8
ニュートンとアサキは、バラックのいたホテルを後にした。
「ねえ、ニュートンさん。これでバラックさん……いえ、リントンさんは人間に戻れるかな」
「私は、魔法の専門家ではないが、たぶん大丈夫だと思うよ。時間は少しかかると思うけど」
「よかったぁ……でも、結局、私自身のことはわからなかったなぁ」
「そんなことはないよ」
「え? ほんと? 何か推理できた」
「ああ、君がとてもいい娘だということ。他人のために一生懸命になにかして上げられる人だ。そして優しい魔法使いだということがわかったからね」
「え? い、いや、その……」
照れくさかったのか、頬が赤くなった。
「わたし、魔法使いじゃないよ。魔法なんて使えないし」
「いや、君は、素晴らしい魔法使いだよ、アサキ。ロベルトさんを人に戻す手助けをしたろ?」
「あれは魔法なんかじゃないよ」
「いや、あれは魔法さ。とても素敵なね」
そう言うとニュートンは、アサキに笑ってみせた。
照れくさそうにうつむくアサキ。
「あ、ありがとう。ニュートンさん」
「ところで、君に聞いておきたい事があるんだ。僕は、まだ君について調査は続けるつもりだが2、3日で解決することでもなさそうだ」
「そうだね……」
「君はまだ、自分の家も分かっていない。つまり宿無しってことだ。問題が解決すつまでどこで寝泊まりするあてがあるのかい?」
「そういえば……」
「あのホテルは安そうだったが、君は、ほぼ文無しだしね」
「ど、どこかで野宿でもする」
「この街の夜は、結構、寒いよ」
「そ、そうなの?」
「これは提案なんだが、解決するまで私の事務所で寝泊まりしてはどうかな」
「え?」
「実は、今、大きな事件を抱えていてね。助手として働かないか? 事務所での寝泊まりは賃金の代わりだ」
「私に探偵の助手なのか……」
「今回の君の推理や思いつきは、中々だったよ。探偵に向いているかもと思うんだ。それにさっきも言ったけど、僕は、今、大きな事件を抱えていてね。君の問題もすぐには解決してあげれそうもない。合間に君のことについて調査を進めしかないしね。つまり、少し時間がかかってしまう。どうだろう、僕の提案は?」
「探偵の助手かぁ……」
「食事付きだ」
「うん。いいよ。助手になる。なんか面白そうだし」
「おいおい、意外と事件を解決するのは大変なんだよ」
「大丈夫よ。ニュートンさんは、いい探偵さんだし、これからいい助手も付くんだしね」
アサキは、そう笑顔で言った。
「決まりだな。では改めて宜しく、探偵助手」
ニュートンは、そう言うと右手の手袋を外し、差し出した。
「宜しく。ニュートンさん」
アサキは、ニュートンの右手を握り握手を交わした。
その手は、思っていたより暖かかった。
ここは霧の街。
全てのモノが霧で覆われている。
家も記憶も
美しい物も醜い物も
そして探偵はそこから真実を掘り起こす……
霧の街のニュートン探偵事務所 終わり
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