5話 「犬さんの投石術②」

ぶろぐvar

http://suliruku.blogspot.jp/2016/10/5.html


複数の邪神を経由して、ネットワーク回線を使うように、遠くにいる邪神と感覚を共有する。

その視界には、豪華な装飾が施された食堂――ではなかった。

高い壁に守られた城の中、その中庭でテーブルを大量に広げて、冷め切った料理を食べている人間達が五十人ほどいる。

恐らく、火事を恐れて、厨房が遠くにあるから、スープが冷え切っているのだろう。

器の代わりに、硬いパンを使っており、その上に野菜や肉を載せている。

スープだけは器を使わないと溢れるから、仕方なく使っている感じだ。

――つまり何だ。とっても不自由すぎる食文化が大流行中なのだろう。これから察するに『食べ物を器に入れてはいけません』という食事マナーがあると見た。


『この世界は、宗教団体が超ウルサイですお』

『大食いできないと出世できない世界観だお』


僕は、この中で一番偉い人物を探す。

他の人間達と違う、高価な青色の絹の衣服を着た30代後半で金髪の男性を見つけた。


「ガッハハハハハ!酒がうまい!

どんどん肉をもってこい!

ワシが痩せていては、家の格を疑われるからな!」


かなり痩せていて、太るために次々と肉を食べようと励んでいる。肉を食べながら酒を飲んでいるから汚い食いっぷりだ。

そして――この場にいる人間達は恐ろしいほどに不衛生な身体をしている。身体を全く洗っていないと思えるほどに、酷い匂いを周りに撒き散らしているのだ。


「今頃、兄貴の息子は死んでいるだろうなぁ!

そう思うと肉が美味い!美味いぞぉー!

ワシはワシの力でっ!権力の椅子を取り戻したぞ!ガハハハハハ!

正当な人生を取り戻したのだぁー!」


「そりゃ死んでますよ!親分!

三歳児のガキですぜ?

赤子の首を捻る感じに、簡単に殺せますさぁ!」


叔父の取り巻きどもも、僕が死んだと思っているようだ。

なら追撃部隊は、しばらく来ないと判断した方が良い。

僕は自分が有利に戦えるための時間を手に入れたという事だ。

叔父は時間を無駄にしているという自覚もなしに、酒を一気に器から飲み干し、今という時間を楽しむ事に必死である。


「さぁ!飲め!騒げー!

クソガキを殺したら、獣人のメスを集めて盛大に楽しもうではないか!

下等生物だが見た目は中々に愛らしいぞ!

存分に食い、存分に犯すのだぁー!」


「へへへへへ!

さすが親分!素敵な事を考えなさる!」


「どうせ獣人から産まれるのは、獣耳が生えたガキだろう!

奴隷を増やせて一石二鳥だな!ガッハハハハハハ!

巨大奴隷牧場を作って、この地に独立国家を建設するのもいいかもしれん!」


獣人は繁殖し辛いから、地球では絶滅寸前だった。

叔父の言っている事は、ただの夢想に過ぎない。

巨大奴隷牧場ができるような生物だったら、獣人がこんな状況に追い込まれていないって事すら理解していない。

こんな奴が領主になれば――間違いなく、人間の奴隷の方が、手軽に使い捨てにできて便利だという事に気づいて、獣人を皆殺しにするだろう。


「そうなったら俺達も大出世ですぜ!」


「明るい未来に乾杯!傭兵から騎士になれてありがたい!」


「アポナ子爵様の誕生でさぁ!」


なるほど、叔父の手持ちの兵力は傭兵なのか。

酒を飲んで油断しているし、早朝に攻め込めば簡単に皆殺しにできそう……と思ったが、城には、そんなに酒がないようだ。

酔い潰して、寝込みを襲って皆殺しという楽な展開は期待できない。


『残念だけど貧乏領地なんだお。しかも輸送費で酒が高くなってしまう罰ゲームみたいな立地だお』

『早く内政チートするのです、犬さん』


いっその事、今のうちに、城に攻め込んで奇襲攻撃するべきだろうか?

いや、50人も居たら、僕が返り討ちにあうリスクがある。

人間は絶対、団結させてはならない。人間の長所を積極的に潰さないと僕は負けると思え。

総大将を討ち取っても、離散した傭兵どもは獣人の集落を襲って、領地から脱出しようとするだろう。

ただでさえ数が少ないのだ。獣人の犠牲は出したくない。


「ワァン様ー!新しい石を集めました-!」


モーニャンの声で、僕の意識が、遠く離れた森の中へと戻った。

……素晴らしき狐娘の安全はどうやって確保しよう。

城の近くに村があるが、そっちも邪神経由で調査すると――傭兵の姿が30人近く見える。村から離れた場所で、獣娘を拉致って孕ませようと頑張っている最中だ。

愛らしい獣娘達が、こんなゲス達に酷い凌辱をされていると思うと、怒りで心が煮えたぎって憎悪してしまう。


『オラも激怒したお!』

『獣娘をレイプするなんて、モフモフ好きの片隅にもおけないですぞ!』

『はよ天誅、はよ天誅、はよ犬さん』


冷静になれ、僕。邪神のうざい言葉は無視しろ。

敵の合計兵力は80人。

うっかり、モーニャンを村に返したら、巫女服を脱がされて凌辱されちゃう事は間違いなし。

下手したら傭兵どもに、村ごと燃やされる。

こっちの戦力は実質1人。

可能な限り、敵を孤立させ、各個撃破し、獣人を守り、人間を殲滅しなければならない。

駒が絶望的なほどに足りない。

確実に敵を倒すために、有能な駒が欲しい。


『なら、ホワイトたんを使えばいいお!』


え?誰それ?

ホワイトたん?


『犬さんの弟子ですぞ。白い狼耳が似合う美少女でツインテールが可愛いですぞ。

健康的に焼けた肌がエロエロでたまらんですぞ』

『きっと、あの娘なら役に立ちますお!』


素敵な娘なのだろうか……?

今の僕の人生、恵まれすぎているな……。

こんなにも獣娘がたくさん居るなんて天国すぎる。

で?その肝心のホワイトはどこにいるのかな?


『村の外で大剣を振り回してますぞ!』

『岩を鉄塊で砕いてしゅごいお』

『元は奴隷だったホワイトちゃんを、覚醒前の犬さんが奴隷商人を殺害して助けてあげたんだよ』


岩を粉砕できる女の子……?なにそれ怖い。

そんな奴を弟子にする覚醒前の僕って、ラノベの主人公みたいな奴だな。

いや、僕でも同じ事をするだろうけどさ。

交信術スキルで、邪神どもと、やり取りをしながら、押し寄せてきた猪の頭を、投石で粉砕した。


【一応教えます、犬さんの投石術がLV34になりました】


『こっちのショタもしゅごい』

『うむ……犬さんを見ていると……転生するのをやめたくなるくらい、理不尽すぎるチートな努力だな……』

『オラ達が転生しないのは、努力という概念をぶっ壊した犬さんが全部悪い』


投石って、石を振り回す必要があるから密集隊形取れないし。

僕以外が使うと、とっても微妙な武器なんだよなぁ……。

密集隊形取れないって事は、火力を集中できない事を意味する。

遠距離攻撃武器としては、かなり劣っているんだ。

早く弓矢をGETして、マシンガンアローしたい。

~~~~~~~~~~~~



(´・ω・`)投石と書いて、目が悪いと読む。


(ノ゜ω゜)(ノ゜ω゜)その心は?


(´・ω・`)命中率が悪すぎるでしょう。

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