ドタバタかしまし娘!
冬生 羚那
第1話
今日は1週間に1回の休日。
お昼までベッドの中でごろごろしてから、仕方なく起き上がる。
スマホを片手に空腹を訴えるお腹を擦りながら階段を降り、リビングへと足を向ける。
「あ、おはようございますー」
「おはよー」
「おはよう」
そこに居たのは
紫はわたしの職場の後輩になる。
桂花は紫の従姉妹。
そんなわたし達はルームメイトになる。
わたしがここに住むことになったのは、一人暮らしより良さそうだと思ったからだ。
最初は普通に部屋を借りようと思っていたんだけどね。
色々物件を見ている内に、普通に部屋を借りるより安くつくし、孤独感を感じないだろうと考えた末に、出会った物件である。
大家であるお婆ちゃんもいい人で、とても可愛らしい人だったので住めるようになって喜んだ。
前のルームメイトもいい人だったけど、それぞれの道を進んでいった。
1人になりそうになった時、紫と桂花が新しい住人としてこの家にやってきたのだ。
紫とは会社で面識はあったから少し驚いたけど、問題なくルームシェア出来ている。
紫の従姉妹である桂花ともうまく付き合えていると思う。
「お腹空いたー」
「パンならありますよー」
「食べるー」
ダイニングテーブルの上に置いてある菓子パンを取り食べているとにまにまと笑う紫がじっとこちらを見ていた。
ちろりと目をずらすと桂花もじーっとこちらを見ている。
「
「ガチャですよ、ガチャ!」
「どうだった?」
「んむ、
もぐもぐと急いで食べていると紫がいそいそと珈琲を出してくれたので、遠慮なく頂く。
全てを飲み込むと横に置いておいたスマホを掲げる。
「……では、ガチャるぜ!」
「いえーい!」
「ひゅーひゅー」
わたしがこの不思議なアプリに出会ったのは本当に偶然である。
時間潰し用のゲームを探していた時のこと──。
※※※
「なかなかないなぁ」
ベッドに仰向けで寝転がり、スマホを弄っていた。
沢山あるアプリの中から面白そうなアプリを探し出すのはとても時間がかかり、そろそろ飽きてきた所だった。
「ないなー……うーん……」
物凄く残念な気持ちでスマホを弄っていたのだが、その手からスマホが滑り落ちた。
わたしの顔に。
「ぬぁああああ!」
鼻に直撃したせいで悶絶することに。
1人で悶え転がっていた。
「いいいいいってえええええええ」
あまりの痛さに涙が浮かぶ。
鼻を押さえ、丸まって痛みが過ぎるのを待つ。
「ぐ……ツイてねぇ……」
耐えられる痛さになって漸く動くことが出来た。
浮かんだ涙をでろんと伸びた袖で拭い、スマホを探す。
ベッドの上に落ちていたスマホは、わたしが転がって踏み壊してはいないだろうかと少し慌てる。
「……『ガチャろう』?」
ロック画面を解除してみれば、そこにはアプリ紹介が表示された。
~~~~~~~
このアプリを見つけた君!!
幸運の持ち主だね!
このアプリはガチャが出来るアプリだよ。
何が出るかは運次第。
だけどきっと人生がとても楽しいものになるよ。
是非やってみないかい!?
※ガチャの内容に関して、只今考慮中※
~~~~~~~
「なんだ、この説明文……」
よくよく見てみるとダウンロード数は50万、星は3とちょっと。
こんな説明文でアプリやる人いるんだなぁ、なんて思いながらレビューを見てみる。
「……文字化けしてるがな」
名前の欄も、レビュー本文も全部文字化けしていた。
一体何が書かれているのだろうか。
気になってレビューに目を通すけれど、読めるものがない。
「あ!」
と思っていたら読めるレビューを発見した。
『アイテムとスキルと装備と別々にしてほしい。装備が欲しいのにアイテムしか出ねえ!もう回復ポット持てねえよ!それに10連してもSR以上が出なさ過ぎる。渋くねえか?いや渋くするのはいいんだけど、それなら金額下げてくれ!1回500Gは高い!500で低級ポット買ったらお釣りくるぞ!』
このレビューから読み取れることは少ないが、何が出てくるかは多少わかった。
RPGゲームみたいなものなのかもしれない。
そして説明文にあるガチャの内容を考慮中とあったのは、もしかしたら文字化けしているレビューもそれに関して書かれているのかもしれない。
憶測ばかりだが、判断しづらいのは理解してもらえると思う。
「でもRPGとは書いてなかったような?」
ざっとレビューに目を通してみるが、文字化けが多く情報が少なすぎる。
それならば詳しい説明文を見ようと思うが、追加情報は無いにも等しいものだった。
バージョンは2といくつか。
提供開始が今から半年程前。
お問い合わせメールアドレスがあって、会社の住所が書いてある。
そこまでは不自然な場所はない。
だけど1つだけ不思議なことが書いてあった。
「提供元『神様』ってなんだよ」
ちょっと笑えた。
神様とかどんな会社だ。
もし神様が提供してるとして、この住所は神様が住んでる住所なのか。
それなら自分を神様とか言っちゃう痛い人だなぁ、って。
奇を
ここを見れば、だが。
「んー……どうしようか……」
わたしはガチャが嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
いいのが出ると嬉しいし、コンプしたくなる。
贅沢が出来るような余裕はないから、貯めて微課金で回すこともある。
ゲーム内通貨だと貯まったら即ガチャる。
当たった時の嬉しさといったらない。
ゲームを探していたけど、これをやってみてもいいかもしれない。
面白くなかったら止めればいいんだし。
「やってみるかー」
そんな安易な気持ちで『ガチャろう』に手をだしたのだった。
『ガチャろう』はガチャが出来るアプリでした。
いやほんと、ガチャるだけだったんだよ!
……いや、『だけ』ってわけでもないか。
『ガチャろう』をダウンロードした時に、ついてきたものがあった。
『カードホルダー』だ。
『ガチャろう』は本当にガチャしか出来ないのだが、『カードホルダー』──長いので『本』としよう──に、ガチャで出たアイテムやスキルが仕舞われている。
この『本』というのは『カードホルダー』を起動すると、スマホがブックタイプのカードホルダーになるのだ。
どちらも安易なネーミングだと思うが、わかりやすくていいとも思う。
『ガチャろう』アプリを開くと、画面のど真ん中に定番だろうガラガラと持ち手を持って回すタイプのやつがあった。
福引とかで回すアレだ。
そしてその下に『1回500円』と『10回5000円』とボタンがあった。
それぞれに『1日1回のみ』と書かれていた。
更にその下に『1日1回無料』ボタンがある。
『10回5000円』の方には吹き出しがあり、『SR以上1個確定』と書いてある。
ガチャというものを知る人ならば多分、よくあるパティーンと思ってもらえるだろう。
かく言うわたしも思った。
何が出てくるかわからないので、とりあえず1日1回無料のボタンをタップする。
すると持ち手の所に矢印が出てきて回す方向を示す。
矢印に従って液晶に触れながらくるりと指を時計回りに動かす。
がちゃがちゃと音を立てながら揺れた後、ぽとりと玉が出てきた。
白い玉だった。
その白い玉がアップになるとぱかりと真っ二つに開き、中からカードが出てきた。
カードの左上には『N』、下には『低級体力回復薬』と書かれていて、ど真ん中には淡い赤色の液体の入った瓶が描かれていた。
詳細を見たいと思って画面をタップするとカードがくるりと回って小さくなり消えた。
「えっ?消えた?」
一瞬ぽかん、とするもそういえば『本』があったな、と『カードホルダー』を起動させる。
『カードホルダー』はガチャで出た物が仕舞える、そして取り出せるものだった。
不思議だろ?
本のサイズはB5程で、厚みは5cm以上あるが重くはない。
ノートを持っているぐらいの重さしかないのだ。
そしてカードホルダーとは言うが、カードは入れられない。
入れる場所がないのだ。
表紙を開くと物凄くハイテクっぽい。
左側にはまず、分類設定が出来るボタンがある。
あいうえお順、入手順、種類順、と自分が使いやすい様に設定出来るらしい。
そしてこの分類の中に『世界順』とある。
『ラーナリア』
『フィーセリオ』
『大和大日』
『フェアリーガーデン』
『地球』
地球は……地球だろう。
わたしが今居る場所だと思う。
フェアリーガーデンとは、そのまま妖精の花園、でいいのだろうか。
妖精といえば可愛らしい姿の方がすぐに浮かぶ。
ここだけ見てもファンタジー感ありありだね。
後は……横文字の世界は外国風で、漢字の世界は和風っぽい。
それぐらいしか判断がつかないね。
真ん中程に検索バーがあり、下の三分の一ぐらいのスペースを取っているのはキーボードだ。
検索バーをタップするとキーボードで文字が打てる。
そして右側のページには横に4マス、縦に3マスのカードホルダーがある。
だけどつるっつるなのだ。
カードを入れる袋などついていない。
じゃあどうやって出し入れするのかといえば、取り出すには指で触れてスライドさせるのだ。
上下左右、斜めもいけた。
ぽん、と小さな音を立てて飛び出してくる。
カードの右上に『×01』みたいに表示されていて、纏められるみたいだ。
仕舞う時は本に触れさせると勝手に消える。
確認してみるとちゃんとホルダー内に収められている。
ガチャで出たものは全てカードのようになっているのだが、僕が手に取る時にはカードじゃない。
ただ、ガチャで出た物だけが倉庫に出し入れ出来るみたいだった。
わたしのペンとか本とか入れられなかったからね。
残念。
閑話休題。
本の中に仕舞われている『低級体力回復薬』をタップする。
するとカードの裏面に変わり、そこに簡単な説明文が表示される。
・低級体力回復薬
これを使うと体力が10回復する。
一般的な回復薬だと思う。
本から取り出した回復薬は瓶に入ってて、淡い赤色をしていた。
イラストの通りだ。
瓶は手のひらより小さめ、そして少しとろっとした液体自体が淡い赤色だった。
ここまで確認して、ちらりと時計を確認する。
只今の時間、22:32。
深く息を吐き出し、新たに空気を吸い込むと立ち上がる。
「紫ぃいいい!桂花ぁあああ!」
そしてわたしは部屋を飛び出した。
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