第七話:蒼を染める桜(後編)
航空隊が訓練を行い、艦橋要員がどうでもいいこと(だが、本人達には至って重大な問題である)について揉めていた丁度その頃。
神山 絆像はというと、とある病院に来ていた。
横須賀区国防軍附属病院 地下二階。
ある人物が入院、兼拘束されている場所だ。
拘束、といってもそれは単なる建前で、その建前の正当性を確立させるためにわざわざこんな地下階の病室を借りているのだ。
地下階、と一括りでいっているがそれは正面玄関から見ればなだけであり、地下二階までは吹き抜けと中庭になっているため普通に病室から景色を眺めることができる。まぁ、見れるのは中庭くらいだが。
「失礼する」
そのとある個室に、絆像は入室した。
「……初めまして」
入ってすぐ近くにあるパイプ椅子を広げた絆像はそれに座るなり、ベットに寝かされていた相手に挨拶する。
相手は少女だった。といっても、彼もあまり変わらない年齢だが。
「俺の名は神山 絆像だ。
日本海軍所属、階級は准将」
日系人かその混血である可能性がある、という報告書も彼は拝見していた。
日本人ではないにしろ、親族に日系人がいるならクラリッサ程でなくとも日本語も話せるかと思い、絆像は敢えて日本語で対応する。
すると、
「カミヤマ……」
赤みがかった茶色の髪を肩まで伸ばしているその少女は、彼の名前を言おうとした───
「……パンツァー?」
───ところで、素でなのか彼の名前を間違える。
「『パンツァー』じゃない『はんぞう』だ」
即突っ込む絆像。だが彼女も中々覚えられない様で、
「……パンター?」
「『パンター』でもない『はんぞう』だ」
彼女が彼の名前を覚えるまで、こんな
一六〇〇。
二時間も飛び、そろそろ慣れてきたという辺りで、僚は「そろそろ模擬戦を始めましょう」と提案する。
ちなみにこの時、真尋と悠美は信濃から見て僚達より2km以上離れた位置にいた。
悠美がまだ機体の操作に慣れていない様なので、真尋と特訓することにしたからだ。
今いる隊員の中でも、面倒見の良さと実力とを計りにかけた結果、真尋が適任と判断した為だ。
言い出した時、龍弥が『ほな適当に俺と隊長さん対残りでええな?』とか言い出した。
「え、正気ですか?」
『おうさ!
なんなら、どっちがどれだけ倒せるか勝負してもええんやで?』
「どうなっても知りませんよ」
そう二人が話していたその時、
『そうと決まればぁっ!!』
そう吠えながら僚の機体に向かってきた別の機体。機体番号から青雲 幸助の機体だと分かる。
僚は機体を“兵士形態”に変型し、突撃を軽く避けながら頭部機関砲で狙う。実弾の代わりに発射されるマーカー弾で相手の機体を染めようとしたその時、
『甘いなっ!』
『甘いですよ、隊長!』
別の二機が試作型でいう70.0mm電磁投射砲にあたる配置に装備されていた50.0mm単装重機関砲で狙ってきた。
辛うじてマーカー弾の弾幕を避ける。
「この二機、城ヶ崎さんと菅野さんか?」
機体の番号からパイロットを特定。というのもあるが、この三人は確か出身が同じで互いにある程度の仲らしい。その為に察することは容易だった。
『おい、二人とも!!
俺の獲物だぞ!!』
『幸助、そりゃ別に構わないが一人で隊長相手は辛いだろ?』
『何をっ!』
なんか、言い合いになってる。
『俺はかつて、彼の
それだけ実力が俺にはある』
なんか、小太郎さんが自慢話し始めた。
僚はよく知らなかったが、叢雲 天といえば第一防空部隊の旗艦を務める正規空母 蒼龍 所属の艦戦隊の第一班 住吉班のメンバーの一人だ。班長
小太郎が幸助に色々語っているその隙に頭部機関砲で射撃し、距離を置こうとした。
そして、距離を離したところで更に三機が襲いかかる。
状況は三対一。
それぞれ年齢が離れているとは言え、三人とも同じ児童養護施設で育った幼馴染みらしく、息の合った連携を見せてきた。
普通に考えれば圧倒的不利な状況。
「───やってやるさ!」
そう吠えながら、僚は電磁投射砲を構えた。
ああ言った張本人の龍弥も、苦戦を強いられていた。
「くぅ、割りとこの量しんどいな!」
三機の機体が機体の周りを埋め尽くしている。
脳に電流が迸る様な感覚を感じる。
“兵士形態” へと変型し、マーカー弾の弾幕を回避し、撃ち落とす。
と、
「後ろから接近警報!?」
『えぇい!』
濃紺色の機体、試作十一号機───陸駆 電子が機体を“兵士形態”に変型させ突撃してきた。
全力で回避。
回避した先で、同じく“兵士形態”に変型していた深紅色の機体、試作七号機───陸駆 雷花の機体が超長距離から放った狙撃を左肩部に食らう。たぶん本日で初の被弾者。
「ぐおっ!?」
若干の衝撃と同時に着弾したマーカー弾が弾け、赤いペイントがへばりつく。
「やったな!!」
吠えながら雷花に向かって単装重機関砲を放つ。だが───。
龍弥の機体、そのコクピットを狙撃したパイロット、陸駆 雷華は。
「───チッ!!」
避けられたせいもあり舌打ちした。
背中から可動式アームを伸ばして使用する電磁投射砲を右側の一門だけ機体の脇下を通すかたちで構えていた。
使い方自体は間違っていないのだが、この武器は実は狙撃には向いていない。手持ち火器の狙撃銃があれば、とは思ったところだが、無い物ねだりはしょうがなかった。
そう思ったその時、龍弥の機体が苦し紛れにか単装重機関砲を撃ってくる。
『そんなんで当たると思ってんの!』
距離の関係もあってか普通に難なく避けられ、まさかの追撃を貰う。
「あかん───!」
その時、
その弾丸が、突然割り込んできた弾丸と
『ふぇっ!?』
雷花が困惑する。
撃ったのは───僚だった。既に三機を退けていた僚が弾丸を狙撃したのだ。
直後、僚の機体が頭部機関砲、肩部ガトリング砲、レールガンを
龍弥を狙っていた十機にペイントを当てて全滅させる。
僚と龍弥、あと実質的に蚊帳の外だった真尋と悠美だけが残った。
予断だが、コクピットにマーカー弾が被弾した者及び汚染(?)率が80%以上に到達した者は信濃に帰還する様に言っていた為、全員艦へと戻っていく。
僚に通信を入れた龍弥。
「さっきは助かったが……お前さん、ここまで強ぇとホンマこないだまで工兵科で学生やってたんか疑いとうなるわ……」
『え、そうですか?』
「そうですか、て……」
謙遜というか無自覚さに呆れる。
「まぁ、えぇか。
ほな、信濃に帰ろうか」
『そうですね』
そう言って、離れて見ていた真尋と悠美にも通信を入れ、四人で信濃へ帰還した。
時刻、二二三一。
艦長室へと帰還した絆像は一人PCに向かい、Wordで書類作成をしていた。
「…………」
一人、ふと思考に耽る。
『君の名は?』
『……エーリカ』
『君は何故ここに来たんだい?』
『…………』
『少し話を飛ばしすぎたか……君は確かティーガーに乗っていたんだったか。
君は東ドイツと何か繋がりでもあるのかい?』
『……私の、祖国だ』
『祖国?』
『私は、東ドイツ皇国陸軍に所属している、大尉だ』
『……私は、輸送任務の護衛を頼まれていた。
それだけだ。
……正直、他に何も聞かされていない』
『あくまで無知の偏見だが、東ドイツはほぼ鎖国状態だろう。
何故他国と連携する様なまね……いや、違うな。
他国と連携していたというなら、何故この国を襲撃したか、という話になるな』
『それは日本軍が攻撃を───』
『ここは日本だぞ?
領空侵犯も良いところだ……そのうえ、先に攻撃したのは君らだと聞いている。
調べたところ、どういうわけか日本中の防衛網が機能麻痺を起こしてて領空侵犯に気付かれていなかったらしいからな』
『は……あっ』
『思い当たることでも?』
『……そういえば、東ロシア軍から追手がどうのとか言っていた様な』
『東ロシアから追手……あっ、ふぅん……』
「……要するに、クラリッサ達脱露者組を何かしらの追撃者と勘違いして、気が付いたら日本の上空を飛んでいてそいつらにまた遭遇したから迎撃した、んでそっから
アホだろ、と一人愚痴りながら、絆像は手元の印刷機から出てきた報告書を取り出して机の上に置き、そのままベッドへダイブした。
「……なぁ」
ひっくり返り仰向けになった絆像は、自分の机に向かい、
「お前はどう考える?」
彼が座っていた椅子に座る、巫女装束姿の女性へと問いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます