35話「犬さんのブラッドイーター戦 終」

ブログver

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ブラッドイーターは、高速で飛んでくる矢を迎撃していた。

これがどれほど恐ろしい技量なのか、僕には分かる。

よく考えてもらいたい。普通の剣術家は槍の突きすら見切る事ができない。

恐ろしいほど突きが早すぎて、人間の反射神経では対応できないのだ。

矢なんてもっと早い。拳銃弾並のエネルギーを持った矢が、視認できないはずの速度で移動するのである。

僕の弓術の技能スキルはLv99。

ブラッドイーターも恐らく、剣術の技能スキルがLv99なのだろう。

しかし、剣術だけをひたすら極める事によって限界突破し、Lv99を超越し……限界を突破してしまったようだ。。

……ここで僕が自動小銃持ってたら『近接戦闘を極めても、銃の前じゃ何の意味もないぞ』と宣言して爆笑できるのだが……。

僕は僕の方で銃を作れない理由がある。

……銃は弓と違って、素人でも簡単に取り扱う事ができる。

それは人間の数の暴力が、今まで以上に発揮できる事を意味し、数で劣る獣人が不利になってしまうのだ。

少子化問題を解決しないと、銃器の開発なんてやってられない。

一度でも、完成品を作ったら必ずパクられる。

銃弾を量産する工業力は人間側が遥か上だ。生産力勝負に持ち込まれて獣人は根負けする。

ならば――弓で倒すしかない。他にもブラッドイーターを倒す方法があるが、銃と似たような理由で無理である。


「この小僧がぁー!遠くからチマチマとぉー!」


ホワイトと僕の矢が、ブラッドイーターがいる場所で交差する。

矢を剣で斬り払い、ブラッドイーターは前進しようとするが――矢が連続して何本も的確に飛んでくるから、迎撃に時間を取られて、間を詰められなかった。

しかし、僕側にも問題がある。瞬間的に矢を大量消費するから……定期的に隠した矢筒を回収しないといけず、その行動が隙となる。

ブラッドイーターは、着実に、僕の近くまで迫ろうとしていた。

足が負った怪我を物ともせず、憤怒の形相で矢を斬り、僕を斬ろうとしている――


「ぐぬぅ!」


そんな行動を利用して、僕は落とし穴へとブラッドイーターを誘導した。

態勢を崩した瞬間を利用して、8連矢を放つ。

だが、痛みを我慢したブラッドイーターは二刀流を駆使し、最小限の動きで矢を弾き、あるいは切り落とした。

……うむう……治癒力低い癖に根性があるなぁ……この戦い、疲れてきたぞ……。

8連矢は、腕に負担がかかりすぎて三歳児ボディには、ちと辛い。

指が小さいから、矢を何本も抱えて連射するのも大きな負担だ。


「貴様を倒す手段を考えたぞ!小僧ぉー!」


そう言って、ブラッドイーターは左手に持っている剣を落とし、体中に鎧代わりに装備している剣を次々と落とし、両手で黒い愛剣を握った。

迫り来る矢のほとんどを回避し、回避できない矢だけを剣で叩き落とす戦術へと移行……げげげっ!

装備品を減らす事で、身軽になってスピードをアップしやがった!


『あれ?犬さん?』

『負けそうな雰囲気だお?』


「ふははははははっ!軽いっ!体が軽いぞぉー!

今なら、貴様を容易く斬れるぅー!

さらにぃっー!」


茂みを防御壁代わりにしたブラッドイーターが勢いよく、小瓶を取り出し、白い粉を飲み込んだ。

匂いから考えて、恐らく……麻薬である。身体を興奮させる作用のアレ。

現実の略奪共同体も、兵士を洗脳するためによく使うから、ブラッドイーターも当然のごとく持っていたようだ。


「今の俺は最強だぁぁぁぁ!痛みも恐怖も感じないっ!

最高にハイッって気分だぜぇぇぇぇぇ!

まずはホワイト!貴様から殺してやるぞぉぉぉ!」


落とし穴を利用しまくる僕を殺す難易度が高い……そう、判断したブラッドイーターが、ホワイト目掛けて走った。

その背中に向けて、僕は矢を放つが……索敵系スキルで攻撃が探知され、後ろに目があるかのような感じに回避されてしまう。

ブラッドイーターは途中にある落とし穴に、何度も引っかかり、足がボロボロになりつつあるのに速度が緩まない。

頭を下げてホワイトの矢を回避し、距離を詰めた。

咄嗟に彼女は化合弓を掲げて盾にするが、黒い剣が袈裟斬りに、美しい少女の――


『罠に引っかかりまくりだけど、どれも軽傷を負わせる罠だらけすぎて意味がない!?』

『ホワイトたんっー!』


小さな胸を切り裂いた。

シャツが化合弓ごと、バッサリと切断され、衣服が血に染まり、ホワイトは地面へと倒れた。

出血多量死しかねない。僕は急いでブラッドイーターの攻撃をやめさせるべく、矢を弓のケーブルに番える。

チャンスは一度。

地面に倒れているホワイトへトドメを刺そうとするブラッドイーターの一瞬の隙。

矢を回避できない、そんなタイミングで仕留める事ができなければ――ホワイトは死ぬ。

もちろん撃つならば、最速の矢でなければならない。

すなわち、膨大なエネルギーを込めた軍船撃沈矢を撃たなければ防御される。

体内に残った魔力を消費させまくり、心臓の脈動を早めて、動きを加速させる。

この一撃で全てを決める!


『犬さんー!博打やりすぎぃー!』

『うわぁぁぁぁぁ!ここで犬さんが死んだら全てが終わるぅぅぅ!』

『ヤハウェ様!破壊神様!モフモフ様!助けてぇぇぇぇぇぇ!』


軍船撃沈矢っー!

超高速の矢が解き放たれた。風を切り裂き、音の壁すら突破し、ブラッドイーターに迫る。

だが、ブラッドイーターは――黒い愛剣を手放し――


「馬鹿め!俺にこのナイフを与えた事を忘れたかぁー!」


ブラッドイーターはこのようなセリフは言ってないが、そんな感じのセリフを吐いてそうな行動を取った。

僕が作り上げた究極のナイフ。ダマスカス鋼のナイフを手に取り、背中を向けたまま、後ろ手で矢を切り裂き、迎撃しやがった。

軍船を沈没させるエネルギーは、恐ろしい切れ味に真っ二つにされ、ブラッドイーターの頬を切り裂いて、木に着弾してバラバラに四散する。

あ、僕、詰んだ。

ナイフは剣より超軽い。つまりブラッドイーターはもっと早い速度で僕の所までやってこれる。

魔力を大量消費し、腕が痛くなってきた僕には辛すぎる状況だ。

ブラッドイーターも足と手がボロボロで辛いだろうが、こっちは幼体で、向こうは成体。

最後は基礎スペックの差で、僕の人生が詰まれてしまうだろう。

ならば、僕がやるべき事は――奇策あるのみ。獣人の種族特性を生かした最後の罠だ!


「小僧ぉっー!残念だったなぁー!」


「皆ぁー!やれぇー!集中放火だぁー!数の暴力でお前を押し潰すぅー!」

僕は化合弓を掲げて、矢を撃つ素振りを見せた。


「誰が引っかかるか!ここには犬コロとホワイト以外の気配は存在しな――」


ブラッドイーターは気付かなかった。

僕が何のために声をあげたのか。

彼のすぐ後ろにいるホワイトが、残った力で、落ちている黒い剣を拾い上げる――その音を消し、ブラッドイーターの注意力と索敵スキルを逸らすために、僕は声をかけたのだ。

勢いよく突き上げられた黒い剣は、索敵スキルが反応する前に、ブラッドイーターの胸を貫通する。

ホワイトの怪力と名剣が組み合わさった結果だ。

骨や肉を全て切断し……心臓を破壊した。


「ば、馬鹿なっ……動けないはずだ!」


ブラッドイーターは信じられない顔をして、胸から生えている愛剣を眺めている。


「主様が先ほど言いましたが……痛いのを我慢すれば……問題ありません、

あと……拙者への一撃……手加減しましたな……?」


……ブラッドイーターは、どうやらホワイトに思い入れがあったようだ。

考えて欲しい。こんな化物相手に……当時、弟子だったホワイトが逃げ延びる事ができただろうか?

百匹の精鋭ゴブリンを残さず皆殺しにできる手際から考えても、それはありえないと断言できる。

ブラッドイーターは内心で、今の自身の現状に不安を抱き、ホワイトを見逃してしまったのだろう。

獣人とゴブリンは異種族同士だが、獣人には素晴らしい尻尾と獣耳がある。動物みたいなプリティーな可愛さに……ペットと同じレベルで……ホワイトを大切だと思っていたのかもしれない。


「くくくくっ……!ふははははは!

さすがは俺の弟子だ!最後の最後でやりやがった!

この俺に致命打を与えたのは!お前が初めてだ!

残念だ!もっと鍛えてから斬り合いたかった!」


……うむう……魔力を大量消費しすぎて、僕の体が動かない。

このままでは、麻薬の力で動けるブラッドイーターに殺されてしまう。


「そこの小僧ぉー!赤ん坊に毛が生えた程度の存在の癖に、俺をここまで追い詰めるとは凄いなぁ!」


相討ちか……。

ブラッドイーターも出血多量死で死ぬとはいえ……もっとみんなの尻尾をモフモフして生活したかったなぁ……。

覚醒して二ヶ月も立たずに死ぬとか……僕の人生って一体………


「これで……俺の人生も終わる……喜べ小僧……。

貴様はブラッドイーターを倒した強者よ……今日から鮮血の猛犬を名乗るが良い……。

そして忘れるな……俺と同じ匂いがする小僧。

これが貴様の――未来の姿だ」


その声が終わると同時に、倒れる音が響いた。

僕は視線を、ブラッドイーターに向ける。

そこには仰向けに転がって、事切れている奴の姿があった。


『犬さんの……勝利だお?』

『うむ……ギリギリだったな……』


戦いには勝てたが……こんな難易度が高すぎる戦闘はしたくないな。

剣術の技能を限界突破している時点で、可笑しい奴だった。でも――


「……こいつはこいつで、人生のレールから外れすぎている事に悩んでいた被害者だったのかもな……」


「胸が痛いですなぁ……傷が完治するまで、少しかかりそうです……。

また胸が小さくなりそうですなぁ……回復のために栄養が搾り取られそうです……」


僕もホワイトも、仰向けに寝転がる。

ホワイトの傷は酷いようだが、もう血は止まり、怪我が治りつつあるようだ。


「胸が小さくても良いだろ……僕はホワイトの尻尾をモフモフしたいんだ……」


「ふふふふふ……本当に変わっていますなぁ……。

普通はオッパイに興味を持つと思うのですが……」


……うむう……変態だけど、やっぱり良い女かもしれない……。

強敵との戦いで、命を賭けてくれる女性と巡り会えた。冬が近づいて寒いけど良い日かもしれない。

体力が回復したら、ご飯をたくさん食べて、たっぷり尻尾をモフモフしよう。


『おおっ!凄いですぞ!犬さん!』


いやな予感がするが……どうした?


『ホワイトたんと一緒に協力プレー!ブラッドイーターが弟子への愛ゆえに手加減して死ぬっていう展開が王道中の王道な感じがしますお!

敵も仲間も全部協力して、ラスボス打倒展開!』


「……お前らのせいで、感動が台無しだよ!」


戦争の勝敗は握った。

あとは……戦の後始末だけだ……。



【転生術スキルで、スキルスロットを2つ強奪しました】


【殺害カウンターが作動しました。

3万8000人です】

ゴブリン労働者3万 ゴブリンの精鋭千匹  難民ゴブリンの集落7000匹


【スキルスロットを合計5個獲得しました】


ナレーション邪神さんの声が、超久しぶりだった。


★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)たった50人で、3万8000匹のゴブリンを倒せるんですか?



●(´・ω・`)ほとんど餓死とか、遭難じゃし。

冬が近くなれば、もう家に引きこもってモフモフすればええし。


★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚) うわぁ……

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