分析! 6冊の『オリエント急行』

 さて、ではいよいよ各『オリエント急行』の詳細を見ていきましょう。

 まずは「書籍」というハード的特徴を見ていくことにします。項目は、「価格」、「刊行年」、「翻訳者」、「邦題」、探偵「Poirot」の表記(「ポワロ」か「ポアロ」か)、「Poirot」の一人称、そして小説としての容量です。この「容量」とはつまり小説のボリュームのことで、単純にページ数で比較してしまうと、各書籍の文章の組み方によって同じページ数でも差異が出てしまいますので、一行当たりの文字数(列)と行数を総ページ数で乗した数値を使います。書籍によって、改行のタイミングや章変わりでのページ更新など、文字の書かれていない空白部分にこれまた差異がありますが、翻訳者(編集者)が「小説としてこうするのがベスト」と決めた体裁であるはずのため、「空白部分の使い方」も含めて「書籍という完成品」だとみなします。「もくじ」は除き「第一章」のスタートページから本文ラストまでを「正味ページ数」として数え、「列×行×ページ」の計算式によって出された数値を、「HP(必要ページ数)」という単位を与えて比べます。

 そして、読後のお楽しみともいえる「解説」を誰が書いているか。最後に、その書籍の翻訳ならではの特徴などのソフト的特徴なども加えて「特記」として記します。

 それでは、各『オリエント急行』を見ていくことにしましょう。



・ハヤカワクリスティー文庫

ISBN:978-4-15-131008-9

価格:860円

刊行年:2011年

翻訳者:山本やよい

邦題:『オリエント急行の殺人』

「Poirot」の表記:ポアロ

「Poirot」の一人称:「わたし」

容量:247,104HP(39列×16行×396ページ)

解説:有栖川有栖

特記:

 国内唯一の「アガサ・クリスティー社」公認による『オリエント急行』です。ハヤカワ文庫の一環でありながら、「クリスティー文庫」と冠された個人レーベルから刊行されてブランド化しているのは、他にない大きな強みと言えるでしょう。クリスティの全著作をコンプリートしようとしたら「クリスティー文庫」を買いそろえるしかありません(クリスティの著作の中には、早川書房が「日本語版翻訳権独占」しているものも多いためです。名作『そして誰もいなくなった』もそうです)。

 こういったハード的強みの他に、冒頭に「クリスティー財団」(前述の「アガサ・クリスティー社」と同じ組織なのでしょうか? そこのところがいまいち調べても分かりません)理事長が寄稿した「序文」が掲載されています。

 さらに、解説を我らが有栖川有栖が書いていることも高ポイントです。ですが、他の五冊と比較したとき、このクリスティー文庫版だけに「訳者あとがき」がないのは残念に思います。私は「翻訳者は第二の作者」だと思っているので、翻訳ミステリでは、訳者の言葉をぜひ聞きたいと思っているからです。

 他にハード的なことを言えば、これはもうミステリ読者の間では有名なことですが、ハヤカワ文庫は通常の文庫よりもサイズ(背丈)が大きいことが挙げられます(トールサイズ)。このためハヤカワ文庫は市販のブックカバーに入らないのです。汚れないようにカバーを掛けて気軽に持ち歩く、というのが出来ないのは残念であり、これについてはデメリットといえるのではないでしょうか。

 気になったのは、各ページの上、いわゆる「ヘッダー」に、現在のページ番号しか情報が載っていないということです。気の利いた書籍ですと、ヘッダー部分に章やサブタイトルが併記されているのですが、このハヤカワ文庫版はそれがありません。もくじから検索すれば分かるといえば分かる情報なのですが、私は、自分が今どの辺りを読んでいるのかが結構気になるほうで、ヘッダーに章とサブタイトルが載っているとありがたく思う人間ですので、触れておこうと思いました。

 本文については、翻訳されたのが2011年と新しく、また文字も大きいため非常に読みやすくなっています。



・創元推理文庫

ISBN:978-4-488-10539-6

価格:620円

刊行年:1959年

翻訳者:長沼弘毅

邦題:『オリエント急行の殺人』

「Poirot」の表記:ポワロ

「Poirot」の一人称:「私」

容量:233,240HP(40列×17行×343ページ)

解説:長沼弘毅(訳者あとがき)

特記:

 現在流通している『オリエント急行』の中では最古参の1959年の翻訳です。和暦にすると昭和34年です。日本ミステリの父、江戸川乱歩は存命で、クリスティ自身も余裕で現役で(1976年没)、この年にはポワロものの『鳩のなかの猫』を刊行しています。『オリエント急行』自体が1934年の著作なので、オリジナルが出てから25年後にされた翻訳ということになります。当時はバリバリの「新訳」だったのでしょう。とはいえ、私が持っているこの本の発刊が2017年ですから、58年前の翻訳物を未だに現役で売っているということです。これは凄い。しかも、こんな企画が成立するくらい『オリエント急行』はメジャータイトルで、多くの出版社から「新訳」が出ているというのに。ですが、実際に読んでみると、まあ所々「古いな」と感じる言い回しや表現はありますが、そんなに気になるほどではありませんでした。もしかしたら、一度くらい現代に合うように訳文の校正が入っているのかも知れませんが。

 ヘッダー部分情報については、この創元版は何もありません。何もというのは、ページ番号もないということです。というのもですね、はい、創元文庫は文庫本としては珍しく、単行本のようにページ番号が上ではなく下、いわゆるフッター部分に振られているからです。よって創元版も、読んでいる現在位置を知るにはもくじまで戻らなければならず、少し不便に感じました。

※追記※

 手元の創元文庫版を確認してみたところ、初版こそ1959年ですが、本書は2003年に新版として初版され直しており、このときに文章の手直しがされ、一部の古い表現などに見直しが掛けられた可能性が高いです。したがって、私が読んだ創元推理文庫版『オリエント急行の殺人』は初版(1959年)当初のままとは限りません。訂正してお詫び申し上げます。



・角川文庫

ISBN:978-4-04-106451-1

価格:600円

刊行年:2017年

翻訳者:田内志文

邦題:『オリエント急行殺人事件』

「Poirot」の表記:ポアロ

「Poirot」の一人称:「私」

容量:241,488HP(39列×18行×344ページ)

解説:田内志文(訳者あとがき)

特記:

 この「角川文庫版」の翻訳には、他のレーベルと比較して明らかな特徴があります。それは何かというと、「ポアロのセリフが熊倉くまくら一雄かずおの声で脳内再生余裕」ということです。熊倉一雄は、イギリスで制作されたドラマ『名探偵ポワロ』でポワロ(演:デビッド・スーシェ)の吹き替えを担当していました。小説が始まって一番最初のポアロのセリフ「しかし、貴君がかつてこの命を救ってくださったことを、私がお忘れだとお思いですか?」から、もう熊倉一雄のあの声、調子で容易に脳内再生できてしまいます。これは決して偶然ではなく、訳者の田内志文も、この「ドラマ版ポワロ」と吹き替えを担当した熊倉一雄について「訳者あとがき」で触れているため、意識してそう翻訳した可能性が非常に高いです。熊倉一雄の吹き替えによる「ドラマ版ポワロ」に親しんでいる方は、この角川文庫版がすんなり入っていけると思います。訳者がこの「ドラマ版」に思い入れを持っているのであれば、ドラマと同様「Poirot」を「ポワロ」と表記してもよさそうなものですが、なぜか「ポアロ」になっています。

 ヘッダー情報については、章の大分類だけ記されています。どういうことかと言いますと、『オリエント急行殺人事件』は、全部で三つの章(角川版では「パート○」と表記しています)に分かれていて、その中でさらに細かく章立てがされています。この大分類の「パート○」だけが表記されているということです。だから、より詳細な現在位置を知るためには、やはり目次まで戻って……とはいきません。なぜなら、角川文庫版は、もくじにも「パート○」の情報しか載っていないからです。これは不親切に感じます。現在位置を知れないというだけでなく、小分類のタイトルは実際に読んでいかないと分からないということですから(もしかしたら、もくじだけをざっと読んで、ネタバレに近い感覚を読者に味あわせないため、という配慮の可能性もありますが)。

 私は今回、各文庫版を読み比べて気になる該当箇所を抽出するという作業を行う際、角川版だけ目的の箇所を見つけるのが異様に面倒くさくてストレスを感じました。ですが、こんな読み方をする人は極めて限られるため、もくじにそこまで詳細な情報を入れる必要は、もしかしたらないのかもしれませんが。

 角川文庫版が他より優れている点として、「現在入手可能な新刊で最も安価」というのが挙げられます。350ページ強の文庫本で600円(税抜き)というのは、現在の相場からしたら破格です。訳者の印税が心配になるほどです。角川文庫というメジャーレーベルのため、そう大きくない書店でも店頭に置いてある可能性も高く、入手難度が最も低い『オリエント急行』と言えるでしょう。2017年と新しい翻訳のため、読みやすさも抜群です。



・光文社古典新訳文庫

ISBN:978-4-334-75352-8

価格:900円

刊行年:2017年

翻訳者:安原和見

邦題:『オリエント急行殺人事件』

「Poirot」の表記:ポアロ

「Poirot」の一人称:「わたし」

容量:233,248HP(37列×16行×394ページ)

解説:斎藤兆史(他に「アガサ・クリスティ年譜」と「訳者あとがき」もあり)

特記:

 内容の充実度でいえば、この光文社古典新訳文庫版はトップクラスでしょう。本文中に出てくる専門用語や固有名詞から、原語独特の慣用句的言い回しに至るまで、現代日本人が読んで「?」となるようなところを逐一解説してくれています。それでも他の翻訳と比較して容量はそれほど変わりません。無駄のない効率の良い翻訳をしているのだと思われます。

 もうひとつ、このレーベルの優れている点として、付属する「しおり」が挙げられます。このしおりが優れもので、表面には主な登場人物一覧。裏面には事件の舞台となるオリエント急行の客車見取り図が描かれています。海外ミステリを読む際、読者がもっとも気を遣い、混乱するのは登場人物の名前です。ですので自然、読者は冒頭やカバー折り返しに載っている「登場人物一覧」を何度もめくり返しながら本文を読むことになるのですが、これが結構なストレスとなります。見取り図にしてもそうです。視覚的に事件を捉えるために、やはり読者は頻繁に見取り図の描かれたページと、現在読み進めているページとの往復を余儀なくされますが、これもストレスであることに間違いありません。ですが、光文社古典新訳文庫は、「登場人物一覧」と「現場見取り図」をしおりとして書籍本体から分離させることで、確認のためにわざわざページを戻るという手間から読者を解放してくれているのです(当然、本文中にも登場人物一覧と見取り図は挿入されています。しおりをなくしてしまったとしても安心です)。読書中はしおりを手元に置くことで、読者は本を読みながらページ間を行き来するというストレスを味わうことなく、登場人物や見取り図を確認することが出来るのです。当たり前ですが、このしおりは『オリエント急行殺人事件』だけにしか使えない専用のしおりです。独自のしおりを付属させるレーベルは他にもありますが、作品一作ごとに別個のしおりを付属させる光文社古典新訳文庫は、非常に贅沢な作りをしているといえるでしょう。900円と、400ページ強の文庫本にしては値が張りますが、クリスティ年表といった付録も充実しており、価格だけの価値はあるといえます。

 ヘッダー情報に関しては、この光文社版が一番親切でした。章の大分類と小分類、どちらのタイトルも併記してあって常に現在位置を把握でき、読みたい箇所を検索するのにも役立ちました。

 あと触れておきたいのは、美術家、望月もちづき通陽みちあきの描いたカバーイラストです(望月通陽は光文社古典新訳文庫全ての作品のカバーイラストを手がけています)。ナイフを手にした人物が描かれており、ひと目で「殺人の起きる話」だということが知れます。しかも、この人物、一筆書きで残像のようなものが描写されていて、『オリエント急行殺人事件』を読み終えた人なら、ここにイラストレーターの意図を見つけることが出来るという、非常に意味的完成度の高いイラストです。



・偕成社文庫

ISBN:978-4-03-652040-4

価格:900円

刊行年:1995年

翻訳者:茅野美ど里

邦題:『オリエント急行殺人事件』

「Poirot」の表記:ポワロ

「Poirot」の一人称:「わたし」

容量:243,600HP(40列×15行×406ページ)

解説:茅野美ど里

特記:

 この偕成社文庫版は、他と比べて一風変わっています。これは、小学校高学年程度の読者を対象とした、いわゆる「児童書」に当たる書籍なのです。そのため、読みやすいように文字が大きく、字間、行間も広くとってあり、一定水準以上の漢字にはルビが振ってあります。その分本自体のサイズも大型化しており、「文庫」と名乗りつつ、青年漫画のコミックスなどでおなじみの128mm×182mm、いわゆる「B6判」サイズになっています。児童書らしく、読者のイメージ想起を助ける挿絵もふんだんに入っています。

 ヘッダーには、創元版と同じく何もありません。この偕成社文庫もページ番号はフッターに振られているためです。しかし、創元版と違って章の大分類タイトルだけはフッターに併記されています。

 ちなみに翻訳者の茅野美ど里は、主に偕成社文庫で多数の海外文学を翻訳している有名な翻訳者ですね。誰しも子供の頃、茅野が翻訳した児童書を一冊は読んだことがあるのではないでしょうか。



・新潮文庫

ISBN:4-10-213505-7(現在取り扱いなし)

価格:360円(1985年発行の三十三刷時点)(現在取り扱いなし)

刊行年:1960年

翻訳者:蕗沢忠枝

邦題:『オリエント急行殺人事件』

「Poirot」の表記:ポワロ

「Poirot」の一人称:基本「ぼく」 一部場面で「おれ」「わたし」とも

容量:253,872HP(43列×18行×328ページ)

解説:蕗沢忠枝(訳者あとがき ※書籍では単に「あとがき」と表記)

特記:

 今回紹介した六冊の中で、唯一現在新本で流通していない『オリエント急行』です。新潮文庫のホームページにもラインナップに上がっていませんでしたので、すでに絶版か出版社在庫切れなのでしょう。本書は私が我が家のマウンテンサイクルから発掘したもので、これの発見が今回の企画立ち上げのきっかけになったこともあり、記念的に「特別参戦」してもらいました。

 発刊が1960年。何と、現在流通している創元文庫版よりも一年遅いだけです。なのに創元文庫版は未だ現役というのが驚きです。この本がいつ頃まで流通していたのかは不明ですが、私の持っているものが1985年発刊の三十三刷目です。初刊行から二十五年間で三十三刷とは、途切れなく版数を重ねているロングセラーと言えるのではないでしょうか。値段も「360円」と現在では考えられない価格設定です(当然消費税導入前のため、「税抜き」などの表記もありません)。

 内容に触れますと、まず、ポワロの一人称が「ぼく」というのは、今日のポワロ像からすると違和感を拭えないでしょう。とはいえ、創元推理文庫版と同じで、古い文章であるがゆえの独特の癖や言い回しなど、読んでいて面白い部分もあります。

 また、本書の文章は、カギ括弧内の台詞であっても最後に必ず句点(。)を付けています。

「こういうことですね。」

 台詞間に地の文を挟む場合は、最初のカギ括弧内に句点は付きません。あくまで一文のラストに句点を打つルールで書かれています。

「たとえば」このような「場合です。」

 今はあまり使われない古い文章表現のため、読んでいて気になる方もいるかもしれません。

 ヘッダー情報は大分類タイトルだけですね。

 また、本書は他と比較して圧倒的に字が小さく、現代の文庫本に慣れた身にはかなりきついです。印刷の精度も低いため所々文字のかすれもあり、「昔の人はこういうのを普通に読んでいたのか」と先人読者たちの苦労に頭が下がる思いです(内緒ですが、創元推理文庫は結構最近までこんなクオリティでした 笑)。



まとめ

「価格」

 現在流通していない新潮文庫版を除けば、最安値は角川文庫の600円。最高値は光文社古典新訳文庫版と偕成社文庫版の900円となります。ですが、偕成社文庫版は前述の通り文庫よりも大型のB6判ですので、それを考慮すれば頑張った価格設定かと思います。では、同じ文庫サイズで角川の1.5倍の価格を付けている光文社古典新訳文庫が割高なのかというと、決してそんなことはないと私は思います。これも前述のように、光文社古典新訳文庫版はふんだんに注釈が入っていて、より物語背景を理解しやすいですし、非常に重宝する専用のしおりも付属しています。巻末付録も、解説、訳者あとがき、クリスティ年表と最も充実しており、価格相応の価値は十分あると考えます。創元推理文庫版も620円と角川とほぼ変わらない価格です。翻訳が古いのですが、こちらのほうが「翻訳ミステリを読んでいる」という感覚が強くて好みだ、という方もいらっしゃると思います。ハヤカワクリスティー文庫版は860円と高価格帯に属しますが、「アガサ・クリスティー社公認」というブランド代と考えれば納得できるでしょうか。


「邦題」:

『オリエント急行殺人事件』4作、『オリエント急行の殺人』2作と、『殺人事件』が多数派となりました。原題が『Murder on the Orient Express』であることを考慮すると、『オリエント急行の殺人』のほうがより近いニュアンスかと思います(「公認」のハヤカワクリスティー文庫版が『オリエント急行の殺人』を採用していますし)が、「殺人事件」というミステリ定番のパワーワードの存在感は圧倒的であるゆえ、『殺人事件』のほうが多数派となったのでしょうか。確かに『オリエント急行殺人事件』って字数のバランスも取れていますし、何より口に出したときの語感がいいです。


「Poirot」の表記:

「ポアロ」3作、「ポワロ」3作と三対三で真っ二つに分かれました。ですが、「ポワロ」を採用しているのが「創元推理文庫」「偕成社文庫」「新潮文庫」と、いずれも古い翻訳であり、「アガサ・クリスティー社公認」の「早川クリスティー文庫」において「ポアロ」表記されているということを考慮すると、「ポアロ」のほうがクリスティ業界(?)では現在主流なのでしょうか。角川文庫版で訳者がドラマ版について言及していても、表記はドラマと違い「ポアロ」にしたのには、そういった事情もあるのかもしれません。


「Poirot」の一人称:

「わたし」3作、「私」2作、「ぼく」1作、という結果となりました。「わたし」と「私」は漢字を開くかどうかだけの違いですが、「わたし」とひらがな表記すると柔らかい感じが出ます。ポワロの隙のないイメージからすると、漢字できっかりと「私」と表記するほうが合っている気が個人的にします。翻訳者がデビッド・スーシェ(及び熊倉一雄)をイメージしたと思われる角川文庫版は「私」となっていますね。一方、新潮文庫の「ぼく」は、やはり今の感覚からすると違和感を否定できません。昔はポワロのイメージも訳者それぞれで違ったものを持っていたのでしょうね。


「容量」

 これは各レーベルでほとんど差が出ませんでした。最小は、233,248HPの光文社古典新訳文庫版。最大は253,872HPの新潮文庫版となりました。注釈でかなりスペースを取っている光文社古典新訳文庫が最も容量が少ないとは意外です。現在流通している中で最大容量である、ハヤカワクリスティー文庫版の247,104HPと比べてみると、13,856HP差です。新潮文庫版を除いた5冊の平均値で計算してみると、39列×16行=624/1HPとなり、13,856HP÷624HP=22.2。光文社古典新訳文庫版はハヤカワクリスティー文庫版よりも約22ページ分少ないということになります。

 また、偕成社文庫版は挿絵が多く使われているのですが、挿絵のない文庫本と遜色ないHPを叩き出しており、原作を児童向けに上手くまとめたということが分かります。


「結論」

 角川文庫版は新訳を手軽で安価に入手できます。一方、創推理文庫版の古く味のある訳文のほうが好みだという方もいらっしゃるでしょう。角川とは20円しか差がありません。決定版的充実したものを読みたいなら、少し値は張りますが光文社古典新訳文庫版を。他のクリスティ作品も集めて統一性を加味したいのなら、ハヤカワクリスティー文庫版。読み手が小学校高学年程度の子供であれば、迷うことなく偕成社文庫版でしょう。

 結論として、みなそれぞれ違った魅力があり、どれに比べてどれが優れているということはないと私は考えます。また、古書店などで新潮文庫版を見かけたら、ちょっと中身を見てみても面白いかと思います。自分のことを「ぼく」というポワロは新鮮です(笑)。

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