第五十四話「敵の狙い」

 Side of 天野 猛


「敵の数が想像以上に少ないですね?」


 春歌の言う通り内部はまるで先に誰かが暴れ回ったかの様な痕跡が残されていた。

 大した障害もなく、中枢奥深くまで進むことが出来た。

 内部はもうSF映画の宇宙線そのままの様な様相だった。

 柵や手摺がない床が透明な通路が彼方此方に伸びている。

 おどろおどろしい雰囲気はない。

 

 何らかの都市部や生産工場も見掛けた。

 そのうち生産工場は何者かに破壊されていたが――


「そうね。誰かが先に殴り込んだのかしら?」


「一体誰が?」

 

 舞の疑問に姫路は頭を働かせるが思いつかない。

 自分達が一番乗りの筈だ。

 にも関わらず単独で特攻した奴がいるとすればそいつはとんでもない化け物か自殺志願者か自分を不死身だと思っているような奴のどれかだ。

 どれにしろマトモな奴ではないだろう。


「見て下さい猛さん!!」


 そうして新たな広間に辿り着く。球体上半分の内側の様な内装の広間で本格的なスポーツの試合が出来そうな場所だった。

 そこにいたのは――白い仮面、赤いラインが走るシルクハット、日本刀を握りしめ、黒いスーツを身に纏った明らかに不審者な格好をした人物だった。

 周囲には残骸が転がっている。


『学園長じゃないか』


 嵐山 蘭子の一言に皆「え?」となった。

 目の前にいる不審者が学園長?

 首を捻った。


「私も会った事はあるわね」


「私も」


「そうね、こんな姿だった」


 舞がそう言い、凜も続いた。

 沙耶も思い出したかのように呟く。


「よぉ。色々と言いたい事はあるけど今は置いとくぞ」


『どうしてここに?』


 代表して蘭子が尋ねる。


「理由はどうあれブラックスカルの事件ではお前達に丸投げした責任があるからな。その責任としてこの円盤内にある生産設備を全て破壊し終えたところだ。少なくともこの円盤内ではもう敵が増え続ける事はない」


『てことは道中の敵は全員――』


「俺が倒した――数は数えてないが少なくとも大分楽出来た筈だ」


「そ、そうなんですか・・・・・・」


 春歌は困惑気味に返した。

 楽出来たと言うより逆に何の障害もなくて不気味すぎたのだがそう言う理由があったのか。

 と言うか見掛け、仮面を被って日本刀しか持ってない怪人物にそこまで出来るのだろうかと思ったが天照学園においては学ラン仮面などの前例がある。

 アレも外見と戦闘能力の強弱は比例しないという良い見本だ。


「それよりもお前達この一連の騒動に関して何処まで掴んでる?」


 唐突にそう尋ねる。

 答えを返したのは猛だ。


「・・・・・・起こるべくして起きたとしか分からないですね。正直感覚的にしか」


 天照大橋で起きた出来事などを思い出しながら言った。

 断片的ながらあそこで起きた謎の現象で未来情報を受け取っている。

 JOKERは「それだけで十分だ」と返した。


「経緯はどうあれ、未来を知ったブレン軍は自分達の滅びの未来を防ぐためにこの地球に攻めて来たと同時に地球の様々なモノを手に入れようと画策した――」


「志郎の推理は間違ってなかったのね・・・・・・何処でそれを知ったんですか?」


 舞は丁寧な口調で尋ねた。


「信じられんかもしれんがこの世界には――宇宙には神と呼ばれる存在がいる。このブレン軍を背後で操ってる奴や古くから地球人に味方してくれている神もいる。中には並行世界などを跨いで協力してくれている奴もいる。心辺りはあるんじゃないかな?」


 その一言に天野 猛、城咲 春歌、揚羽 舞はハッとなった。

 

「他にも天村君や闇乃君、倉崎君に宮園君も同じく垣間見た筈だ――」


「アレってもしかして――」


 と、猛が何か言おうとするが「まだこの時間軸においてああなるとは決まったわけじゃないぞ?」と前置きしておいた。


「話を戻すぞ。ブレン軍の背後にいる神とそれを表向き支配しているブレンを倒すのは今しかチャンスがない。特に背後にいる神は地球の神と戦って消耗している。理解が追い付かない部分があるだろうし信じられないかもしれないがともかく最後の賭けに出る前に動く必要がある」


「最後の賭け?」


 グレースがその単語に食いついた。


「この星を吹き飛ばす事だ」


 サラッと出た学園長の言葉にシーンとなった。

 確かに敵の科学技術を考えれば出来ない事はないだろう。

 話はよく分からない部分はあるがとにかく時間はあまり残されていない事は理解した。 


「俺は司令室を抑える。お前達は動力炉に向かえ」


「ちょっと待って学園長。私達地球人に動力炉の端末を操作して制御しろって言うの? それとも破壊しろとでも? 下手すれば惑星に大穴空いて地球滅亡するわよ?」


 と、沙耶が最もな発言をする。


「心配するな。動力炉が想像通りの代物なら動力炉と戦闘になる」


「動力炉と戦闘? どう言う事?」


 当然な疑問を姫路 凜が持つ。


「内部あちこち回って調べてみて回ったんだが、この円盤その物が――と、どうやら客が来た様だな」


 ホールに次々と敵が迫ってきている。

 沙耶は驚いていた。


「嘘・・・・・・まだこれだけの数が――」


「どれぐらいの数が迫ってるの!?」


「この場は俺が何とかするからお前達は動力炉に向かえ!! 塞いでいる障害は全部解除してある!!」


 そう言ってJOKERはその場を去った。


「ともかく急ぎましょう。反応からしてこっちよ」


 そう言って沙耶が先導する。


「学園長は大丈夫なんですか?」


 当然の疑問を春歌が投げ掛けるが――


『心配いらねえ。アレでも最強の一人だ。ほらいくぞ』


 と嵐山 蘭子が返した。



 Side of 柊 友香、橘 葵、三日月 夕映、リンディ・ホワイト


「まさかリンディさんが生身でここまで戦えるとは思いませんでした」


「うん、試合の時とかは結構セーブしてるんだけどね~」


 などとリンディ・ホワイトは白い扇情的なボンテージ風女子プロコスチュームを身に纏いながら水色髪の長髪の美女は敵を蹴り倒す。

 時折光の球やら銃弾やら飛ぶがそれも拳で掴んだり、蹴り返したりしている。

 控えめに見て人間止めてます。

 本当にありがとうございました。

 パワードスーツとは何だったのか。


 外に出た三人はセントラルエリア――嘗てのブラックスカルとの決戦地を目指していた。

 

「それにしてもこんな状況なのに危険冒してよく行動するわね」


「こんな状況だからこそです」 


 と夕映が返す。


「まあ紅 官女のマスターも働いてるし、いっちょ一肌脱ぎますか」


 と言って近寄る敵に次々とプロレス技を決めていく。

 シャイニング・ウィザード。

 ジャイアントスイング。

 レッグラリアート。

 ドロップキック。

 ラリアット。

 フェイスクラッシャー。

 などなど豪快に決めていく。

 そんな技を連発しているにも関わらず疲れた様子を微塵も見せない。

 何か女子プロレスラーとかそう言う次元を超えている気がする。


 この人には逆らわないでおこう。

  

 柊 友香と橘 葵はそう心に誓いつつもセントラルタワーに向かう。


「グモグモ。敵が多いグモ」


「私退魔師なんだけど――宇宙人は専門外なんだけど――」


 と近付くにつれて戦っているらしい人影と謎の地球外生命体が見えた。

 黄色くて丸っこい兎が昭和の特撮物に出て来そうな光線銃を放ち、メガネを掛けたOL風の女性が小太刀二刀流で戦っていた。


 それを見て友香は一言。


「一体この学園って何なんですかね・・・・・・」


「さ、さあ?」


 葵はそうとしか答えようがなかった。 


Side of マスクコマンタ―&闇乃 影司


 殿組のマスクコマンダーと闇乃 影司は周囲を見渡す。


 本当は闇乃 影司は倉崎 稜達と行動を共にしたかったらしいのだがその倉崎 稜本人に頼まれ、そして戦いの流れでマスクコマンダーと一緒に行動をして戦っていた。

 

 主立った敵の幹部格はどうにか討ち取った。

 後は複製されたりした地球の兵器やらブレンの兵器やら、有り体に言えば雑魚ばかりだ。


 闇乃 影司がいなければ危なかっただろうとマスクコマンダーは思う。


『はあはあ・・・・・・恐かった・・・・・・』


 と、恐ろしい黒い怪人の様な容姿が弱気を発言を吐いてその場に尻餅をつく。


『正直メチャクチャな戦い方で色々と言いたい事はあるが・・・・・・ありがとう。どんどん状況は此方側に優勢になりつつある』


 実際、闇乃 影司の戦い方はメチャクチャだった。


 攻撃こそが最大の防御と言わんばかりの戦い方で、何よりもエグイ戦い方だ。

 相手の体に手を突っ込んで体内の物を抉り取ったり、噛み付き攻撃したり、力任せに腕を引き千切ったり、手刀で真っ二つにしたり――変身前の可愛らしい容姿からは想像もつかない苛烈かつ容赦ない戦い方だった。


 それでいて防御力もあり、自動修復能力も備わっており、さっき言った戦い方もチートなスペックがあるからこそ成り立つ戦い方だ。

 一度終わったらその辺厳重に言い聞かせておくべきだろうと思った。


『そ、そう・・・・・・倉崎君達は?』


『其方は無事のようだ。今は救出作業に当たっているが人が多い。自衛隊や連邦軍の救出部隊が来るまで収容施設で待機させた方がいいかもしれないな』


『そう・・・・・・』


『・・・・・・そんなに倉崎君と一緒にいたかったのか?』


『うん――その・・・・・・』


『?』


『天野君のお父さんなんですか?』


『それは――』


 突然悩める少女の様な口調でそんな話をこの状況で唐突に振られて戸惑うマスクコマンダー。


『ねえ、お父さんとして息子を世界の命運を賭けた戦いに放り込むのはどうなんですか? どんな気持ちなんですか?』


『そ、それは今答えないといけない話なのかな?』


『だって気になるから――自分、父親や母親に愛情とか注がれた思い出なんてないから――だから他の親はどうなのかなって思って――』


『あ、ああ――ともかくその話はこの事件が終わった後にでもしよう。少なくとも好き好んで放り込んだワケじゃないのは理解して欲しいかな?』


『うん』


 その説明で納得したかどうかは分からないが影司は立ち上がった。

 

 その時だった。


 ―さて・・・・・・最後の準備を始めよう―


 何者かの声だ。


『避けろ闇乃君!?』


『え?』


 闇乃影司が謎の空間に引き摺り込まれた。

 

『フェイランです――天村 志郎様、宮園 恵理様、倉崎 稜様も――突入班では天野 猛様、城咲 春歌様、揚羽 舞様が突然謎の空間に引き込まれた・・・・・・恐らく敵側の手によるものだそうです』


 フェイランが挙げられたメンバーもさっき見た闇乃 影司と同じ現象に遭ったらしい。

 一件共通点はないが、ブレンの背後にいる神ぐらいしか分からない共通点が存在する。


『クソッ!! やられた!!』

 

 マスクコマンダー毒づいて巨大円盤の方を見た。 


『この不可解な目的が分かるのですか?』


『ああ。もしかするとアイツら逃げるつもりかもしれん!』

  

『なんですって?』


 ここまで好き放題しておいて逃げる。

 その行動の意図がフェイランには理解出来なかった。


 そして巨大円盤はゆっくりと浮上を始める。

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