『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』ネタバレありレビュー
『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』いかがだったでしょうか。
軽快な文章とクスリとするギャグで、ストレスなく、さくさくと読み進められたのではないかと思います。
さて、プレビューで触れた「本作が倒叙形式である理由」皆さんはお気づきになったでしょうか。そうです。それは「本作の推理が『魔法』を担保にしたうえで成り立っている」という危険さを排除するためなのです。
全ての事件で、主人公
捜査が暗中模索のところ、マリィが「魔法」を使って容疑者のひとりから自白を得る。小山田はその自白を前提に証拠探しに入る。出てきた証拠を犯人に突きつけてとどめを刺し犯人逮捕。めでたしめでたし。
非常に胡散臭くなること請け合いです。マリィが「魔法」によって自白をさせたなら、また、小山田が得た証拠もマリィ(もしくは別の魔法使いの仕業)による捏造された証拠。最後に犯人が観念するのも「魔法」による操り。「これは魔法を使った冤罪事件ではないのか?」という可能性が払拭しきれないまま、物語は終わってしまいます。これを回避するために
では、収録作を振り返ってみましょう。
「魔法使いとさかさまの部屋」
エラリー・クイーンの『チャイナ
犯行現場以上に異様に思えるのは、主人公小山田の
「魔法近いと失くしたボタン」
コメディの宿命。本シリーズには、時事ネタを扱った笑いが随所に織り込まれています。なるべく賞味期限内に味わいたいです。数年後に本作を読む若い方は「ビリーズブートキャンプって何?」と疑問を持つかもしれませんね。
犯人が死体を搬入するシーンで、「最後の決め手」に感づかれた方もいらしたのではないでしょうか。
「魔法使いと二つの署名」
犯人が完璧にコピーした「署名」そのものではなく、それを使った筆記具から計画が崩れ去る。という展開に意外性がありました。犯人が自分しか知り得ない情報をもとに、多くの似たようなものの中から思わず犯行に使用されたものを手にしてしまう。倒叙ものでは王道の展開ですが、本作でも効果的な形で使われていました。倒叙ものを書く作家は、必ずこれをやりたくなるんですね。
「魔法使いと代打男のアリバイ」
本作は珍しく、マリィが使った魔法による「魔法が打たせた本塁打?」が事件解決に一役担うという、魔法が事件内容に関与する展開となりました。この話がきっかけで、マリィは小山田刑事の家に住み込みで働くことになり、本シリーズは第二作『魔法使いと刑事たちの夏 』に続刊します。
本作を読んで、面白いと感じられた方は、ぜひ続刊も読んでみて下さい。
それでは、次回の本格ミステリ作品で、またお会いしましょう。
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