第四十六話「その頃の姫路 凜」


 Side 姫路 凜 & ???



 =天照学園・学園島南部・サイエンスエリア=

 

 夜になっても戦いの気配は収まらず、各地で戦闘が続行されていた。


 一方でヒーロー部の部長、理事会の娘の姫路 凜はと言うと――


「学園長から話は届いてたけどアンタが援軍ってわけ?」


 船が立ち並ぶ造船ドッグで変身状態の姿をしていた。

 ここは船は船でも宇宙船などを開発するエリアだ。

 

 比較的被害が少なかったがそれでも余談を許さない状況であるのは変わりないため戦闘態勢である。

 

 アンテナが付いたヘッドギア。

 騎士を連想させる肩パッドやコート、鎧を連想させるアームカバー、ブーツ。

 ミニスカと言う組み合わせでアニメ的な姫騎士を連想させる変身姿だった。


 眼前には学園長を通して寄越された増援の戦士がいる。

 

「まあ子供のお遊戯に付き合いつもりはないけど、上からの命令でね。それに綺麗な女の子がいるのならそれも悪くないかなって思って・・・・・・」


 彼女と向かい合うように立っていたのは美男子で見事に学生服を着こなしている。

 背丈もあり、顔立ちも整っている黒髪で切れ長の瞳の少年。

 モデルやっていますと言っても通用しそうだ。

 軽薄な言葉を吐きながら怪しい色香を振りまいている。

 彼のセリフから凜は「OK、どう言うキャラクターか理解出来た」と返した。

 どうやら女性好きな性格でそれを隠そうともしない。いっそ清々しさが感じられる。 


「改めて自己紹介を。ソーディアンから派遣されたエージェントのグレース・ナディア。よろしくお嬢さん」


「これはどうもご丁寧に。では此方も改めて。私は姫路 凜。ヒーロー部の部長でこの学園の理事会の娘よ」


「どう呼べば?」


「好きにすればいいわ」


「ではリンと呼び捨てで」


「じゃあ私も気兼ねなくグレースって呼ばさせて貰うわ」


「どうも」


 社交辞令的なやり取りをしてグレースは船の一つに目を向けながら言った。


「師匠にも来て欲しかったけど、日本はあの宇宙人のせいで海外と遮断されてるからね。合流は難しいかな?」

 

「なんともまあ馬鹿でかい孤島ね」


 グレースの言に、凜は今の日本の現状をそう評した。

 日本は世界から物理的に孤立しつつあると言って良い。

 海外への渡航手段は海上船ぐらいだ。


 飛行機などを使えばスグに撃墜される。宇宙船など論外。


 何しろ相手は何万光年先からワープして来た侵略者の宇宙船だ。射程距離や命中距離も地球の常識とは桁外れのレベルで、マッハでどれだけ離れて空を飛ぼうとも相手の科学力からすれば止まってる的同然である。


 その気になれば地球一周(約四万キロメートル)の八倍前後の距離である月の王国すら攻撃出来るかもしれない。


 この攻撃から逃れるには超低空で飛び、地球が球体である事を活かして円盤の水平線の下に潜り込むぐらいしか逃れるぐらいしか術はないだろう。

 

 あの宇宙からの侵略者が日本に居座る限り、時間が経てば経つ程状況は益々酷くなるだろう。


 当然、衛星軌道上の衛星や宇宙ステーションも全て打ち落とされており、国際社会も通信面で孤立が始まりつつある。

 

「沙耶の奴やハヤテの奴もそれぞれの勢力を収集中だし、JOKER学園長は動くにうごけないわね」


「JOKER学園長は戦力的に見ればラウンズレベルと聞いてるけど――」


「ラウンズ? ああ、ソーディアンの最高意志決定機関であると同時に最強部隊を兼任しているって言う、あのラウンズ?」


「まあその認識で構わないわよ。で? どうしてJOKER学園長は?」


「分からないの? それともワザと言ってる? 天村財閥や宮園財閥とかもそうだけど天照学園は日本が国の機能を停止した場合、国の機能をバックアップ、もしくは国家運営の決定権を代行する事になるのよ――勿論日本国民には極秘の事だけどね。政府でもあまり知られてないわ」


「そこら辺はソーディアンと同じか」


「そゆこと。今がその時だから動くに動けないの、学園長さんは」


 凜は事情を推測交じりに話し、グレース「確かに」と同意した。


 元々天照学園は創立当時から天村財閥などの政治的後ろ盾で高い政治的影響力を誇る学園だ。

 

 更にそこにJOKER学園長の手腕により、日本に所属していながら日本とは違う独立国家として振る舞う姿勢を度々見せており、世界各国の首脳陣は天照学園を日本のもう一つの外務省のように捉える程だった。


 それぐらい天照学園の日本に対する政治的影響力は強いのだ。

 日本に関してだけで言えば大国並の圧力すら掛けられる。


 その気になればある程度国の機能を代行することも可能なのだ。


「それに相手の戦力や目的を図り兼ねてるって言う部分もあるしね。下手に動いて学園壊滅って言う事態は避けたいんじゃないの?」


「戦後も視野に入れて動かないといけなくなるとは――政治っていやなもんだね」


 グレースは愚痴を漏らした。

 言わんとしてる事は分かるのだ。

 仮に戦いに勝っても守るべき物を失ったら意味が無いのだ。


 だから動ける奴が動いて最善を尽くすしか無い。

 それが今の末期戦のような状況なのだ。


「さて、愚痴り合いはここまでにして段取りを聞こうじゃないか?」


「そうね。地球連邦軍の反攻作戦に合わせるために私達も動くわ――作戦の詳細は分からないけど、捕らわれた民間人諸共大量破壊兵器で吹き飛ばすって言う考えもあるわね」


「ま、ありえなくない話だけど、宇宙人相手にそんな手通用するのかな? 僕は通用しないに賭けるけど」


「私もそっちの考えよ。ミサイルが探知された時点で迎撃されるわね。戦闘機とかに積んで至近距離で打ち込むにしても、その戦闘機も迎撃されてしまいよ。どんなステルス機でも宇宙でドンパチする前提の円盤に地球のステルス技術なんか通用しないわよ」

 

「陸路で突っ込むのかい?」


「それでも相手の物量を考えた場合押し切られるわ。だからこの飛行機を使うの」


 そう言って青い大きな飛行機を見上げる。

 まるでヒーロー物のスーパービークルのようなデザインだ。

 凜の様子から察するにこの飛行機を使うのだろうとグレースは思った。

 

「宇宙船なのかいこれ?」


 宇宙線が立ち並ぶドッグの中で宇宙船らしからぬデザインであるが、ここに置かれていると言う事は宇宙船なのだろう。

 それでもグレースは質問してしまう程、異質に感じていた。


「まあ、巨大な飛行機にも見えなくもないわね。全高25m、全幅50m、全長40m。名を蒼翼(そうよく)――それがこの飛行機の名前よ。時乃宮式慣性制御装置やバリアシステム、レーザー砲も搭載してるわ。最高速度はマッハ10、巡航速度はマッハ3ってところかしら。独力で宇宙に行き来も出来るわ」


「最新テクノロジーの塊だね・・・・・・」


 説明書を丸暗記しているのかスラスラと解説する姫路 凜。

 

 大きさに関して参考例を挙げると、アメリカの世界最大級の輸送機、Cー5ギャラクシー輸送機で全幅約68m、全長約75m、全高約20m。(内部に軍用車両二つ横並べにして縦に数両並べられる程の広さであり、最新鋭戦車二両(二つ合わせて軽く百トン越え)搭載できる程の積載量を誇る。)

 同じく横幅が広いアメリカのBー2ステルス戦略爆撃機で、全長約21m、全幅約52m、全高約5mである。

 Bー2を基にCー5ギャラクシー並の大きさに拡張した感じかもしれない。(*ちなみにこの世界においては両機種ともに最新のテクノロジーによる最新型が建造されている) 


 単純な速さは既存の宇宙戦闘機を凌駕している。

 

 もっとも、いくら慣性制御装置を積んでるとは言えマッハ10も出して中の人間が耐えられるのかとか、マッハ3の時点でも大丈夫なのか? とか色々と疑問をグレースは持った。

 ちなみにマッハ3は旧世代戦闘機の中で最強格と言われているFー22でも出せない速さだ(Fー22でマッハ2)。

 その前にそんなスピードで出したら普通なら内部はGでメチャクチャになる可能性は高いだろうがそこは世界最先端の科学技術を誇る天照学園製の宇宙船(?)だ。対策はしっかり施されているだろうとグレースは信じたかった。

 

 

「元々はアーカディアでの学園外での外部活動を視野に入れて開発してたの。だけど今は天照学園と天村財閥、そしてヒーロー部と悪の組織部の共有財産ってところね」

 

「それで――こいつで円盤に特攻するのかい?」   


「地球の連邦の出方次第ではね」


 即答だった。


「・・・・・・冗談で言ってる様に聞こえないな。やれやれ、日本人の女性はおとしやかっで大人しいって聞いてたんだけど間違いだったみたいね」


 手で顔を覆い、グレースは軽口を叩いた。 


「日本人女性でも色々いるのよ。ともかくトレーラーで先に出た連中と合流するわよ」


「水指すようでで悪いけど、いっそこいつで集団で移動した方が良かったんじゃないのかな?」


「そうね。それは私達の不手際だわ。まさか宇宙人が襲来するなんて予想だにしなかったもの。色々と私達も混乱してたのよ。それにこれで直接皆であの円盤の下に突っ込んでたら辿り着けずに撃墜されてたでしょうね・・・・・・後付けだけど、トレーラーで出発した組は陽動の役割を担って貰う事にしたの」

  

「まあ、この状況下だと何かしらの不手際は出るよね」


「そう言う事。さて長話はここで切り上げて乗り込むわよ。ある程度スタッフも回して貰ってるし」


 そして二人は蒼翼の中に乗り込んだ。




「で? どうして貴方はここにいるのかしら?」


 蒼翼の機内。

 広々としたエントランスルームで春龍の姿があった。

 赤い袖無しのチャイナドレスにメガネに二つのシニヨン(お団子)さんと言うスタイルだ。


「随分な言い方アルな。いちゃ悪いかな?」


「まあ良いけど、死ぬか生きるかの片道切符になるかもしれないわよ?」


「今の日本の状況だと何処にいても同じアルよ」


「ま、それも言えてるわね」


 制空権は完全に敵側にあるのだ。

 何処にいても敵の襲来がある以上、危険は多かれ少なかれある。


「お嬢さんが九龍の最高幹部の一人、春龍だね。初めまして。僕はソーディアンから派遣されて今はヒーロー部に所属しているグレース・ナディア。グレースと呼んで欲しいかな」


 グレースは自分のペースを崩さず丁寧に挨拶した。

 どうやら春龍の裏の顔の事も知っているらしい。


「ラウンズの13番目ね? 話には聞いてたけどこうして顔を合わせるのは初めてね」 


「おや、その言葉遣いがホントの君かい?」


「まあね」


 春龍の「~アル」口調は遊びでやっててそのまま自分でも知らず知らずのウチにクセになったと言う経緯がある。

 だが真面目な空気になったり、ちゃんと意識すれば基の口調に戻すことも可能だ。 


「他に誰が乗ってるの?」


「私の部下のフェイランがパイロットを務めてくれるわ」


「貴方の秘書の女性ね? お人形さんみたいに綺麗に切りそろえたボブカットのクールビューティー美女」


「それはそれは僕も是非とも後で挨拶したいね」


 グレースの軽口を聞いて春龍は凜に目をやった。


「こいつこんな奴アルか?」


「みたいね」


 嫌そうな顔をする春龍に凜は軽く息を吐いて言葉を返した。


「そう(この軽薄男、放置しておいた方がいいわね)・・・・・・後は、天村財閥のスタッフ――と言うより志郎の使用人ぐらいアルね」


「他の面々は?」


「襲来に備えて待機してる・・・・・・と言いたいけどこの騒ぎの影響なのか学園中でデザイアメダルが怪人化して暴れ回ってるからその対処に追われて人員割けない状況アル」


 デザイアメダルの回収業務はヒーロー部や悪の組織部を含めた他のヒーロー達の手で回収が進んでいたがそれでもまだ沢山学園島にばらまかれている。

 まだまだブラックスカルの事件の残滓が残っている一端を現していた。


「この調子だと沙耶とハヤテの援軍もキツそうね――」


「僕の師匠も部下引き連れて日本に向かうと言ってたけど、今の状況だと難しいかな?」


 凜とグレースの二人は不安を感じていた。


「ともかく、出発するアルよ」


「そうね――」


「おいおい、撃墜されないのかい?」


 グレースはもっともな指摘をする。 


「慣性制御システムで通常の航空力学の常識では考えられない程に低空飛行が出来るアル。遠回りになるアルが、場所を選べば撃墜されずに合流地点に迎えるアル」


「気が抜けないフライトになりそうだね」


 春龍の説明を聞いてグレースは超高難易度の操縦をしなければならないパイロットに「ご愁傷様」と同情した。


 こうして凜達は蒼翼で発進。

 空への翼を得て、猛達と合流するために向かったのだ。

 

 

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