第五十二話「終わりへの序曲」

 Side 黒崎 カイト


 世界で今最も危険な場所。


 宇宙からの侵略者の本拠地。


 敵は幾分か外周部の陽動部隊が引き付けているらしいがそれでも敵の物量が多い。


 倒しても倒しても何処からともなく敵が湧いて出て来る。


 突入班(猛達)は巨大円盤内部に入り込めたようだが、救出班は敵の特殊部隊と抗戦を開始したようだ。


『流石敵の本拠地だけあって数が多い!!』


 カイトは舌打ちしながら次々と円盤をブラスターや剣で叩き落としていく。 


 もう何体倒したかなど、覚えてすらいない。


 とにかく空にいる近くの敵から倒して行く。


 さっきからそんな感じだった。 


(アサギは・・・・・・この状況のためにこのパワードスーツを作ったのか・・・・・・)


 激しい敵の攻撃に晒されながらもふと黒崎 カイトは思う。


 アサギ、ジェネシスの研究の意味を。


 全てはこの時の為に。


 作り上げたのだろう。


(俺は確かに道化だったんだろうが・・・・・・だが・・・・・・)


 擦れ違いざまに円盤を斬り落とし。


 片手に持ったブラスターで近場の円盤を撃ち落とす。


(ここで戦わなければ本当に無駄になる)


 そう。無駄になる。


 ジェネシスの人々の想いが。


 アサギの想いが。


 全て無駄になる。


 簡単な事だったのだ。


(ああ、あの小僧の事、笑えないな・・・・・・)


 あの金髪の女の子みたいな童顔の、口は一人前の気にくわない小僧。


 カイトがあえて認めないのはちょっとしたイジ悪みたいなもんである。


 ここでヘマやらかしてたらあの小僧に何か言われるのは癪だ。


 さっさと片付けて「まだ終わってなかったのか?」ぐらいは言いに行ってやろう。


 そう思いながらも体を動かす。


 剣を、力を振るう。



 この世界を、アサギが愛した世界を守るために。



 Side ティリア、カルマ



『たく、敵の数が多すぎる!!』


 ティリアは必死に火器を放つ。


 敵が築いた近未来都市部で敵を身に付けた大火力で着実に葬っているがそれでも敵は際限なく彼方此方から湧いてくる。


『増援部隊が来る! 持ち堪えろ!』


 カルマも同じくスーツの大火力で粉砕していくがそれでも持ち堪えるのが精一杯だった。


 敵を何体倒したかだとか、巨大ロボも何体潰したかなどもう数えてすらいない。


 とにもかくも生き残るで必死だった。


 Side 春龍


『春龍様、全体的に殿組は押され気味です』


『持ち堪えさせて! こっちも必死なの!』


 フェイランの報告にそう返す。


 ピンクのパワードスーツ。


 龍を模しながら何処か女性らしさが感じられるチャイナ服を組み合わせた様なヒーロースーツで次々と殴り、蹴り、敵を蹴散らしていく。


 纏めて鋭利な刃で両断するかの様な蹴りを放ったりもする。



 しかし最近はデスクワークが長かったせいか体が鈍っているらしい。



 そもそも自分は巨大ロボパイロットだ。


 何が悲しくてパワードスーツ身に纏って前線で戦わなきゃならんのだと春龍は心の中で愚痴る。


『救助組(天村 志郎たち)は敵の特殊部隊と応戦。突入組(天野 猛たち)は順調過ぎるぐらいに進んでいます』


『突入組がちょっと不安ぽいけど罠かしら?』


『私もそう思います。ここは敵の本拠地です。一応その事は通達していますが・・・・・・』


『罠でもなんでも進むしかないわ。万一の事に考えて動けるようにしとくわよ』


『それが最善ですか――』


『ええ』


 とにもかくも殴りや蹴り、時折気功波で雑魚ばっかり相手にしているのだが倒しても倒しても何処からともなくウジャウジャと湧いて来てイヤになって来ていた。


 一緒に付いてきた天村財閥、天照学園のスタッフに自衛隊員の必死になって敵を倒しているがそれでも何処まで持つかと言う感じだ。



 と言うか自分達でここまで持たせているのが正直奇跡なぐらいなのだが。



『ともかくやるしか無いわね――』


『お任せ下さい春龍様――』


 そう言って気合い入れ直して春龍は敵の群れに飛び込んでいく。


 春龍は文字通り暴風と化した。


 次々と敵が砕け、吹き飛び、巻き添えを食らい――三国志の一機当千の戦国武将の様な獅子奮迅の戦いを見せる。


 迫り来る銃弾だろうがビームだろうがお構いなしに殴り、蹴り飛ばし、逸らしていく。


 九龍の大幹部の肩書きは伊達ではないのだ。





 Side of 谷川 亮太朗&川島 愛菜


 その頃、天照学園では――


『おいおいやばくないか!?』


「実際ヤバイっしょ兄ちゃん!!」


 避難所も修羅場に陥っていた。


 どうやら防空網を突き抜けて怪人やら戦闘員やらが攻めてきたらしい。


 デザイアメダルの怪人も何らかの刺激を受けたのか活性化して再び出現し始めていた。


 戦えるメンバーは皆、戦闘態勢に入っていた。


 谷川 亮太朗と川島 愛菜の二人もそうだ。


 亮太朗はスマフォ型変身アイテムをバックルベルトに装着して変身し、愛菜は二丁の光線銃で紅のポニーテールを揺らしながら敵を迎え撃ちつつ学校内にいる避難住民を避難させている。


 ブラックスカルの事件の時と同じでとにかく倒しても倒してもキリがなかった。


『うわぉ!?』


 運動場で一際大きな爆発が起きた。


 敵が纏めて吹き飛んだ。


『たく・・・・・・少年院で大人しくしてたらこれだ――』


 そう言って白い蛇型のパワードスーツ「白蛇」を身に纏った男、嘗てのブラックスカルのメンバーであり、ブラックスカルの最終決戦においてヒーロー達を助けた男、巳堂 白夜がいた。


 彼がここにいるのは単純に手が足りないからと言う超法規的な措置である。


 少年院内でも模範的な態度で過ごしていた上にブラックスカル事件の全貌解明に積極的かつ協力的だったのもあり、手続きが楽に済んだと言うのもある。


『宇宙人だけって聞いたのにデザイアメダルの怪人まで彷徨いてやがる――』


 そう言って視線を向けるとB級映画に出て来るゾンビの様な緩慢な動作で怪人が迫り来る。


 白夜が相手をしようと思ったが――


『おっと・・・・・・この戦い、私も参加してもいいかな?』


『お前は――』


 突如として割り込むように白銀の騎士の戦士が現れた。


 額に金色のV字アンテナ。


 ツインアイのフルフェイスヘルム。


 赤いマントに銀色の剣に盾。


 腰にはベルトを巻いており、バックルには騎士の模様が描かれた黄金のメダルが装填されていた。


 白夜は知る由も無いが天野 猛達と合流しているグレース・ナディア、その変身後と被っている出で立ちだ。此方は派手だが。


 だが白夜はそんな事知るワケもなく、その男には見覚えがあった。


『王渡 志貴・・・・・・テメェなに呑気にシャバ彷徨いてんだ』


『それはこっちの台詞だよ』


 王渡 志貴。


 ジェネシス事件とブラックスカルの事件の間に海堂と組んで色々と目論んでいたイカレ野郎の一人だ。


 ブラックスカルにも何度も接触しており、正直知らぬ間にでもいいからくたばっていてほしかったが生きていたようだ。



 この分だと海堂もまだ呑気にどっかでデーター収集だとか言って暴れてそうだ。


『まあ今はこんな状況だ。助け合わないと本気で死ねるよ』


『・・・・・・楽しそうだなお前』


『勿論さ。暇だからデスゲームでも始めてみようかなと思ったけど、まさか宇宙からの侵略者なんて――海堂さんも助手の女と一緒に暴れてたし――あの蛇女とガンマン気取りは知らないけど――ともかく世間話している場合じゃなさそうだね』


 そう言って敵の群れに自ら進んで飛び込んでいった。


『この事件終わったら本格的にケリつける必要がありそうだ・・・・・・』


 などと思いながら白夜も戦いに参戦する。


☆  


 Side of 村雲 炎華


 天照学園風紀委員の一人、村雲 炎華は火の鳥、朱雀を模した烈火のパワードスーツを身に纏い、二刀流で敵を斬り倒していく。


 背中から炎の翼をはためかせ、舞うように敵を斬り倒す。


 他の風紀委員も独特なパワードスーツ――総じて和風のスーツを身に纏っており、手に持つ武器も槍や大鉈など、和風の武器が多い。


 まだ中、高生とは思えない戦闘力を発揮して避難民を守りながら次々と敵を倒していくがそれでも敵の物量に押されつつあった。


『何処から侵入してきている!?』


 炎華は一体斬り倒して愚痴を言う。


『宇宙からの戦線が破られつつあるそうです! そこから直接この学園に降下して来てるんですよ!』


 と風紀委員の一人が答えて炎華は『敵も形振り構って来なくなったと言う事か・・・・・・』と答えた。


 炎華の想像は実は当たっていたのだが今回の事件に深く関わっていない少女にそんな事分かる筈もなく、ただひたすら二刀の燃え盛る刀を振り回す。




 Side of JOKER影浦


 JOKER影浦は複数存在していた最後の無限創造マシンを破壊してその場を後にし、通路に背中を預けた。


 少なくとも自分が特攻したこの巨大円盤の本拠地からは敵の増援は出なくなる筈だ。


 自分が歩いてきた道に目を遣ると残骸や死骸が転がっている。


「ふう~まだ肝心な奴が残ってるな・・・・・・」


 そう。


 ブレンとその背後にいる神を倒さない限り勝利にはならない。


 神の方は正義の神、マスタージャスティスとの戦いで消耗しているが問題はブレンの方だ。


 ブレン軍の総大将であると同時に神の使徒である。


 JOKER影浦を持ってしても一筋縄ではいかない相手だ。


「・・・・・・自分の学校の生徒の姿を拝見しに行きますか」


 そう言ってJOKER影浦は再び元来た道を引き返す。



 Side of 柊 友香、橘 葵、三日月 夕映


 この学園にはもう安全な場所は。


 いや、そもそもこの日本に。


 この世界にそう言う場所はあるのだろうか?


 体育館の中で柊 友香と橘 葵はブラックスカルの事件の時以上に絶望感を感じつつあった。


 外では激しい戦闘音が聞こえる。


 ここも安全ではないが下手に動くと流れ弾が当たる可能性があるので身動きが取れない。


「皆――大丈夫かな・・・・・・」


 周りの人々が不安を口々に言う中、葵がポツリと漏らした。


 それに反して友香は違った。


「私は信じてる。きっと天野君や春歌ちゃん達が何とかしてくれるって」


「友香ちゃん・・・・・・」


「だから恐がってなんかいられない」


 体は震えている。


 涙が出そうなぐらいに恐い。


 だが拳をギュッと握りしめ、涙を押さえ込み、小さな体躯で恐さを耐えようとしていた。 


「貴方も信じているのですね・・・・・・彼達の戦いを」


「え?」


「生徒会長!?」


 唐突な出現だった。


 理事会の娘。


 中等部を纏める生徒会長。


 それがこの校舎にいたのだ。


 何故? と二人は思ったがとうの本人は言いたい事は分かっていたのか「色々と学校を見て回っていたのですがそれが仇となりまして――下手にここから動けない状況です」と答えた。


 中等部の生徒会長として現場を見て回り、状況を把握しようとしたらこの惨事に巻き込まれたらしい。


「柊さん、橘さん――ですよね?」


「私達の事を知ってるんですか?」


「はい。以前城咲さんに助けられた事がありまして――それ以降城咲さん達の支援に回る傍ら成り行きで二人の事も知ったと言う感じでして・・・・・・」


 との事だった。


 夕映の言う事には間違いはない。


「姫路さんも今――必死に戦っています――上手く行っている筈なら敵の本拠地に殴り込みに行っている筈です。城咲さんも一緒です」


「て、敵の本拠地ですか!?」


「そんな無茶な!?」


 二人は素っ頓狂な声をあげる。


 宇宙人の。


 軍隊だって叶わない相手の敵の本陣に殴り込みに行く。


 カラーギャングとは規模が天と地程掛け離れているような相手にだ。


「もうこうなっては――祈る事しか出来ません――ですがこのまま黙って好き放題にされると言うのも症に合いません。かといって私達には戦う力もありません。でもきっと出来る事がある筈です――」


「出来る事――」


 そして友香はハッとなった。


 ブラックスカルの事件の時、自分は何をしていた?


 あの時の再現をすればいい。


 だがそれだけでは足りない。


「想いを――伝えたい・・・・・・私はまだ諦めてないって、皆まだ必死に抗ってるって! 生きる望みを捨ててないって伝えたい!」


 心から絞り出すように友香は叫んだ。


 周りの大人や生徒達もザワザワと騒ぎ始める。


「確かに恐い! でも友達が、どうしてそんな無茶をしたのか分からないけど、けど、このまま黙って見ていたくはない! お願い! 通信越しでもいいから伝えさせて! 春歌ちゃんに! 猛君に! 私達はまだ生きてるって! 信じてるって!」


 周囲はシーンとなる。


 だが葵だけは違った。


「じゃあ行動に移そう。善は急げだよ?」


「うん!」


 その二人を見て、夕映は微笑んだ。


「私もお供させて頂きます」


 更には――


「俺達も頑張ろう」


「私達も――天野君や城咲さんもきっと戦ってる」


「ヒーローって子供が多いんだろ? 大人の俺達が頑張らないでどうする」


「力がなくたってなんだ。大人だってやれるって事を証明しないと――」


 暗いムードがドンドン吹き飛んで行く。


 その場にいる人間が皆が皆、生きるために行動を開始し始めた。



 Side of 増田 美子


 とある都内の学校に避難していた記者、増田 美子は今二度目の奇跡の瞬間をスマフォ越しに眺めていた。


 その奇跡自体には敵を倒す力はない。


 だが――きっとこの戦いを勝利に導く手助けになる筈だ。


「そうね・・・・・・」


 スマフォを操作しながら自分も出来ること、記者としての本業をする事を決意した。


 記者の仕事は真実を伝えることだ。


 だが何時しか記者と言う仕事は――少なくとも日本においてはどれだけ金になる記事を産み落とせるかと言うグレーな仕事になり、日本の統治機構を腐敗させるまでに至った。


 それは記者としても悲しい真実だ。


 これからもきっと同じ事をするのだろう。


 だが今は――これが記者として最後の仕事となったとしても――伝えなければならない。命を賭けて戦っているヒーロー達の事を。それを支えている人達の事を。

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