奪難与易(300字SS)

 奪うのは与えるよりも難しい。


『氷を作れ』

 電書魔術科後期課題と書かれたファイルには、たった一文、そう書かれていた。


「ドップラー冷却ならどうだ」

 他言語で書かれた論文に食いついては見たものの。意味を成さない翻訳結果が画面を占めた。

他のチームはどうしているか。顔をちょいと上げてみれば、そそくさとノートは隠された。

「勉強すれば?」

 タップ音が聞こえてきた。顔を上げると同時に冷風が首筋を撫でていく。

「電書魔術の前にさ」

 思わず首をすくめた俺へ馬鹿にしたような声が降ってくる。

 氷をまとわり付かせたままのタブレットを握る細い指に、僕の心はたった一瞬で氷り付いた。


 氷で極限まで冷やされた後。

 反転して温度が上がるような。


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