、ハンバーグ作るから覚えてね」


「え~っ、そんなのいきなり出来るかな?」


「大丈夫、意外と簡単なんだよ」


「材料は合挽きのひき肉と玉ねぎ、生パン粉、後は卵、琴美ちゃん玉ねぎは切れるかな?」


「うん、やってみる」


「みじん切りね、お姉ちゃんが手本見せるからやってみて」


そう言うと、玉ねぎの皮をむいて玉ねぎを切り始めた。


「わ~っ、すごい上手」


「琴美ちゃんはゆっくりで良いから、大きさを揃えることに気をつけてね」


「わかった」


琴美ちゃんが包丁を持って玉ねぎを切り始めた。


「うん、上手だよ、それで良いよ」


玉ねぎを切り終わると、フライパンにサラダ油を引いて玉ねぎを炒め始めた。


「色が透明になるまで優しく炒めてね」


玉ねぎを炒めるのを琴美ちゃんと交代した。


「炒めたらボールに移して十分に冷ましておくの」


「どうして?」


「こねるとき玉ねぎの熱で挽き肉の色が変わっちゃうから、これ忘れないでね」


「わかった」


「玉ねぎが冷めたらボールに挽き肉、生パン粉、溶き卵、塩、こしょうを入れてよく混ぜ合わせるの」


「わかった」


「全体が均等になるようによく混ぜてね」


「何か料理って楽しいね」


「うん、楽しいよ、いいねよく出来ました。次は適当な大きさに分ける、手本見せるね」


適当な大きさにハンバーグのタネを掴むと、形を整えた。


「こうやって両手でキャッチボールするように何度か投げるとハンバーグの中の空気が抜けるから焼いたときに割れにくくなるんだよ」


「へ~っ、そうなだ」


「必ずこれやってね、きれいに仕上がるよ」


「わかった」


「出来たら油を引いたフライパンを熱してハンバーグのタネをのせて片面を中火で焼くの、その時にハンバーグの中心を少しくぼませておいてね、中火で焼くのは、弱いと火が通らないし強いと焦げちゃうから、片面が焼けたら裏返してふたをして蒸し焼きにして中まで火が通ったら完成なんだけど、余り長い時間焼きすぎるとハンバーグの中の肉汁がなくなっちゃうから串を刺して、いい感じの肉汁が出てくれば美味しいく出来た合図だからね」


「わ~っ、美味しそう」


「お姉ちゃんやっぱり天才!」


「あとはソースね、市販の物でも良いけど、自分で作ったらもっと美味しく食べられるんだよ、今日は取って置きのソースを教えてあげるね」


「やった~琴美頑張る!」


琴美ちゃんは本当に嬉しそうな笑顔で答えた。


その笑顔を見て我に返った。


「お兄ちゃんはいつも何時ごろ帰ってくるの?」


「うん、わたしのためにいつも6時過ぎには帰ってくるよ」


わたしは腕時計に目をやった。時計は5時半を過ぎていた。


「もう少しだね、じゃあソースを作って、ご飯を炊いておこうね」


「うん、お兄ちゃんビックリするよ、お姉ちゃんが来てるの知ったら」


「そうだね‥」


「お兄ちゃん、お姉ちゃんのことすごく嬉しそうに話すんだよ」


「そうなんだ」


「お兄ちゃんのこと、これからもよろしくね」


「うん‥」


しばらくして如月君が帰ってきた。


「お兄ちゃん、お帰り、お姉ちゃん来てるよ!」


彼が慌ててリビングに入ってきた。


「どうしたの?」


「うん、琴美ちゃんとご飯一緒に作る約束したから、絶対に守りたくて来たんだ」


「そんなのいつでも良かったのに‥」


「今日じゃないとダメなんだ‥如月君に大事な話があって来たんだ」


「大事な話?」


「うん‥」


「そっか‥琴美、お兄ちゃん、お姉ちゃんと出掛けてきていいかな?」


「うん、お姉ちゃん直伝のハンバーグあるから、帰ったら一緒に食べようね」


「楽しみにしてるよ」



わたしと如月君は一緒に彼の家を出ると、近くの緑道公園のベンチに座った。


辺りはすっかり暗くなって、ベンチを街灯の灯りが優しく照らしていた。


「何だい大事な話って?」


「うん‥」


覚悟を決めて話を切り出した。


「わたし‥如月君に嘘ついてることがあるんだ」


「嘘?」


「今まで如月君を騙してたんだ‥」


「僕を騙す?」


「初めて上町駅で会った時、手紙を拾ってくれたよね?」


「うん‥」


「あの手紙って、わたしが書いたものじゃないんだ‥」


「‥」


「わたしのクラスメイトの子が書いたんだ。わたしはその子が書いた手紙を学校で偶然拾ってしまって、その子が好きになった人ってどんな人なのか興味があってここに来たんだ」


「‥」


「わたしは‥高山綾乃じゃない、双葉和加奈、それがわたしの本当の名前」


「双葉さん?」


「そう、如月君が読んだラブレターはわたしの言葉じゃないんだ」


「それって‥僕のこと、好きじゃないってこと?」


「そうじゃないよ、如月君に会って、わたしはあなたのことを好きになってしまって‥だから本当のことが言い出せなくなってしまった」


「‥どうしてそれを?」


「昨日、如月君と一緒に三軒茶屋駅にいるところを本物の高山綾乃さん見られてしまった。如月君が、わたしのことを高山さんって呼んでたって‥」


「‥」


「今日、高山さんに呼ばれて‥彼女ひどく怒ってた。当たり前だよね、如月君のために思いを込めて書いたラブレターを横取りして利用するなんて‥最低だと思うよ」


「双葉さん‥」


「ごめんなさい、わたしはそんな酷いことが平気でできる子なんだよ‥如月君みたいな優しくて真っすぐな人に、わたしは相応しくない。本当にごめんなさい‥」


「‥」


「わたし、テニスも辞めて、高校入ってから毎日が平凡で退屈だった。たった数日だったけど本当に素敵な思いができた。如月君ありがとう‥本当にありがとう」


わたしはベンチから立ち上がると彼に頭を下げて走り出した。


彼にもう二度と会うことはないんだ‥


上町駅から世田谷線に乗ると、車内は空いていて椅子に座ると涙が溢れてきた。


仕方ない‥

わたしが悪いんだ‥

これは自業自得なんだ。


頬を伝わる涙の粒がわたしの制服の上に落ちていく、わたしは涙を止めることが出来なかった。


家にどうやって帰ったのか、よく覚えていなかった。


部屋に入ると、そのままベッドに倒れこんでずっと泣いていた。


「和加奈、和加奈、起きて‥」


気がつくと母が部屋にいた。

どうやら泣きはらして寝てしまったらしい。


「お母さん‥」


「どうしたの?電気も点けないで、しかも制服のまま寝てるなんて、具合でも悪いの?」


「ごめん、ご飯作ってないや‥」


「そんなのいいから、それよりどうしたの?彼と喧嘩でもしたの?」


「ううん、そうじゃない」


母の言葉にまた涙が溢れてきた。


「お、お母さん‥わたし」


「どうしたの、話してごらん?」


母に今までのことをすべて話した。


「そう‥そんなことが」


「ごめんなさい」


「わたしに謝ってもね‥でも、その手紙ってそんなに重要なのかな?彼は手紙だけで和加奈を好きになった訳じゃないと思うよ」


「そうだけど‥あのラブレターがきっかけになったのは間違いないんだよ」


「きっかけ‥そうかな?」


「お母さん‥」


「もし、本当の高山さんが彼にその手紙を渡していたら、彼は高山さんと付き合ったと思う?」


「それは‥わたしにはわからないよ」


「そうだけど、お母さん、なんか引っかかるんだよね」


「何が?」


「彼、如月君が‥」


「如月君が?」


「理由はお母さんにもわからないけど‥彼は気づいてたんじゃないかと思うんだ、和加奈の嘘にね」



次の日わたしは学校へ行くのが怖かった。


でも、わたしなりに決着をつけたから堂々としていようと思った。


「おはよう真衣」


「おはよう和加奈、昨日はどうしたの?高山さん何だって?」


「うん、少し落ち着いたら話すよ」


高山さんを見るといつもと変わらない様子で友達と話をしていた。


放課後、一人ある場所に向かった。


「失礼します」


少し躊躇したけど、思い切ってドアを開けた。


「何か用かな?」


机に向かい何かを書き留めていたジャージを着た子が顔を上げた。


「テニス部に入部したいんです」


「入部希望か‥クラスは?」


「1年3組の双葉和加奈です」


「双葉さんね、わたしは部長の岡山ひろみ、2年1組なんだ」


「岡山先輩が、部長なんですか?‥」


「そっ、3年生が引退して、この秋から部長になったばっかり」


「そうなんですか‥」


「双葉さん、テニスの経験は?」


「中学の部活でやってました」


「中学か‥でもうちの附属じゃないね?見たことないから」


「はい‥やっぱり附属じゃないと駄目でしょうか?」


「どうして?喜んで入部を許可するわよ」


「良いんですか?」


「もちろん、附属から来る子は根性ない子ばっかりでね、わたしは根っからの体育会系で実力主義だからね」


「岡山部長は附属組じゃないんですか?」


「幼稚園からのバリバリの附属組だよ」


「そうなんですか?」


「でも、高校に入るまでテニスは通ってたスクールのクラブチームでやってたの」


「双葉さんも中学では結構やってたんじゃない?」


「どうしてそんなことわかるんですか?」


「そのくらい見ればわかるよ」


「明日から来ても良いですか?」


「もちろん、待ってるから」


「ありがとうございます!よろしくお願いします」


そう言うと、頭を下げて部室を後にした。


変わらなきゃいけないんだ、いつまでもめそめそしてられない。

退屈な毎日はもうたくさんだ、もう一度大好きなテニスに取り組んでみようと思った。


校舎を出ると校門へ向かって歩き始めた。


すっかり色づいた木々の葉が西陽に照らされて輝いて綺麗だった。


校門を出ると驚いた。

校門前の歩道のガードレールに如月君が腰掛けていたからだ。


「如月君‥」


「双葉さん、ひどいな‥」


「‥」


彼を騙していたことを責められていると思って下を向いた。


「ごめんなさい‥」


「昨日は一方的に話をして帰っちゃうんだからね」


「‥」


「琴美も心配してたよ、和加奈お姉ちゃんのこと」


「如月君‥和加奈お姉ちゃんて‥」


「ハンバーグ、とっても美味しかったよ、母さんも喜んで食べてたよ、感動したって」


「そう‥ありがとう」


校門の前で話をしていたので、下校するうちの生徒達がわたし達をジロジロと横目で見ながら通り過ぎていく。


「ここじゃ目立って迷惑が掛かるね?」


そう言うと、彼はわたしの手を握って歩き出した。


「如月くん‥どこ行くの?」


「まあ、付いて来てよ」


手を引っ張られたまま、わたしは彼に付いて歩いた。


彼は日曜日にテニスをした区営の公園に入っていった。


「ここならゆっくり話が出来るね」


彼はベンチに座ると、わたしに隣に座るよう促した。


「如月君‥」


「僕も双葉さんに謝らなけばいけなくて来たんだ」


「如月君が謝る?わたしに?!」


「うん、僕も君に嘘をついてたんだ」


「嘘?」


「そう、大きな嘘をね」


「‥」


「僕は上町駅で封筒を拾った時から、あの手紙は君が書いた物じゃないって知ってたんだ、つまり君が高山綾乃じゃないってね、手紙の内容がラブレターとはわからなかったけど」


「どういうこと?」


「双葉さんって意外と鈍感なんだね?」


「鈍感って、どこが?‥」


「鈍感なとこ、その一、手紙に書いてあった毎日同じ電車に乗るのが幸せって、双葉さんは僕と同じ電車に乗ったことあるかい?」


「確かに‥それは」


「鈍感なとこ、その二、初めてのデートでテニスに誘ったよね?僕は双葉さんがテニスを好きなこと知ってたんだ‥もちろん、かなり上手いこともね、いきなり初心者の女の子と真剣にゲームはしないよね?」


「如月君‥」


「鈍感なとこ、その三、双葉さんと出会ったのは奇跡だって言ったよね?その意味がわからないこと」


「わたしにはわからないよ」


「じゃあ説明するよ、僕は高山綾乃という名前は知らなかったけど、毎日電車で出会う女の子には気づいてた。何となくだけど、僕に好意を持ってくれているのもね、今朝、彼女に話しかけられたよ、わたしが本物の高山綾乃だって、そして、君が彼女の書いたラブレターを彼女になりすまして僕にくれたこと、君がその後も僕を騙しているってね、彼女に手紙は返しておいたから、元々あの手紙は僕には必要ないんだ、僕はずっと前から双葉さんが好きだったんだから」


「如月君‥それって?」


「僕は上町駅で会った時から、君が双葉和加奈さんだって知ってたよ」


「どうして!?‥」


「テニスが大好きで、去年の都大会、ベスト16の双葉和加奈さんだってね」


「如月君、何でそれ‥知ってるの?」


「僕も都大会出てたんだ、これでもベスト8だったんだよ」


「ベスト8!如月君も出てたんだ都大会‥」


「僕は都大会で双葉さんに一目惚れして、双葉さんの試合は全部見たんだよ。いつかまた会えるって思っていたけど、今年の新人戦に双葉さんの姿は無かった‥」


「わたし、テニス辞めたから‥」


「その双葉さんが僕の前に突然現れた。僕宛のラブレターを持ってね、ずっと片想いだった双葉さんと会えたから奇跡だと思った。だから悪いとは思ったけどあのラブレターを利用させてもらったんだ」


「如月君、そんな‥」


「琴美には本当のこと話しておいたんだ、芝居をさせるのに苦労したよ、琴美は双葉さんがお気に入りで大好きみたいだよ」


「如月君、わたし、わたし‥」


「僕は双葉さんのことが好きだけど、双葉さんは僕のことどう思ってるかな?双葉さんの本当の気持ちを知りたいんだ」


「本当の気持ちなんて‥如月君に出会って退屈だった毎日が変わった。テニスが上手くて、優しくて、わたしも如月君が大好きなんだ‥」


「じゃあ、これでお相子あいこにしない?君の嘘と僕の嘘をね」


「如月君‥」


「これからよろしくね、双葉さん」


「如月君‥わたしもようやく、双葉和加奈として自分の想いを伝えられた。こちらこそ‥よろしく」


「双葉さん、じゃあ握手、テニスの試合の後みたいにね」


「うん、ありがとう」


出された如月君の右手に自分の右手を添えて応えた。




 ー終わりー



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