第三話:主砲、斉射(後編)
信濃 CIC。
「試作三号機……バッテリー切れにより、沈黙。
もう彼は、戦えません……」
優里が各員に伝える。ほぼ孤軍奮闘状態だった存在が動けなくなり、焦り始めている。
『いえ、まだよ!
まだ諦めるのは早いわ!』
無線越しでだが全員を鼓舞する深雪。だが、現状は芳しくない。
「左舷副砲、一番、二番、四番、残弾0。
三番、五番、残弾……各二発。
……一射で仕留めるのは、さすがにきついぜ……」
優里はふと、レーダーを確認した。
と───、
「───敵イルメン級一機、なおも接近中!
これは……追突コースです!!!」
「させるかよっ!」
吼えた武彦は引き金を引く。
副砲から吐き出された徹鋼弾が敵機の胴体を穿つ───筈だった。
「───なっ!!?」
その装甲はかなりの強度があるのか、弾丸が易々と弾かれた。
「何故砲弾が通らない!?」
「電磁装甲……」
驚愕する武彦の横で、クラリッサが呟いた。
「レールガンの技術転用で、表面に磁気を纏わせることで金属製の武装による物理的な攻撃を受け流す装甲です。
砲弾どころかミサイルですら受け流されてしまいます……。
あれを突破するには……非金属製の砲弾か受け流し切れない程に強力な一撃を与えるかしかありません……」
「はぁ!!?
んなチート装備積んでやがるのか……」
驚愕のあまり、武彦は呆気にとられる。
「このままだとやられるぞ……!?」
そんな中、バッテリーが上がった試作三号機はまるで子供が空を眺めているかの様に尻餅をついている。
だんだんと接近してくる敵機。
「敵との距離、2000メートルを切りました。
高度、方向、直撃コースのままです」
現状に絶望しきって、CIC要員は全員動けなくなってしまっていた。
───若干二名を除いて。
その頃、
「おいおい、こりゃまずいぞ……!!」
甲板上の様子が確認できるモニターを見ながら、獅子谷 聖が戦慄に近い反応をする。
ベテランの
そんな時、香坂 狼牙が吼える。
「この
「いや、ドックにいるんだから沈まんだろう……」
冷静に突っ込む聖。だが、次にこう付け足した。
「にしてもここはまだ大丈夫だろうが、
その時、二人はあることに気がついた。
本艦の主機『六号三型艦本式核融合炉』が、下火状態で稼働させていたものだったのが、本格的に稼働し始めていた。
「なんだ、こりゃ……!!」
「これ、まさか……!!」
狼牙が単に驚いたのに対し、聖はあることを察した。
「まさか、主砲撃つ気じゃ……!!」
副砲程度なら、下火状態程度の出力で十分稼働できた。
だが、主砲は───。
「……まさか、な」
フル稼働、とは行かずとも下火程度では一基どころか一門すら難しかった。
少なくとも、今装備されている主砲だった場合は。
現在CICにいるメンバーでただ一人、クラリッサだけ動いていた。
正確に言うと二人、絆像とクラリッサが動ける状態であり、絆像は動かずにとある仕事をしていた。
───ニューラルリンケージ、接続準備完了───
絆像の脳内に、謎の音声が流れる。周りの誰にも聞こえていない。
「シンクロ開始」
軽くそう呟く絆像。無論その一声は小さく、ここに居る者達には誰も聞こえていない。
───ニューラルリンケージ、接続開始───
彼の言葉に反応するかの如く、『彼の中で』声が響く。
───信濃が敵機の突撃を受ける確率、98.9%。その上、大幅な被害が出る可能性を提示───
またも、音声が響いた。
「その可能性を回避」
軽く呟く。やはりまわりにはほとんど聞こえていない。
───可能性の回避を選択。過去のデータ、及びシュミレーションデータとの比較結果。回避する場合、目標撃墜以外に選択肢はなし───
「主砲搭、一番から五番の武装ロックを解除」
───認証。主砲、武装ロック解除───
互いに、他人に聞き取れない声で応答する。
電磁装甲を撃ち抜くには、副砲では火力が足りなかった。
だが主砲なら、あるいは───。
そう考えるに至ったが、主砲は武装ロックされていたはずだ。
そう思ってはいたが、主砲の状況を示すモニターを確認すると、武装ロックがいつの間にか解除されていた。
ついでに主機も主砲全門を射撃可能とできるだけの出力を出している。
「これなら……!!」
操縦桿を掴む。直後、
「───ッ!!」
悪寒が彼女の身体を揺さぶる。
死神のそれの様な手が、彼女の腕を掴む様な錯覚をする。
その手は、彼女の手に重なり、引き金を引こうとする。
「い、いや……!」
いやな光景を思い出してしまう。
それほ、過去の記憶───彼女が『銀狼』と呼ばれていた頃の光景だった。
「こんなの……もう、いやだ……!」
クラリッサはその時、近くにあったとあるボタンを押した。そしてそのすぐ近くにあったヘッドセットを被り、マイクに向かって叫んだ。
石火矢の出力を最大にして、装填された対物ナイフを発射するが、それは電磁装甲に受け流されてしまう。
それでいて彼女は持ち手の
「くそ!
こうなったら
毒づいた深雪は、ある装置を起動させる操作をした。より正確に言うなら、そうなる一歩手前の状態にした。
それは。
「私が直接組み付いて、『ガルーダ』で……
そう言って、飛び立とうとしていたその時、それは聞こえてきた。
試作三号機のバッテリーが切れ、何も出来なくなった僚の元にも、それは聞こえてきた。
『Пожалуйста бросить больше!』
「この声……クラリッサ……?」
少女の、叫びが聞こえてきた。
この時は僚が知ったことではなかったが、本来なら『主砲を撃つ際、甲板上の乗員に余波で被害が出ぬ用に勧告する為』に備えられていた回線での通信だった。勿論、スピーカーを介した通信の為敵対組織へ警告する為にも使用できるが、まさか本当にその方法で使われるとは思わなかった。
『Я не хочу стрелять в тебя!』
ロシア語とされる彼女の言葉は、だが、微妙に雰囲気が違っていた。
ロシア語はさっぱりだったこともあり、正確になんと言っているのかは分からない。
『Прошу ли!』
だが、一つだけ、少なくとも僚には、伝わったことがある。
彼女は、今───
『Я не хочу , чтобы стрелять!』
───泣いている。
「……来ないで…………!」
クラリッサは、主砲を敵機に向けた。
───もうやめてください!───
仰角を微調整し、照準に捉える。
───私は貴方達と戦いたくないない!───
彼女の頬を、涙が伝っていく。
彼女は、主砲の出力を変え、
───お願いします!───
彼女には艦船の装甲すら徹甲弾がなぜ跳ね返されたのか、もう一つある要因の存在を分かっていた。
あの機体の機首部正面装甲は円形、というか若干球形になっている。それの中心に上手く当てないと弾は受け流されて弾かれてしまう。
───撃ちたくない!───
そこまで分かっていた上で、出力を可能な限り絞っていた。
ほとんど無意識で、やっていた。
「……撃ちたく、なんか……ないのに───っ!」
口から、
次の瞬間、ピコン、という甲高い音が鳴り、五つのターゲットサイトが緑色から赤に変わる───それは目標を最有効射程内に捉えたことを知らせるサインだった───と同時に、
「───撃ちたくないって言ってるのにぃっ!!!」
絶叫しながら彼女は、引き金を引いた。
その瞬間───。
───信濃の主砲、46cm三連装砲の各砲門からスパークを放ちながら、青白く煌めく光が放たれた。
その一瞬、優里は主砲の武装ロックがいつの間にか解除されていることに気づく。
光の槍が当たると同時に、装甲の触れた部分を一瞬にして融解する。
そして、数少なくなっていたとは言え、残っていた燃料を一瞬にして蒸発させ、気化したそれに引火した。
目に涙を浮かべていたクラリッサは、そのまま泣き崩れる。
次の瞬間には、この大型機体は巨大な火球に包まれていた。
「うわっ!?」
ディスプレイの分のバッテリー消費を抑える為にコクピットハッチを開放していたとはいえ、かなり離れていた僚でさえ、その光が眩しく感じた。
十五門の主砲が放った光の楔が、一機を集中して穿ち、機体を貫徹した。
弾丸は機体を貫いたのち、さらに遠くに飛んで行き、消滅した。
そして、放たれた弾丸に穿たれた敵機は、一際巨大な火球となって消えた。
ほとんど一瞬の出来事だった。
もう一機、信濃の後方へ落下しながら逸れていくイルメン級の一機は、近く及び下に何もない海面上で榛名、摩耶及び『新造艦』の砲撃により破壊こそ無理だったものの直撃による速力低下───電磁装甲は攻撃を受けた際、磁力によって攻撃を跳ね返すのだがその際に護る対象にも反動が生じる為、方翼がもがれ出力が下がっていたが故に速力が低下したのだ───により、海上に不時着させることに成功した。
他の三隻には直線上に市街地があり手を出し難い位置だったが、そこは丁度信濃が右舷に持つ副砲の射角内で、かつ信濃の位置からだと直線距離上が海以外に何もないが故に撃つことが容易かった。
そしてそこで、ようやく来た浜松飛行場からの九六艦戦隊による背後からのミサイル攻撃と、信濃右舷側副砲群による曲射砲撃でどうにか破壊に成功し、イルメン級一機は海上に没した。
「……今度こそ、終わったよね?」
一瞬ホッ、とした僚は、直後に急激な何かが自分の身体の中に押し寄せてくる感覚を感じた。
「え───?」
身体中の、筋肉と呼べる筋肉が振動する。
突然、痙攣しだしたのだ。
「何、これ……?
……一体、何が……?」
ふと、何かの気配を感じて下を向いた。向いてしまった───。
「───」
そして、あるものが目に映ってしまった。
「───っ!!?」
倒したティーガーの胸部。僚が対物ナイフを突き刺した、その傷口───そこには、紅い液体が付着していた。
僚は咄嗟にコクピットから這い出た。
信濃 CIC。
クラリッサは嘆いていた。
「……撃ちたく、なかった!
撃ちたく、なかったのに……っ!」
慟哭、慟哭、また慟哭。
フラッシュバックする光景───政権から離反する者達や反対派の者達に対する、粛清。散々見てきた───もう見たくなかった、同胞達の亡骸。
……撃ちたくない……撃たせないで
散々願った。だが、撃たなければならなかった。離反者を庇えば反逆罪となり、自分が粛清対象となる───つまり、撃たなければ自分が後ろから、自分の味方だった者に撃たれてしまう、と言うことだった。
自分が生きるには撃たなければならない。
齢15の少女には、その宿命は幾らなんでも重すぎた。耐えられなかった。
だから、ロシア軍を抜け出して、僅かだが所縁のある日本へと逃げてきたのだ。
「なのに……なの、にぃ……っ!!」
涙がポロポロと零れてくる。
どこに居ても、どこへ行っても、自分には戦うことしかできなかった。どう足掻いても、戦わぬという選択肢を神は許してくれなかった様だ。
その場で一度深く溜め息を吐いた優里は、主砲砲手席のところに向かい、咽び泣くクラリッサの頭を撫でた。
「……私、オペレーターのくせに人付き合い不器用だから、こんなこと言っても、気休めぐらいにしかならないと思うけど……さ」
口を開く優里。
「あなたに主砲を任せたのは、貴女に撃たせたくなかったのよ。
貴女を殺そうとしていたとは言え、人を撃つのは辛いでしょ。
それにこの艦の主砲、機密兵器だから撃ってはならなかった。
……でも、ありがとう」
そう言われ「えっ?」と反応するクラリッサ。
「あの状況で唯一動けたのは貴女だけだったわ。
貴女の行動で、ここにいる私や菊池さんも、みんな助かったわ。
……ありがとう」
そう言いながら、ボロボロと涙の雫を零すクラリッサの頭を「よしよし」する感じに撫でた。
「ありがとう……ございます……。
少し、気が楽になりました……」
クラリッサがそう返す。彼女は、自分の手で涙を拭う。
そして、優里に対して「えへへっ」と笑ってみせた。
「───っ!!」
そんな彼女の頭を撫でながら、
(───この娘……!)
一瞬前にあんなことがあった直後に場違いなことを、とは思いつつも、戦闘という緊張から解放されたことと重なったこともあり、
(可愛い……深雪なんかとは大違いよぉっ!!)
などと思って、目に涙を浮かべていた。
その横で、
「勝ったな」
勝ち誇る様な表情をする絆像。
そんな彼の顔に対し「おしぼりがあったら投げつけてやりたい」という感想を抱いた武彦。だが彼は口から出かけたそれを、
「ろくに活躍しなかった奴が何を言うか」
とだけ言って押し殺した。
二人は同い年、それでいて同期だ。互いに実力を認めあっている。故に階級が違えどお互いため口だった。
だが分からないことが一つあった為、ふとそのことについて尋ねた。
「そういやお前、何でこの艦に……」
「ん?あぁ……」
その質問に一度相槌を打つと、絆像はこう答えた。
「この艦の艦長を任された」
その答えに対し、一瞬思考が停止した武彦は少し考えた末、「はぁ!!?」という反応を返した。
その頃。
くしゃみをする深雪。
風邪を疑ったが、次のが出ることがなかったので気にしなかった。
五番主砲塔の隣を抜け信濃を降りて港に出た試作四号機は、試作三号機のもとへ向かった。
丁度そのタイミングで、試作三号機のコクピットから僚が這い出た。
しかし、次に僚がとった行動に深雪は困惑する。
コクピットから這い出るなり、僚は目の前に仰向けで倒れているティーガーの胸元に立った。
彼女が「え、何事!?」と反射的に口走った時にはティーガーのコクピットハッチを、対物ナイフを刺して開いたものであろう傷口から無理矢理抉じ開けた。実質的に対人用の威力しかないとはいえ石火矢の射撃にも傷一つ与えられること無く耐えた装甲を、生身でだ。のだが───。
「あ、あぁ……!!」
コクピットの中身を見ている僚は、酷い表情をし始める。遠目だが、それがはっきりわかった。
「ち、ちょっと!
あれ、まずくない……?」
そう直感的に思った深雪は、彼の元へと急いだ。
胸部のコクピットハッチを抉じ開ける。
「あ……あぁ……!」
無意識に、声が漏れる。
反射的に自分の手を見る僚。顔から滴り落ちる汗や涙の雫が落ちる。
「僕が……僕が、やったのか……!?
……こんな……こんな───っ!!?」
落ち着けようと、すっかり夕方になっていた空を見上げ様とするが、顔が上がらない。体が言うことを聞いてくれなくなっていた。
そこに、もう一機の零が現れた。
「ちょっと!!
アンタ一体何やってんの!!?」
機体が起動している状態のまま、零の胸部にあるコクピットハッチが開く。
その機体に乗っていた深雪が、コクピットハッチが開くなり開口一番にそう言ってきた。
「アンタ……!!」
開いたコクピットハッチから、ティーガーのコクピット内を覗くことができた。その状況を見たことにより、ようやく彼の心境を理解した。
ティーガーのパイロットが、血塗れになっている。
ヘルメットのバイザーのせいで顔は判別できない。
身動き一つ、する気配がない。
「死んで、いるの……?」
言われた僚はハッとし、直ぐ様パイロットの首筋に手を当てた。
そして、驚愕に似た反応を彼女に見せた。
「……良かった」
彼の口から、その言葉が自然と漏れる。
そして、僚は、深雪にこう言った。
「……お願いします。
零、貸して貰えますか……?」
「え……?」
ここからの最寄りの病院の一つ、横須賀区国防軍附属病院に向かった僚と、気を失っているパイロット。勿論、移動に使用しているのは深雪から借りた試作四号機。
余談だが、バイザーを開けて驚愕したことが一つあった。そのパイロットは女性だった。
やや赤みがかった茶色の髪をした西洋風の、だけどどこか東洋風の顔立ちをしていた。ハーフとかクォーターとか、混血なのだろうか。
彼女が起きるまで、その辺も含めて謎だらけだ。
さらに余談だが、彼女の脇腹と腕の一部に付いた傷はそこまで深くはなく、命に別状はなかった。
担当した医師によると、ナイフの切っ先が刺さったかその直前くらいに気を失っただけだった様だ。少なくとも傷のせいではないということだけは分かったらしい。
帰り際、病院の屋上にあるヘリポート───少なくとも本来はヘリポートとして使うはずのどこからどうみてもヘリポートにしか見えないその場所にて。
本来ならヘリが停まるそこに停まっている試作四号機に乗り込もうとした僚は、心身共に疲弊しきっていたこともあり一瞬こけかけた。
丁度そこに、補給が済んだのであろう“兵士形態”のままの試作三号機に乗ってきたらしい深雪がコクピットから降りて駆けつけた。余程自分の顔色が悪かったのか、深雪が焦り気味に「ち、ちょっとあんた、大丈夫?」と聞いてきた。正直あまり大丈夫ではなかったが、
「……大丈夫です。
……少しは、楽になりました……」
そう言って、強がってみた。
少なくとも彼女の位置にかつての幼馴染みがいて同じ反応をしていたら、そうしていただろうという風に。
気分を変えたい、そう思った僚は「ところで、ですが……」と深雪に尋ねる。
「あの艦の主砲、レールガンじゃないですよね?
僕、割りと離れたところから見てましたけれど……あの弾、プラズマの塊の様に見えたのですが……。
少なくとも、実弾には見えなかったです」
その質問に対し、深雪は「さすが工兵科、と言うべきかしらね」と言いつつ、渋々とだが答えた。
「ご名答。
信濃の主砲は46cm『荷電粒子砲』よ」
その回答に、
「か、荷電粒子砲!?」
当然ではあるが、僚は驚いた。
「そうよ、試製品だけど。
軍の技研が極秘で開発していたのを、主砲砲身が丁度交換期だった信濃に主砲として十五門載っけたのよ」
「へぇ……」
呆然とする僚に対し「あと、そうねぇ」と一度相槌を打って、深雪はさらに続けた。
「これ言っちゃうのもあれだけど信濃には『
「アマノ、ハシダテ……?
しかも、戦略兵器って……ただでさえまるでハリネズミみたいに砲火器搭載してるのに、どこにそんなものを搭載する場所があるんですか?」
マシンガントークの様な彼女の説明(?)に飽きてきた───少なくとも驚きというものが鳴りを潜めた───のもあるが、不明瞭過ぎた為に今度は僚が彼女に問いかける。だが、
「さぁね。
私も資料で名前を見たことがあるだけよ。
実際に使ってるのはおろか、実物すら見たことないからどんなものかも知らされてないわ。
というか、私がこの艦で配属されてる管轄は武装じゃなくて艦載機の───っ!」
言いかけて、返答(?)が止まった。
「……はい?」
その一瞬、彼女の口元がニヤッと歪んだ様な気がした。
「……そうだ……そうだったわ」
若干ドスの効いた様に聞こえる声で言い出す。
そして、
「そういえば貴方……責任とる気、ある?」
含みのある様な言い方をし始める深雪。
「せ、責任……?
……何の───」
聞きかけた僚は察して、思わず「───あっ!!」と叫んでしまう。
そんな彼に対して「今さら気づいた?」と言って、そこから言葉を続けた。
「貴方は『なし崩し的に』とは言え、軍の機密に幾つも触れてしまったのよ。
ここにある零───『零式TOKM艦上戦闘機』だってその一つ」
そう言って、僚が座っている試作四号機の、コクピット外壁部を手で撫でる。
機体のコクピットを形成するこのブロックが人型時の胸部にあたることもあってか、そのモーションに対して僚は心臓を握られてる様な感覚を感じていた。
「『見た』どころか『乗った』んだから。
この責任、一体どうやって取って貰おうかしらねー」
なんか「ゴゴゴゴゴ」とか聞こえてきそうな態度。
心臓の鼓動が跳ね上がり、バクバク言い出しているのが分かる。
「有本 僚…………あんた、───」
その声音のまま僚の方を向き、何を言いだすかと思った直後、彼に指差し、
「───信濃航空隊の隊長になりなさい!」
満面の笑顔───というか、ドヤ顔(?)───で堂々と、そう言った。
それに対し、僚は、
「…………はい?」
突然のことに、思わずきょとんとしてしまった。
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