ヒーローロード
MrR
ブラックスカル編
第一話「正義の味方」
天照学園。
通称学園島。
太平洋側の海に浮かぶ世界最大の学園機関であり、同時に世界最先端を行く科学技術を誇る都市であり、万単位の人間が暮らしている人工島と自然の島とで構成されている。
一応は日本に属しているが政治的影響力が高く、一つの独立国家の如き振る舞える程の権力を持つとされる。
だが天照学園で起きたある事件――南側にあるエリア、サイエンスエリアでの爆発事件が全ての始まりだった。
それから暫く経った後に怪人の目撃情報や犯罪が度々相次いで報告され始める。
学園島は警備部門、軍事部門と共に捜査に当たり、事件解決に望んだが中々成果を出せずに終わった。
そうして治安の悪化を辿り、学園の治安に暗い影が差し込んでいた。
そんな中、怪人の出現報告と共に最近あるアイテムが密かに出回っていた。
単純にそれはメダルと言われていた。
腕時計の様なアクセサリーにメダルを嵌め込む事で強力な力を手に入れられる。
イジメられっ子の彼女は偶然にもそれを手に入れる事が出来た。
最初は半信半疑だった。
試しに使ってみて本物だと分かった。
だからそれを使って見返してやろうと思った。
自分を苛めてくる馬鹿どもに復讐してやろうと思った。
そして私は女子トイレでずぶ濡れになりながらウォッチに銀色のクモの絵柄が刻まれた丸いメダルを嵌める。
☆
騒ぎが起きたのは授業中だった。
警報が鳴り響き、運動場への避難誘導が行われる。
だが激しい物音で皆パニックになった。
そして化け物と言う言葉が伝わっていく。
皆が見たのは赤い機械的な外観を取り入れたスパイダーだった。
複眼に牙。驚異的な身体能力。正に化け物のそれだった。
それが生徒を見境無く次々と殴り倒して暴れ回っている。
教師も警備員も止めようとしたが殴り倒された。
中等部は大騒ぎになった。授業も中止となる。
そして今、特定の生徒を引き摺り込んで立て籠もっている。
『どんな気分だ!? ああっ!? 命を握られた気分はよぉ!!』
クモの怪人になった彼女――木島 美代(きしま みよ)は開放感に酔っていた。
教室にはクラスのクソどもが子豚の様に震え上がっている。
さんざん自分を苛めて来た連中も死なない程度にぼこぼこにしてやった。万が一死んでもそれでも良いかな? と思っている。
「も、もう止めるんだ――」
『ウルせぇぞ!! このクソ教師が!! 何が東大卒のエリートだ!? 東大で学んだのは口先の使い方だけか!? ぶち殺すぞ!!』
ルックスが良い、大人の女性に持てそうな甘いフェイスの教師が説得を試みたが止まらなかった。
いや、自分の怒りが止められなかった。
『なあ、ユカちゃんよぉ・・・・・・気分はどうだ? さんざんブスだの何だの言ってくれたよなぁ? ええこらぁ?』
「ああ・・・・・・あう・・・・・・」
『何とか言えこら!!』
全身をボロ雑巾にされたユカと呼ばれた少女。
正直認めたくないが可愛くて大人っぽい綺麗な女の子であるが今や見る影もない。
はずみでこのまま撲殺してしまいそうだった。
ああ、最初からなんでこうしなかったんだろうと美代は思う。
『試すのはそこまでにして下さい』
『うん? テメェは――』
『引き上げ時ですよ』
続いて機械的なシルエットのコウモリの怪人が現れた。
腕と翼が一体化しているタイプではなく、背中にコウモリの羽をはやしたタイプの、モチーフが悪魔にも見えるタイプのコウモリだ。
美代は『チッ』と舌打ちして
『そうだな。こいつ達をブッ殺してから――』
と、殺してからこの場を引き上げようとした。
その時だった。
「そこまでだよ」
青いコンバットスーツを身に纏った奴が窓を突き破って乱入して来たのは。
ブルーの肩と胴体のプロテクター、アームカバー、ブーツ、各所の装甲。
緑の水晶が額に埋め込まれた蒼のヘルメットに緑のバイザー、口元は露出し、金色の髪の毛が露出している。
無限を表す∞のマークが刻まれたバックルベルト、下胴体から下はライダースーツの様な黒いタイツになっている。
背丈からして自分達とそう変わらないだろう。
『何だお前は――』
「そのデザイアメダル。何処で手に入れたの?」
中性的な声色で性別が良く判別できない。
『テメェ――邪魔するのか!!』
美代は敵意を露わにする。
「どうしてこんな事をしたのかは分からない。でもそのメダルはとても危険なんだ」
だが乱入した青いヒロイックなパワードスーツを身に纏う人物は美代が使用したメダルの危険性を訴えるが――
『おっと、余計な入れ知恵をして貰っては困ります』
乱入者の訴えをどう判断したのかコウモリが殴り掛かる。
しかしそれをあえて受け止めた。
両腕掴んだ状態で二人はそのまま一緒に校舎の外に飛び出る。
『まさか貴様――』
「仲間はもう一人いるんだよ」
この一連の動作でコウモリの怪人はこれが罠である事に気付いた。
「はーあ、変身ヒロインなんかするもんじゃないわね。とっとと引退すれば良かったわ」
二人と入れ替わりに青い妖精が教室に突入した。
白いリボンを羽飾りの様に付けた、黄色い触覚と緑色の鉱石を黄色いマークで彩っているヘルメット、蒼い髪の毛を赤いリボンで束ねてお下げにして腰まで伸ばしている。
生地が胸回りしかないリボンのセーラー服に羽を連想させる肩のプロテクター、青いスカート、腰の赤いリボン、その下にはブルーのレオタードを身に着けている。
健康的な肌が特徴な四肢を白い長手袋とオーバーニーブーツで包み、チョウチョの柄と宝石が刻まれたブレスレットを左腕に付けている。
胸も大きくスタイルもモデル並みに抜群。年頃はたぶん高校生ぐらいのように思える。
それが突然入れ替わりに窓から現れた。
「フェアリーリボン!」
胸のリボンを取り外すとピンクの光の帯が美代の体に巻き付いた。
そしてそのまま教室の外に放り出される。
人質となっていた生徒達はポカーンとなった。
☆
戦いは運動場に移る。
避難した学校の生徒の前での、大観衆を目前に控えての戦いだ。
学園の警備部門の人間が一気に生徒達を避難させる。
「私はコウモリを追うわ」
「んじゃあ僕はクモを相手します」
謎の青い髪の毛のスーツの女性は空中を飛んで逃げようとしているコウモリを追う。同じく空中を飛んで後を追う形となった。
そしてクモの怪人となった美代は最初に飛び込んで来た白いスーツの人物と運動場で対峙する事になった。
『復讐の邪魔をしやがって!! テメェ何様のつもりだ!!』
「アレだけやれば十分でしょ!! 今すぐ、変身解除してください!!」
『いいやまだだ!! 百回殺しても殺したりねえ!! このまま終われるかよ!!』
「なら力尽くでも解除させて貰います!!」
そう言って青い戦士が赤いクモに殴りかかる。
ある程度の武道の経験があるのか、相手の動きに合わせてカウンターの打撃を入れて行っている。
対する相手は力を持て余して気味で、攻撃しようにも動作が大振りで見切られてしまっている。
戦いはとても一方的な物になった。
『調子に乗るな!!』
腕からクモの糸が飛び出る。
まるで有名なアメコミヒーローの様だ。
至近距離で射出され、避けるよりも咄嗟にガードを選択した。
『オラオラ!! さっきまでの威勢はどうした!!』
両腕を操り、糸を引っ張って青い戦士を振り回す。
運動場の地面や学園の校舎に窪みが出来る程のパワーで叩き付ける。
そして止めに運動場へ思いっきり叩き付けた。
『ははは!! ざまあないな!!』
「・・・・・・・・・・・・」
『て、テメェ!? まだ起き上がれるのか!?』
その事に驚いた。
思わず手加減無しでやった。
殺す気でやったと言っていい。
なのに奴は立ち上がる。
口元から血が流れてるからノーダメージでは無いのだろう。
だが生きている事に恐怖心を覚えた。
「いくよ。フォームチェンジ」
体が発光し、姿が変わる。
スーツの青の部分が赤になる。
手にも赤いヒロイックなデザインの剣が出現している。
炎が燃え盛り、両腕に付着していたクモの糸が消えた。
『クソ!! クソ!!』
クモの糸を両腕から射出する。
しかし赤い剣は炎と共にその糸を消し去る。
糸を迎撃する程の剣術もそうだが、相手の力が何なのか分からなかった。
『馬鹿な!? そんな馬鹿な!?』
「バーニングエッジ!!」
剣を掲げ炎が巨大に燃えさかる炎の刀身となり、それが勢いよく振り落とされる。
爆発と共に美代は吹き飛ばされた。
人間に戻り、ゴロゴロと転がった。側にはウォッチと吐き出されて砕けたメダルが放置されている。
遠目からその状況を見ていた人々は呆気に取られていた。
まるで特撮物その物の様な光景だったからだ。
そして見た事も無い白いヒロイックな大型車両が割って入ってくる。
白から赤に変化した謎の戦士は少女と何かをその大型車両に回収すると何処からともなく消えていった。
警備部門の人々は追おうとしたが、「手出し無用。避難、救助に全力に当たれ」と制止を掛けられる。
「一体何者なの・・・・・・」
警備部門の女性はそうつぶやく。
まるで皆の気持ちを代弁しているかのようだった。
☆
その頃コウモリ怪人は謎の青いスーツの変身ヒロインと戦っていた。
気合い入りまくったオリジナルの変身ヒロインのコスプレの様な外観だが、ただのコスプレなら空も飛べない。
そもそも自分と殴り合えない。車両を持ち上げ、コンクリートを砕く程のパワーを持っているのだ。
あの後直ぐに追いつかれて、中等部の校舎の屋上で一方的な戦いを強いられている。
『ぐはっ!?』
と言うか強すぎるのだ。一発一発が信じられなく重く、スピードも速くて捉えきれないのだ。
もう飛んで逃げる程の余力も残ってない。
メダル――デザイアメダルとの結合率が下がって来たのか体中から火花が飛ぶ。このままでは強制解除される。そうなったら終わりだ。
『貴様、こんな事をしてタダで済むと思うな!? 必ず報復が来るぞ!!』
破れかぶれで脅してみる。
「上等よ。私の友人もアンタらがばら巻いてるメダルの被害にあってんのよ――全員纏めて叩きつぶしてやるわ」
しかし脅しが通用せず、相手はトドメを刺そうと歩み寄ってくる。
『え――あ、まま、ま、待て――話しを』
話を聞けと言おうとした。
しかし相手の拳が碧に光り輝き、瞬時に懐にまで潜り込み――
「フェアリングスマッシュ!!」
『うわああああああああああああああ!!』
拳の直撃と共に発生した爆発で転がり込む。
煙を吹き出しながら人間体に戻り、メダルは破壊されていた。
『揚羽ちゃーん、メダルとそいつ、回収して車両に乗って~』
揚羽と呼ばれた青いスーツの変身ヒロインは無線から聞こえる若い女性の気怠げな態度に「了解」とため息をつく。
「学生にまでやらせるなんてどんだけ人手不足なんだか、この学園」
『ははははは・・・・・・ごめんね・・・・・・車両はもう校舎の下に待機させてあるから』
そう愚痴りながら回収作業を行い、青い変身ヒロインは去って行った。
☆
天野 猛。
見掛けはまだまだ幼さが抜けきれない可愛らしい女顔で瞳が大きく、金髪の髪の毛の中学生である。
昔の特撮好きの影響で鍛えてはいるのだが中々どうしてか制服越しから分かる程に成長しなかった。
「おはよう猛君」
「うん、おはよう春歌ちゃん」
今日も長い黒髪の瞳が大きな可愛らしい美少女「城咲 春歌」と一緒に学園の中等部に歩いて通う。
家が隣同士で幼馴染みであり、幼稚園の頃からの付き合いである。
こうして毎日一緒に彼女と通うのが日課だ。
小学生の頃は周囲から冷やかされて苦労したが、中学生ぐらいになると彼女の有無は男子学生にとって大きなステータスになる。
そんなこと、猛としてはどうでも良かったが春歌はもっと意識して欲しかった。女性にとって恋バナとは学園生活において大きな青春の一ページだ。彼女にとっても、もっと振り向いて欲しかった。
居住区のエリアは西側にあり、メインである学園などの学園島としてのメインであるエリアは中枢部である中央に集められている。
病院や図書館などの公共施設なども大体ここである。
「今日のニュース見た? また怪人が現れたんだって。それにヒーローもね」
猛が唐突に話を振って来た。
「ええ。怪人にヒーロー言うと、ライダーに出て来る様な奴なんでしょうか?」
春歌は自分の想像出来る範囲で最も近い例を挙げた。
「ネットの動画とかに挙げられても直ぐに削除されるけど、見た感じは機械的で生物が融合した感じの姿だね。強くて警備部門のパワードスーツじゃ歯が立たないんだって」
「それ何処からの情報ですか?」
「とある知り合いからの情報。その人、学園の上層部の人間の息子だから結構信用出来ると思うよ」
「はあ・・・・・・」
などと物騒な会話をするが二人の周辺はそんな感じはしなかった。
とても静かなもんである。
やがて中央のエリアに近づくに連れて大規模な校舎群が視界に入ってくる。
何せ、幼稚園から大学院までの校舎があるのだ。
専門学校の施設まである。
中央部だけでも学園都市としても機能する程に数多くの建造物が立ち並んでいた。
そこに各種食堂などが立ち並んでるもんだから、初めて訪れた人間なら間違いなく迷子になるだろう。
「いつ見ても広いですねこの学園も」
と、春歌は呟く。
猛は「そうだね」と返した。
二人は中等部の敷地に入り、自分達が学ぶ教室の校舎に入る。
中等部と言っても全ての中学生が同じ校舎で学ぶ訳では無く、様々な種類の校舎が存在する。中途入学者向けの校舎やお嬢様達専用、学園の中枢に関わる人間達が通う校舎などが存在する。
中等部の部活は特別な事情が無い限りは校舎事に扱われ、校舎の数があるだけ同じ部活が存在する。野球部やサッカー部などもそうだ。
こうした構造のために 全国大会に出るために激しい学園対抗戦が勃発するなどの弊害が起きているがそのため全国に出る頃には相応の実力になっているので全国に出る頃には恥を掻くと言う事はない。
「嵐山先生ちゃんと来るかどうか賭ける?」
「どうしてああ言う人が担任になれるのか不思議ですよね。もっと良い教師は沢山いそうな物ですけど・・・・・・」
などと担任の不良教師を話題にだした。
春歌の言う通り教員の数は多い。
校舎事に職員室が存在し、そこにいる教師を 纏める校長、その上に学年を統括する学園長が存在すると言う統治体制を取っている。
更に学園長の上には学園島を運営する上で大切な様々な部門の代表者、理事会員達がおり、その頂点の理事長こそが学園の代表者となっている。
「風紀委員今日も頑張ってるね」
赤い長髪の目付きが鋭いの風紀委員の女性徒が今日も竹刀片手に頑張っている。
確か剣道の全国大会個人の部で優勝しており、その容姿も相俟ってそこそこ有名人だ。
「そうですね・・・・・・あ、生徒会長もいますよ?」
「ホントだ」
三日月 優映(みかづき ゆえ)生徒会長。
黒長の艶やかな髪の毛、紫色の瞳、大人びた顔立ちにモデル顔負けのルックス、ボディラインに程良いサイズのバスト。制服をドレスの様に綺麗に着こなしている。
教師達に混じり、生徒達に挨拶をしていた。
「綺麗な上に優秀で凄いときて――正直羨ましいですね」
「へーああ言うのに女の子は憧れるのかな?」
先程も語ったがこの学園は中等部でも複数学校が存在する。色々と統治体制は工夫しているがそれでも教師達の手では手が回らない部分は生徒に任せるのがこの学園の習わしである。
風紀委員や生徒会はその典型例だ。
その為、風紀委員や生徒会も漫画に出て来る様な強い権限を持たないと勤まらない上に、子供には酷とも言える業務になるのだ。
「春歌ちゃんも風紀委員になりたいの?」
「私には勤まりませんよ」
「なら生徒会は?」
「なんでハードル挙げてくんですか!?」
だから生徒会選挙は単なる人気投票ではなく、普段の学校生活での態度などを真剣に吟味した上で選ばれる。
そうなると自然に上流階級などの幼少期の頃からある程度英才教育を受けた生徒でなければ勤まらず、生徒会長の三日月 夕映もそう言う経緯を持つ人が集まる校舎出身の生徒なのである。
「確かに格好いい女性とかそう言うのには憧れますけどガラじゃないって言いますか・・・・・・もう中学生ですし何時までも女児向けアニメのキャラに憧れてるわけじゃありません」
「それは残念かな? 僕はとても悲しいです・・・・・・」
悲しげな素振りで猛はボソッと呟く。
何故か春歌は「そ、それは――」と動揺する。
「そう言えば昔僕のお嫁さんに――」
そして猛は昔の話を唐突に引っ張り出そうとする。
「と、とにかく、教室に向かいますよ!」
「あっちょ――引っ張らないで!?」
恥ずかしい気持ちを隠すように顔を下に向けながら春歌は猛を強引に引っ張って行った。
☆
猛達が通う教室は一見すると古き良き普通の教室であるが黒板は電子黒板になっていた。
しかもフィルター付きで目に優しい奴であり、DVD教材も映し出せる優れ物だ。最も今はニュースを流されているが。この手のお茶目はある程度許されている。
中には特撮物のDVDを朝から流す強者もいたりするが――
「やはり話題になってますね」
「うん、そうだね」
教室に辿り着くとやはり怪人の事で話題になっていた。同時にそれを倒すヒーローの事も。
どこどこで何が出たとかばっかりだ。
その話を猛は何故だか真剣に聞いていた。それを見透かしているのか、春歌が訪ねてくる。
「あの猛君・・・・・・もしかして、怪人を退治しようかと思ってませんよね?」
「流石に現実と空想の区別ぐらいは付くよ?」
「だけど昔、セイントフェアリーの話を聞いて街中駆け回ってましたよね?」
「うっ、そ、それは若気の至りと言うか何と言うか」
「まだ私達中学生でしょ・・・・・・」
痛い所を突かれ、表情を変えずに両目を瞑る。
春歌はやや不満げだ。
セイントフェアリー。
天照学園の変身ヒロイン・・・・・・ではなく、実在するかどうか定かでは無い変身ヒロインだ。
一応目撃情報が挙がってるが正体は不明。一種の都市伝説だ。
春歌は自分よりもいるかどうかも分からない変身ヒロインの追っかけやってる猛の姿は正直良い気分はしなかった。
「だって本物のヒーローだよ? しかも同い年ぐらいの女の子の。男の子の憧れだよ?」
「どちらかと言うとそれは大きなお友達の憧れです! 何時になったら特撮卒業するんですか? もしかして私に戦隊ピンクの衣装を着せて、だけどいやそんな・・・・・・」
「何か急に話脱線していってない?」
「ご、ごめんない・・・・・・だ、だけどもっとこう大人っぽい趣味の方が」
「例えば?」
そう言われて言い淀む。
「えと・・・・・・その・・・・・・読書とか?」
「ラノベじゃダメ?」
「漫画と変わらないじゃないですか・・・・・・じゃあ映画は?」
「映画はよく行ってるじゃん」
と返すが――
「アメコミとか特撮の映画じゃないですか。他は女児向け映画とか深夜アニメの映画とかに付き合う身にもなってください! 私周りの人達にオタクだって思われてるんですよ?」
女の子らしくない知識がどんどん増えている。
少女漫画みたいな恋愛したいとは言わないが、あまりにもオタク街道一直線な状況に春歌は危機感を持っていた。
「えーそんな悲しい事言わないでよ――それに志郎先輩とか舞先輩とかも大体そんな感じだよ?」
「あの二人はその――舞先輩はたぶんもう諦めてるんですよ・・・・・・」
志郎先輩と舞先輩。
天村 志郎と揚羽 舞。
学年は中等部の三年で猛達とは一つ上。美男美女と言う言葉が似合う二人だ。
天村 志郎は大金持ちで何か親ぐるみの付き合いがある上に猛と趣味が合う。幅広い層のオタクで特に特撮オタクだ。
舞は志郎とは本人曰く「腐れ縁」らしい。家が道場やっててよく舞のトレーニングとかに付き合っているのだとか。
「あっチャイム」
「もう、話の続きはまた今度ですよ」
そうして授業は始まった。
ふと猛は鞄の中に入れたある物の存在を思い出しつつも授業へと意識を切り替える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます