ミチルとレクの探偵事件簿

雨宮翠菜

第1話 消えた青い星

1 古都村探偵事務所

僕は、幸村玲玖ゆきむられく。そこまでとりえのない、普通の22歳だ。別にぐれているわけでもないし、かといって、頭がいいわけではない。本当に普通の22歳なのだ。僕の悩みはバイト。あまりなじめないんだ。さっきまで悩んでいたんだけど、悩んでいてもしょうがない、と思い散歩をしているんだ。散歩。今風の若者からしてみれば、「面倒くさい」とか「老人くさい」と思われがちだが、(もちろん僕も十分現代人なのだが)僕は、散歩が一番自分の心を和ませるには、ぴったりだと思う。外の空気をすって、街並みを歩いていると、いつも見ている街が違って見える。すると不思議と心が和やかになるのだ。僕はゆっくりと歩きながら、路地に入った。初めて見る路地で、無性に入りたくなったのだ。そうそう、いうのを忘れていたが、僕は大のミステリー好きだ。シャーロック・ホームズはもちろん、数々の探偵ものの小説を持っている。小さいころは探偵になりたい、と思っていたが今になって探偵には向いていない、ということがわかりすっかりあきらめていた。と歩きながら考えていると、一軒の店の看板に目を奪われてしまった。その看板には「古都村探偵事務所ことむらたんていじむしょ」と書かれていた。僕は、心が躍った。まさか夢にまで見た探偵事務所にであえるとは!僕は思わずその店のドアを開けてしまった。カランカラン、と快い音を立ててドアベルがなった。店の中は、いかにも、といえるほど探偵事務所っぽかった。正面にデスクがあり、両脇の壁には本棚があった。そして、デスクの正面にはソファ2つ、向かい合って置いてあり、真ん中には机が置かれていた。僕はここの所長だろうと思われる女性と目が合った。茶色のストレートの髪はセミロングで瞳は透きとおるような黒だった。

「何か御用?」

よくとおる声で言われ、僕は慌てて

「い、いいえ。別に。これといった用事はとくに・・・。」

としどろもどろ答えた。すると、彼女はじーっとみてきて、びっくりなことを言った。

「悩んでいるんですか?」

「えっ・・・」

僕は、驚いてしまった。なんと初めて会った人の気持ちを言い当てるとは!・・・とまで考えてふと思った。探偵事務所に沈んだ顔で来たら悩み以外何物でもない。

「そうなんですよ。バイトがなかなかなじめなくって。こんなに悩んだの初めてです。」

僕は素直に答えた。すると、彼女は「いけるかも・・・。うんうん・・・。」とぶつぶつといった後、

「そうですか。それでは、いい仕事をお教えしましょう。」

と、さらりといった。

「本当ですか!?」

僕はうれしかった。さすが探偵事務所だと思った。

「それで、どこですか?」

僕は、心を躍らせながら聞いた。

「ここです。」

「はい?」

僕は、人生で一番すっとんきょうな声をあげてしまった。

「だから、ここで働くんです。」

彼女は、僕にでもわかるように説明してくれたが、僕はその言葉を理解するのに十秒必要だった。

「えっ!ここですか?でもいったいなにを・・・。」

僕はもう頭がパニックになっていた。しかし、彼女はさらっといった。

「助手」

「助手・・・。」

僕は、この助手、という言葉が好きだった。自分もなれるかもしれない、という期待を込めているからだ。

「やりますか?」

彼女が聞いてきた。僕は、一瞬迷ったが、すぐに心が整理された。

「やります。」

たぶんだけど、今までで一番はっきりといった。

「わかりました。それでは探偵の仕事を説明します。そこのソファに座ってください。」

僕は、言われるままに座った。

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