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301号室
「また来たのかい」
「実は、あなたを元に戻す方法がわかったんです」
二人は中に入ると男の目の前に手紙を山を積み上げた。
「なんだい? これ」
「これは、あなたの家に届けられた手紙です」
「手紙?」
「バラックさん!とにかく読んでみてください」
そう言ってアサキはその中の一通を差し出した。
バラックは手紙を受け取ると読み始めた。
しばらくすると金属男の目から涙がこぼれだしていた。
「大丈夫ですか?」
ニュートンが尋ねる。
「いや、昔を思い出してね。あれ? 何故、涙がでてるのかな……」
「失礼とは思いましたが、手紙のいくつかを先に読ませていただきました。あなたの友達や家族は、皆、あなたのことを心配しておられます」
ニュートンは静かにそう言った。
「みんな、こんな俺のことを……」
「リントンさんはリントンさんだった時のことを忘れてます!」
アサキが突然立ち上がるとそう言い放った!
「……俺が忘れてるって?」
「忘れてますよ! 自分のことを! でも、みんなは、あなたがリントンさんだった頃のことをまだ覚えているんです。だから、それをリントンさんが、思い出せばきっと人間の姿に戻れると思います! いや、戻れます!」
「人間だった頃の……俺」
「そうです!」
「あ、アサキ、少し、落ち着いて……」
興奮気味のアサキをニュートンがなだめた。
「そうなのか……俺は忘れていただけなのか。しかし、ただの紙に書かれた文字だというのに、何故こんなに胸が熱くなるんだろう」
「確かに紙に書かれたことだけど、ただの文字ではないんですよ! だってそれは……それは……みんなの……」
「まあ、まあ、アサキ。落ち着きなさいって」
再びアサキをなだめるニュートン。
「皆、俺のことを……それにひきかえ俺は今の自分の事だけしか考えていなかったのかも」
ニュートンが咳払いした。
「リントンさん。実は、このアサキが、皆さんにこんな手紙を送ったのですよ」
ニュートンは、リントンの家から拾ってきた書き損じの手紙を渡した。
ロドリック・リントンさんのご友人、もしくは、ご家族、ご親戚のみなさんへ。
はじめまして。
私は、リントンさんの新しい友人です。
突然のお手紙失礼致します。
会ったこともない私が、あなた方に手紙を送らせてもらったのには実は理由があります。
私達の友人であるリントンさんが戦争に行ったのも、ティンマンになって戦う事を志願したのは皆さんご存知かと思いますが、彼は、生きて帰ってきました。
なのに何故、みなさんに会おうとしないかを不思議に思えるかもしれませんが、今、リントンさんの心は戦争で深く傷き、いまだに癒えていないのです。
私は、リントンさんから戦場での話をいろいろ聞きました。
ここでは書けない事がほとんどです。
彼は、戦争で自分がした事をとても後悔し、深く悲しんでいます。
そしてそれがリントンさんをティンマンから人に戻れずにいる理由だと思います。
リントンさんは、ティンマンであるべきだと思いつつ、同時に元の人間に戻りたいという気持ちもがあるのだと私には思えてなりません。
リントンさんが覚えているのは戦場での酷い行いだけだと言っています。昔の自分が思い出せないのだと言います。それは姿の事ではありません。
リントンさんが人間として生活していた時の心の事なんです。
私はリントンさんが昔の心を取り戻せる方法が何かないかを考えました。
そして人だった頃の想い出が重要なのではないかと気がついたのです。
でも、私がリントンさんと友達になったのは、最近なので昔の『想い出』がありません。
そこで皆さんにお願いします。
彼との想い出を書いて送ってください。
楽しい事。嬉しかった事、彼がしてくれた事。彼にしてあげた事。リントンさんとの想い出を思い出させてあげてください。
それを読めば、リントンさんが人間に戻れるかもしれません。
そうすれば、リントンさんが再び、皆さんの前に姿を見せれるでしょう。
リントンさんの新しい友達より
リントンであったバラックは、しばらく無言で手紙を見つめていた。
アサキが心配そうに顔を覗き込む。
「ありがとう……」
バラックは小さな声でそう言った。
同時に彼の金属の鱗の一部が剥がれ落ちた。
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