第6話《老法師》
荒い海を見下ろす小高い丘の上にひっそりと佇む古びた館。
潮風で崩れかかった門標には縦横の直線が数本だけ微かに見て取れる。
時折崖下からゴゴ~ッと吹き上げる風の音と、
ザパ~ン、ザパ~ンという波音だけがこだまする。
雑草が生い茂る裏庭では老齢の法師が黙々と木を削っている。
波音にかき消されよく聞き取れないが、何やらブツブツと唱えながら、ひと彫りしてはブルブルと震え、またひと彫りしてはブルブルと小刻みに体が震えている。
一通り彫り上げると掌より一回り程大きな木彫り細工を右手で掴み、形状を確認する為なのか、角度を変えては眺めてまた光の当たる面を何度も変えては、嘗め回すように細部まで目を這わす。
その異様なまでに何かに執着した目玉は、徐々に深く沈み込み老人とは思えない目力が発散している。
何度も何度も執拗に見回し納得したのか、フンッと大きく息を吐き出すと、左手で人面のような木彫り細工を優しく摩りながら更にブツブツと唱え出した。
しばらくすると歓喜が体を貫くかのように微かに痙攣する。
そして痙攣するたびに無数の皺に覆われた顔は、得も言われぬ恍惚な表情を見せさらに深い皺と左頬の大きな痣を浮き上がらせる。
老人と海風と古びた館は現世とはかけ離れた世界に囚われているようだが、独特の調和が保たれている。
また黙々と木を削り出す老齢の法師。
その傍らには薄気味悪い仮面が積み上げられていた。
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