フェイズ3:無法街、その影で

 墓守の拳が、金髪男の顎を砕いた。

 背後から、衝撃。鉄パイプが墓守の背中を打ち据えている……が、問題はない。

 悠然と振り返り、お返しを見舞う。

 ナイフや拳銃、中にはオーヴァードの異能エフェクトを振るう者もいた。

 しかし、墓守は止まらない。表情も変えず、ギャングたちを淡々と殴り続ける。

 あらゆる攻撃を、痛みを、意に介さない。

 店舗の内装が半壊し、気絶した配下の数が十人を超えた頃、そのリーダーは―――


「わ、わかった、十分だ! 教える! 教えるから、もうやめてくれ! うちの店とチームを、これ以上壊さんでくれぇっ!」


 情報を扱うギャング〈ピーピング・トム〉が、ネコの情報について示した価格は、あからさまにぼったくりだった。舐めているのだ。金は惜しくないが、その態度がとにかくムカついた。だから、墓守は支払い方法を変えた。

 D.U.S.T地区では、暴力も立派な通貨のひとつだ。


「待たせたな、嬢ちゃン。支払いで揉めちまってな」

「つ、強いんですね、やっぱり……」

「これくらいしか取り柄がねぇ。それより、ネコの奴、やっぱりこの街に来てたぞ。そンでな、これは確認だが……お前ら、“隠し”てやがったな?」

「へあっ? あ……え……。はい……」


 〈ピーピング・トム〉の話によれば、ネコはD.U.S.Tに足を踏み入れた直後、タチの悪い連中に絡まれたのだという。だが、彼女はそれを、「ヤバイ速さで」文字通り一蹴した。調査部の報告にあった、“その能力は共に微弱”どころの話ではない。


「ごめんなさい……。ネコの人、国とかに知られるのは嫌だって、言ってたんです。それで、自分が、計測する機械や、お医者さんのデータをいじって……」

「ネコが直接戦闘専門、嬢ちゃンは……電脳系ってトコか?」

「は、はい。自分は本当にしかできないですけど……ネコの人は、すっごく強いんですっ。が、頑丈さは、“”さんのほうが上、ですけど」

「へっ。当たり前だ。俺ぁ不死身の……ン?」

「えっ。……あ」

「『好奇心ネコを殺す』って言葉、聞いたことあっか?」

「ねねねっ、ネコは自分じゃなくて、あの人で……そ、それで……その……あうう、ごべんなざいっ! つい、気になりすぎて、調べちゃって……!」



 * * *



 やっぱり、“Vネット”は頼りになる大賞。

 ヴィランたちをブッ殺すには、ヴィランたちの中に食い込んでいかなきゃいけないって考えは正しかったですにゃ〜。


 UGNのシステムにすら侵入しちゃえるあの子でも、Vネットへの入口を見つけられないなんて予想外。

 でも……諦めなければ夢は叶うって本当だった。

 あの日、ウチはVネットを“見つけた”の。偶然。運命的。

 まるで、選ばれたヒーローみたい。

 そこに書かれていた情報は、ウチに色んなことを教えてくれた。誰も、ウチがヒーロー志望だなんて気づいちゃいない。チョロい連中ですにゃ〜。

 そして、憎いアイツ……ウチのお父さんとお母さん、ウチから光を奪ったヴィランが、D.U.S.T地区で今ものうのうと暮らしてるってことも、わかった。


 すぐにウチは、追いかけた。恐ろしい場所って聞くけど、カンケーないし。

 ……ただ、あの子は連れてけない。

 大丈夫だよ、心配しないで。

 頼もしい“協力者”も、いるからさ!


「あなたにできるの? 大丈夫?」

 

 大丈夫! 大丈夫だよ、“先生”! 余裕! 余裕大賞!

 だって、今のウチはヴィランスレイヤー!

 もう、力を隠す必要なんてない。

 頼りにならないUGNの代わりに、ウチが全力で、全力で……。


「殺す」


 そう、殺すよっ。

 ・

 ・

 ・

 殺してやる。

 そうだ、絶対に、殺してやる。

 殺して、バラバラに砕いて、泥と石と混ぜて、踏みにじってやる。

 もし、仲間がいたら? そいつも殺す。

 もし、家族がいたら? そいつも殺す。

 冷酷非道のヴィランには、それがお似合いですにゃ〜♪


「あそこに、いるよ。行ってごらん」


 何から何までありがとうね、“先生”。

 鼻歌交じりに追いかけて……追いついた。

 なんかゴチャゴチャ言ってるけど、見間違えたりするもんか。

 ウチの“両目”に映ってるオマエが獲物!

 じゃ、死刑、執行! 狙え、フェイタリティー大賞〜!

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