緊急特別企画! 祝 カクヨム掲載!『狩人の悪夢』有栖川有栖 著

『狩人の悪夢』プレビュー

「カクヨム」内の公式アカウント「文芸カドカワ」にて、『狩人かりうど悪夢あくむ』の冒頭部分が掲載されました。作者は本邦本格ミステリ界の王者、有栖川有栖ありすがわありす。本作は二〇一七年一月に発行されたばかりで、その宣伝も兼ねているのでしょうが、「カクヨム」が実出版社であるKADOKAWA主催であることを最大限生かした素晴らしい試みだと思います。というわけで、ご紹介するのはもちろんこちら!


『狩人の悪夢』 有栖川有栖 著


~あらすじ~

「カクヨム」内公式アカウント「文芸カドカワ」に掲載された『狩人の悪夢』をお読み下さい。

 いや、真面目にやります。


 ハリウッド映画化も決定したホラーアクション小説『ナイトメア・ライジング』で人気を博す作家、白布施正都しらふせまさとと対談したことがきっかけで、彼の自宅を訪れることになった有栖川有栖(アリス)。白布施自身が「夢守荘ゆめもりそう」と呼ぶその邸宅には、「眠ると必ず悪夢を見る」部屋があるのだという。

 アリスがその部屋で一泊した翌日、夢守荘近くの家にて、首を矢で貫かれ、右手首を切断された女性の死体が発見される。その家は、白布施のアシスタントであり、二年前に心臓発作で他界した渡瀬信也わたせしんやが住んでいた家だった。死んでいたのは渡瀬の知人沖田依子おきたよりこ。彼女は故人を偲んでそこで一泊する予定だったという。

 現場の壁には明らかに男のものと思われる血の手形が残されていた。警察が捜査を開始してすぐに、この手形の持ち主と思われる人物が重要参考人として浮かび上がり、事件は早期解決を見るかと思われたが……



 本作は「作家アリスもの」の長編ですから、活躍する探偵は当然「臨床犯罪学者火村英生ひむらひでお」です。この火村英生が活躍する「作家アリスシリーズ」何が凄いかといって、現代日本を舞台にして、市井しせいの探偵が警察の向こうを張って犯罪の捜査をする(当然ですが、そして解決する)。という、このシチュエーションを構築しているだけで凄いのです。

 昨今の警察力、科学力の発展には目を見張るものがあります。現場に残された血痕から、血液型だけではなく、DNA鑑定を持ってすれば個人の特定まで出来てしまう時代。「切断した死体の一部をすり替える」「血液の出所を誤魔化す」などというトリックは、もう現代には通用しないのです。電話回線のほとんどがデジタル化された現在は、逆探知だって一瞬で可能だと聞きます。誘拐犯から掛かってきた電話を取ったご主人に、「出来るだけ引き延ばして!」なんてジェスチャーを送る刑事など、もはやありえないのです。電話そのものからして、ひとりが一台携帯電話を持ち歩く時代。インターネットという強力な情報ツールも、今や誰しもが当たり前に使いこなしています。こんな時代に警察の科学力を持たない一個人が、犯罪捜査においてどれほどの寄与ができるでしょうか。

 元祖名探偵オーギュスト・デュパンに始まり、シャーロック・ホームズ、本邦では明智小五郎あけちこごろう金田一耕助きんだいちこうすけから面々と受け継がれてきた「民間人でありながら警察に協力する探偵」というものは今や絶滅危惧種です。ミステリとはいえ、作品にリアリティを求める声が大きくなってきたという面もあるでしょう(刑事ドラマなどは、もろにこういった風潮を受けています)。現代を舞台に書かれるミステリで、主人公が警察官である作品が多いのは、こういった事情があります。探偵が警察を向こうに張って活躍することが困難なのであれば、探偵自身を警察官にするしかありません。現代、民間人が犯罪捜査で警察をリードすることが可能だとしたら、「お仕事小説」的に特化した専門分野の知識、技術を身につけるか、超常的なオカルト能力を持つしかないでしょう。現代において、そういった「特殊能力」なしに民間探偵が警察を凌駕する働きを見せるためには、警察力の及ばない絶海の孤島でも舞台にするしかないのです(それはそれで、また別の問題を生み出すのですが)。

 しかし、火村英生はこんな時代でも、「お仕事知識」も「オカルト能力」も持たず、絶海の孤島でなしに我々の生活圏内を舞台にして、ごく普通の民間人として犯罪と戦い続けることが出来ています。なぜでしょうか。それは、火村が「探偵」だからです。警察官も、アリスも、そして我々読者も、火村と全く同じものを見聞きしているにも関わらず、火村だけがいち早く真実に到達出来る。そういった人物を、我々は「探偵」と呼んできました。武器は「知識」ではなく「推理」それが探偵の矜持であり、ミステリ作家有栖川有栖の矜持でもあるのです。


 全然作品と関係のない話ばかりになってしまいましたが、本作でも火村の「推理」は見事な冴えを見せます。「手首が切断された理由」「壁に血の手形が残された理由」といった謎を始め、犯行時の現場周辺の状況を鑑みて、犯人の心理から現出した行動に至るまで、火村はどこまでも理詰めの推理で犯人を追い詰めていきます。


 本格ミステリとしての見せ場ばかりではありません。本作、というか有栖川作品には、事件前の出来事、関係者への聞き込み、現場の捜査など、通常であれば退屈な情報の羅列で終わってしまいがちな場面にも、アリスと火村の軽快なやりとりを始め(今回、二人の会話に益々磨きが掛かっているように感じます)、生き生きとした登場人物たちの会話、含蓄もありたまに毒なアリスの独白が差し挟まれ、全く退屈させられることはありません。ミステリ「小説」というからには、「トリックが分かった、はい終わり」ではなく、読んでいて楽しくなければいけない。これも作家有栖川の矜持です。特に本作は、シリーズを長く読み続けてきた読者には、最後に心憎くも嬉しいサプライズが待っています。楽しみにしていて下さい。

 お読みになられたら、また、「ネタバレありレビュー」でお会いしましょう。

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