第21話 異世界求職者-17
いくら揺すってもデアダクリは目を開けない。
心なしか輪郭がぼやけているようにも見える。
消滅の二文字が頭をよぎる。
「フェン」
ソールに呼ばれたフェンリルがこちらに近づいてくる。そして、赤い鼻をヒクヒクさせてデアダクリの匂いを探り始めた。
「どうだ?」
「カクガグチャグチャ」
拙い声がソールに向けられた。
「……栄太、この水神を救いたいか?」
そんなことは聞かれるまでもない。
「助けたいに決まっている」
「わかった。でも、最終的な決断は俺の話を聞き終わってから下してほしい」
「そんな悠長な事を言っている時間はーー」
ソールが俺を睨んでいる。有無も言わせないその威圧感に圧倒されて口を噤んだ。
「栄太は、フェンの声が聞こえるみたいだから使役術を使える素養がある思う」
「使役術?」
「簡単に言えば上位の存在に力を借りるための術式の一つだ」
「ソールもフェンリルに対して使役術を使っているのか?」
「俺たちの関係は少し特殊だから、あんまり参考にはならない。そもそも俺はフェンリルのことを家族だと思っているからな。対価とか代償なんてことを考えたことはない」
「対価に代償?」
「通常、上位の存在と契約するには対価が求められる。俺の知り合いの竜騎士なんかは、七代前の先祖が結んだ契約のせいで戦場で死ぬこと以外許されないんだ」
「七代って……」
「上位の存在になればなるほど俺たちの常識なんて通用しない。矮小な俺達常人種なんて取るに足らない存在なんだ。一時の戯れで力を貸してくれることがあったとしても、法外な対価や代償を求められる。栄太にはその覚悟があるのか?」
「ある」
「上位種しかも神の系譜に連なる水妖なんかと契約を結ぶのがどれだけ危険な行為か理解しているのか?」
「理解している。ただ、俺には支払えそうな対価がないことだけが気がかりだ」
「…その点は心配ない。そもそも転生者は上位の存在とは契約を締結できない。だが、求職者である栄太にはその素養がある。それだけで食いついてくる存在もいるだろう」
「契約すればデアダクリは助かるのか?」
「彼女の核つまりは命の源は相当な深手を負っている。通常の上位種側に主導権を握られる契約では彼女を救えない。おそらく、栄太の命を捧げても消滅を少し先延ばしにできるだけだ。だから、彼女を助けるためには主導権をこちらで握った上で契約を結ぶ必要がある。その術式が使役術だ」
「何か普通の契約よりも数段難しいような気がすんだが…」
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