36話「犬さん、荷車要塞を目撃する」


ブログver

http://suliruku.blogspot.jp/2016/11/36.html



獣人とゴブリンとの戦争は終わった……。

うむう……ブラッドイーターを倒した後は、本当に楽勝だった。

生き残っているゴブリンリーダーを皆殺しにして、僕達が現場から立ち去るだけで十分。

共通の敵である僕達が居なくなったせいで、団結力が皆無となり、ゴブリンたちは指揮権を巡って殺し合いを繰り広げて自滅して人生終了。

残されたのは、オグド隊長率いる略奪共同体の本隊だ。

それは今、北方の地へと移動を始めている。

60万に増えたゴブリンを、大量の小集団へと振り分け、巨大遊牧国家がある草原へと足を踏み入れようとしていた。

僕は邪神の身体を借りる事で、遥か東の地を大地を見ている。

……遊牧民族って、戦闘技能を取得しやすい環境だから、スキルスロット持ちが誕生すると厄介な地でもある。

スキルの削除は、転生術みたいなスキルを持ってないとできない仕様だから、ほとんどがゴミスキルを取得して無用の長物と化す。

しかし、大自然に隣接し、兵士になりやすい環境だと、戦闘スキルを取得しやすい。

遊牧民族はスキルスロット的な意味でも、かなり厄介なのだ。


『略奪共同体の数が20万ほど増えている件』

『つまり……途中で食べる食用肉を増やしたって事だお』

『でも、動きまくって疲れた肉って不味いんじゃ……?』


ゴブリン達がモフモフ村へ行こうにも、山道は僕と近隣に住んでいたゴブリンが壊しすぎた。だから、ナポル達を見捨てて北へ移動しているのだろう。

春になれば東方諸国が攻め込んでくる。その前に、草原地帯を通ってエルド帝国へ行こうとしているようだが……その選択肢は正しいのだろうか?

遊牧民の縄張りを侵している訳だし、激怒した連中が襲撃してくると思う。

未来に暗雲が漂っている中……オグド隊長と、部下のバンドは馬に乗りながら、略奪共同体の各所を視察しているようだった。


「た、隊長!

遊牧民をどう対処しますか!

財宝をばら撒いて、同盟を結ぶ案はどうっス?」


バンドの女々しい声に、パイプでタバコを吸っているオグド隊長が煙を吐いて返答した。


「……逆に考えるんだ。

飢えた狼に肉をあげたら、もっと寄越せと言ってくるに決まっていると考えるんだ。

だから、財宝をバラまくのは下策だろう」


「じゃ、どうするっス?

このまま行くと、遊牧民が襲いかかってくると思いますが……?」


「うむ……その問題については……ヤン少将が画期的な戦術を提案してくれた。

今、向かっている最中の集団が、その戦術を実現するために荷車を研究・改造して頑張ってくれている」


「荷車を改造?」


「遊牧民と言えば騎兵が主力。

騎兵といえば……城攻めに弱いと相場が決まっているな?」


2匹は馬で、丘を駆け上がった。

今まで隠れていた光景が、丘の頂上から見えてくる。

そこに合ったのは――馬車の荷車に、木の装甲版を付けた簡易城塞があった。

肉食動物に怯える草食動物のごとく、円陣を組んでいる。こういう陣地が30個ほど密集していた。




    車 門門門 車

 車          車

車      馬馬     車

  車           車

    車      車

      車車車車


荷車に設置された装甲版には、各所にボウガン用の穴が空いていて、遠距離攻撃戦で有利になれる作りをしている。

敵の攻撃は装甲板がほとんど防ぎ、その優位を利用して敵軍に損害を出す。そんな仕様だ。



木木木木木木木木木木木

穴穴木木木穴穴木木穴穴

穴穴木木木穴穴木木穴穴

木木木木木木木木木木木

木木木木木木木木木木木

木木木木木木木木木木木


フレイル……鞭の先っぽに金属片を付けた武器を使えば、木の装甲に守られながら近づいてきた敵を近接攻撃する事も可能である。

まともに攻め込めば、遊牧民はこの荷車要塞の周りをグルグルと回る嵌めになって苦労する事だろう。

それを理解したのかバンドはこの荷車要塞を見て驚愕していた。戦史の常識が変わりかねない光景を見た、そんな雰囲気を醸し出している……。


「こ、これが新しい戦術ッスか!?」


「そうだ、装甲をつけた荷車で円陣を組めば、簡易城塞を短時間で作れる。

騎兵はこの防御の前に損害を出し、疲弊して逃げ出した所を追撃して叩いて叩きまくれば……私たちは楽をしながら、国境付近の都市で食料を得て、エルド帝国へ向かえるという寸法だ」


「す、すごいッス!隊長!

戦史が変わるかもしれない新戦術ッス!

あれ……ナポルが無駄死に?」


「無駄ではないぞ。

ナポルは身をもって教えてくれたのだ。

よく考えたら――狭い山道を60万の大軍が通るのは無理じゃね?俺を犠牲にして前へ進んでくれー!オグド隊長ぉー!とな。

どうやら現地では領地相続関連の争いがあったようだが、それでも突破するのは無理なようだな。

美味しい男を無くしたものだ……ナポル、お前の犠牲は無駄にしないぞ」


「そ、そうか……ナポルはそれを伝えるために犠牲になったっス……」


誤魔化されたバンドは、仲間の死を思いっきり美化した。

うむう……実行する前に止めろよ……。

山道を大軍で進むなんて……大勢のゴブリンが脱落すると思う……めっちゃ迷惑で死にかけたし。


『いや、常識で考えたら、進めると思うんじゃね?モフモフ村まで到達したら、西の交通インフラ使えて楽だし』

『犬さん、それは犬さんの願望だお。現実はウンコだお』


現実がウンコ?いや、違うね。

今、僕の意識は、この遠い地にあるが、モフモフ村にいる僕の体はモーニャンの大きな尻尾をモフモフしながら昼寝中だ。

モフモフな獣娘がいる限り、天国になる可能性が幾らだってあるんだい。

オグド隊長に待っている未来は……地獄だろうけどな。


「私たちはナポルの犠牲を無駄にしないためにも、冬が来る前に平原を突破しなければならない。

平原の南側は比較的、暖かいと聞くが、雪でも降ったらおしまい……とまでは行かなくとも、とても苦労するだろうな」


「分かりましたッス!

急いで進軍できるように、もっとちゃんとした補給計画を立てます!」


「うむ、よろしく頼んだぞ、バンド。

君の後方支援能力を私は高く評価している」


「隊長……」


……うげげっ!まさかゴブリン同士でも同性愛とか、ホモ文化があったりするのだろうか?

2匹とも熱い目線で相手の事を見つめている。

確かにバンドは女っぽい声をしているし、背丈も低い。

だが、男同士でやるか普通?

尻尾なしどもの考えは僕には分からな――


「くれぐれも、女だとばれないように気をつけるのだぞ?」


「はい、わかったス!」


『え?バンドが女って伏線あったかお?』

『ゴブリンの性別なんてどうでもいいから、気づくはずもない件』


なんだ……男と女だったのか。

鶏のヒナの性別並にどうでも良い問題だった。

勝手にイチャついてくださいよ……もう……。

戦場に男装娘を持ち込むのは、戦場のテンプレだけどさ……ゴブリンでこのオチはないと思う……。


『犬さん、荷車要塞の評価はどうだお?』


うーん、荷車城塞か……。

この戦術を発展させて、帝国へと進行してきたら厄介な事になりそうだなぁ……と思ったのだが。

これ、今の状況で役に立つのか?

ゴブリンと共食いしながら現地へ向かうとはいえ、相手は遊牧民族。

普通に……荷車要塞が厄介だと知ったら、周辺に騎兵を出しまくって移動を妨害して、冬が到来するまで徹底的に足止めを兼ねた嫌がらせを行うのではないだろうか?

遊牧民族ってほぼ全部、騎兵だろ?

こんな状況になったら、どうするんだ?



馬  馬    馬     馬


馬    車 門門門 車     馬

馬   車         車

馬  車   馬馬    車

馬   車         車    馬

馬    車       車

馬      車車車車

    


馬   馬   馬     馬

    

……移動も、撤退もできないように、騎兵集団に広く包囲されて、一匹残らず飢えたり、寒さで凍えて死ぬと思う……

その後、略奪共同体の情報は、平原の地で途絶え、オグド隊長の名は歴史の片隅へと消え去ったそうな――

っていう展開になったら、僕は爆笑しながら冬を過ごせて最高なのだが。

帝国へ到達したら到達したらで、それも結構良いかもしれない。

人間側が混乱している間に、僕も色々とできるだろうし。

さぁ、今日は尻尾を楽しもう。

狐娘の黄金の尻尾をたくさんモフモフして、今ある幸せを確かめよう。


「さらにハンドルを回せば、矢を連射できるボウガンも開発したのだ」


「すごいッス!隊長!」


「だが……片手でハンドルを回すから、両手で装填するボウガンと違って射程距離が短くて、使い道が分からなくてな。

すぐに部品が壊れて使えなくなる事もあって、量産に向いてないのだ」


「開発って儚いっスね……」


 

 

★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)先生ー!

遊牧民族って強いんですかぁー!


●(´・ω・`)馬とか、昔は最新鋭の兵器じゃったろ?

それを大量に保有していて、日常的に馬に乗っておるんじゃよ?

最強に決まっとるじゃろ?

人口は超少なくても、戦闘に使える割合が極端に大きいし、すごいんじゃよ?



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)☚銃があれば、簡単に駆逐できる雑魚だとしか思っていない。

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