第二十話「ヒーロー部の一日」

 

 あの戦いが終わった後、天野 猛の日常は大きく変化した。

 変身ヒーロー番組とかの最後辺りのお約束、正体が周囲にバレて一躍時の日世になったと言うのもあったが。


 ヒーロー部なんて言う部活が出来たせいだ。


 ヒーロー部はどう言う部活かと言うと――


「猛君助けて下さ~い!!」


「ははは、頑張って春歌ちゃん・・・・・・」


「あーもう何で私まで」


 城咲 春歌。


 天野 猛。


 揚羽 舞。


 3人はヒーロー部の活動の一端として幼稚園に来ていた。

 先程まで演劇部と合同で行った即席のヒーローショーを終えたばかりであり、今はファンサービスで幼稚園児達の相手をしている。

 ちなみに演劇の監修は天野 猛、天村 志郎などの特撮マニア揃いが行っている。 


「はーい、楽しんでる?」


「貴方一番楽なポジションよね」


 白い帽子に白い制服、白いロングブーツに白いコートと純白な司令官姿の姫路 凜に舞は思わず毒付く。  

 姫路 凜は理事会の役員の娘である。

 彼女の権力を使えばヒーロー部などと言う奇天烈な部活を発足する事など容易い。

    

 所属しているのはガチで学園を救ったヒーローなどで現在活動も芸能人並に引っ張り凧である。

 まあ一応部活なため内申点など、学業の通知表などにプラスされるのでそう悪くは無いのだが。


「てかセイントフェアリー人気あるわね」


「そうね。私も結構驚いてるわ」


「やっぱりデザインがいいのかしら? いっそヘルメット外してみる?」


「身バレ避けたいからいいわ・・・・・・ってこら、スカート引っ張らない!」


 圧倒的な強さを誇るセイントフェアリーも無邪気な子供達の前では普通の少女だった。

 そのギャップを見て何だか笑いが溢れる姫路 凜であった。


「ねえねえお兄ちゃん。どうやったらヒーローになれるの?」


「うーんとね。まずウルトラ五つの誓いと言うのがあってね」


「猛君、幼稚園児に何教え込もうとしてるんですか」


「まあそう言わないの春歌ちゃん♪」


「もう・・・・・・」


 天野 猛は子供と接するのが上手だ。

 だが何だかあまり長い時間引き寄せていくとその子供が将来特撮オタク化しそうで恐い。

 などと猛に失礼な事を春歌は考えていた。


「ふう、楽なもんね」


「沙耶さん。どうしてヒーロー部に?」


 ふと森口 沙耶に目が行く。何処かSF風のエッセンスが感じられる黒い魔法使いの衣装だ。

 アーカディア時代には余り接点は無かった少女だ。

 そもそも森口 沙耶は裏方要因でそれに春歌もアーカディアの在籍期間も短かったせいもある。

 なので、遂最近知り合ったと言う感じだ。

 

「まあ志郎とかに頼まれてね。こっちの護衛担当みたいな? それに女性率多いしね――」


 などと獲物を狙う獣の様な笑みと眼光を浮かべている。

 幼稚園児達もそれを察してかドン引きしていた。

 

「ちょっと幼稚園児の前で流石にそう言う話題は?」


「大丈夫、幼稚園児は好みの対象外だから。同い年ぐらいで、ちょっと儚くて重い宿命を背負っている感じの女の子が私の好みなの。丁度舞先輩みたいな」


 ハハハと春歌は渇いた笑みを浮かべた。

 森口 沙耶は同性愛者である。

 好みの自分の言った通りの女の子が好きなんだとか。

 隠そうともしないので結構有名な話だったりする。


 普通こう言う場合苛められるから、沙耶は同時にジェネシスで研究員とヒーローを兼任していた天村 志郎と同じ天才である。

 やられたら何かしらの形で報復してきた強い女性である。


 それに春歌の事も好みなのか結構懐いて来て危機感を覚えたりしていた。


「聞こえてるわよ。てか幼稚園児の前でそう言う話題は止めなさい!」

 

 舞は顔を真っ赤にしながら止めるように言う。


「わかりゃしないわよ」


「親御さんに告げ口されたら色々終わるからね!?」


「舞がそう言うなら止めてあげる」


 と大人しく引き下がった。


「それよりもこの部、男一人に女四人で男女比おかしくない? 戦隊者なら天野君ピンクでも行けそうな気もするけど。男の娘だし」


「うーん男性部員も募集しようかしら?」


 沙耶に言われて姫路 凜は考え込む仕草をする。

 確かに男女比がおかしい。

 ヒーロー部と言うよりヒロイン部だ。

 だけどあんまり増やし過ぎるとまた作者がエタ――(自主規制)

 部の管理とか面倒になるのでごめんなのだが。


「な、なるべくマトモな方でお願いします・・・・・・」


 と、春歌は念押ししておいた。


「ふーん、ヒーロー部って怪人と戦う部活だと思ったけどこう言う活動もやるのな」


 ブラウンの髪の長髪でメガネを掛けて白衣を身に纏ってちゃんと身嗜みを整えれば美人なのだろう。

 だが普段の生活態度が滲み出ているのか髪の毛とか荒れ気味で、メイクなにそれ美味しいの状態である。そのせいか周りにあまり子供が近寄ってこない。

 担当は科学。


 名前は嵐山 蘭子。

 ヒーロー部の顧問を務めており、天野 猛と城咲 春歌のクラスの担任でもある。


「あ、嵐山先生。見学ですか?」


 と猛が尋ねる。


「まあな。ドンパチ賑やかな部活かと思ったら正直拍子抜けした」


「ははは・・・・・・デザイアメダルは警備部の担当ですからね。天村財閥が開発したブレイバーユニットの御陰で僕達はあまり出番無しって感じです」


「そか。まあそれが良いんだろうな」


「うん」


 猛の言う通り、警備部は理事会、巳堂家の束縛から解放され現在は元通りに治安維持に当たっている。

 それには天村財閥が提供したヒーロースーツ、ブレイバーユニットが導入されていた。

 噂ではその為に傭兵も雇ったとか言われているが真相は定かでは無い。 


 ともかく天野 猛達はもう学園を駆け回らずに済むと言う事である。


「あ、そう言やローカルヒーローとかの集会とかで呼び出しかかってたぞ?」


「本当ですか?」


「ああ。それと何か自衛隊とか警察も協力してくれるみたい。ま、あんな事があったばかりだろうからな」


「まあ・・・・・・そうですね」


 ブラックスカルの謀略(自業自得でもあるが)により、日本政府は新しい内閣を発足する為に緊急選挙の真っ最中だ。

 自衛隊も警察もブラックスカルに協力していた事実があるため、天照学園や功労者であるヒーロー達に対して黙認、協力する構えを取っている。


 ようするにヒーロー部はある程度好き放題に活動出来るのが現状だ。

 

「ブラックスカルは想像以上の脅威だったけど、まさか一国家がカラーギャング如きに翻弄されるなんて本来はあってはならない事ですからね・・・・・・高い勉強料だと思うけど次の政府はしっかりとした政府であって欲しいですね」


「ま、一市民としてはそれが正解だな――」


 と、嵐山 蘭子は猛をレンズ越しに見詰めながら見掛けによらず(しっかりしてんのなこいつ)などと猛を評価していた。 

 

「そう言えば先生も、もしかしてヒーローだったりするんですか?」


「一応変身アイテムはあるんだが教師業が忙しくて中々時間がとれねーつっーの」


「そうですか・・・・・・」


「それに最近、リンディの奴がよく絡んで来てな。久し振りに飲みにいかなかって言って・・・・・・」

 

 その嵐山 蘭子の何気ない一言で春歌はハッとなる。


「リンディって、もしかしてあのリンディ・ホワイトですか?」


「ああそうだけど? 今この学園にいんぞ?」


「え? そうなんですか?」


 これには猛も驚いた。


 プロレス界の女帝リンディ・ホワイト。

 天照学園出身者で学生時代からプロのリングに上がり、驚異的な功績を納めていた。


 マルチタレントとしても成功し、一種のカリスマ美女としても名高い。 

 海外の大学に入学するために渡米し、飛び級でさっさと卒業した後、暫くしてからアメリカのプロレスマットから姿を消したと聞いていたが――

 

「確か今チャリティとかで女子プロ部の顧問しているとか言ってたぜ。だから男子、女子問わず見学に来て――目立つ容姿してるからなアイツ――」


「チャリティですか?」


「ああ、そうだ。この学園アイツの母校だからな」


 と、猛が疑問を投げかける。

 ブラックスカルの事件で数t単位のパワーを持つ怪人達が暴れたのだ。建造物などにも多大な被害が生じている。

 母校の危機に駆け付け、そのチャリテーなどで訪れていたとしても別に不思議では無いだろう。 


「と言うかどんな関係なんですか?」


「あー飲み友達とかそんな感じ? なるべく言い触らさないでくれ。それと私経由でサイン貰うとかも勘弁な。正直めんどい」


「は、はい・・・・・・」


 との事だった。

 この先生、いい加減に見えて分別とかはキッチリ付けている。

 だからこの一大学園都市で教師が出来るのだろうが。


「そう言えば舞先輩?」


「なに猛?」


「志郎さん何かやらかす気みたいですけど、話聞いてます?」


 ああその話かと子供の相手をしながら舞はため息をついた。


「あ~何かそう言う話は聞いてるわ。何か子供の頃からの夢を実現させる時が来たとか何とか・・・・・・」


「子供の頃からの夢?」


 猛は嫌な予感を感じたが聞かずにはいられなかった。


「世界征服」


「え? 本当ですか?」


 さしもの猛も耳を疑った。


「その為に悪の組織を作るとか言ってて、何か悪の組織部と言うのもアレだし、世界征服部も版権的に不味いしで何かネーミングで頭を悩ませてて私に良い名前のアイディア無い? とか聞いてきたのは覚えてる」


「ああ、そうなんですか・・・・・・」


 志郎の性格はよく知っている。

 何時も笑みを絶やさず、ヘラヘラしているがやる時はやる人だ。

 たぶん本気で何かしらのアクションを起こすだろう。


「それ、若葉さんが見たら何て言うんでしょうか・・・・・・」

 

 春歌の疑問も最もである。


「うーん・・・・・・苦笑するんじゃないかな?」


「そんなもんですか?」


「そんなもんだと思うよ?」


 もうちょっと違う反応を見せると思うがあんまり深くは突っ込まなかった。


「若葉って確かアーカディアの創始者の一人だろ? 確かお前達の面倒を見てた・・・・」


 目を細め、遠い物を見るような目付きをしながら嵐山先生が訪ねて来る。


「うん。そうだよ」


「あ、悪い――」


「いいんだ。思いっきり泣いた。心の底から悲しんだ。そして別れは済ませた。ずっと悲しんでばっかりだとまた心配させるから笑うようしてるんだ」


「そう」(本当に強いよ。お前は)


 何故だか嵐山先生はどちらが子供でどちらが大人なのか分からない様な錯覚に陥っていた。


 そして遠くでは黒いレヴァイザー、マスクコマンダーの姿があった。

 

 見つからないように気配を消して子供達を戯れているヒーロー部達の面々を眺めている。


(あの子達は元気にやってるよ、若葉さん・・・・・) 


 それだけ見届けてマスクコマンダーは誰にも気付かれずに去って行った。

  

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