第34話『声楽部コンサート-2日目-』

 花園雪子達が逮捕されたこともあり、校門近くでは騒ぎになっていた。

 ただ、青薔薇が青山先生に託したメッセージを、校長先生が校門の周りにいるマスコミの前で発表することによって、その騒ぎはすぐに収まった。

 また、天羽祭もこのまま通常通りに行なうと校内放送で発表された。



 気付けば、午後1時過ぎに。

 今日も午後2時から声楽部コンサートがあるので、美来や乃愛ちゃんとは一旦お別れ。昨日のコンサートが良かったので楽しみだ。

 午後2時近くまで、僕らは屋台に行くことに。そのとき、花園さんと赤城さんが付き合い始めたことに深く感動したこともあり、岡村が全て奢ると言い出した。さすがに、全員分を払わせるのは負担が大きいと思い、僕の分は自分で払うことにした。



 昨日と同じように少し早めに会場である体育館に行き、声楽部の前にやっている落語研究会による落語を聴くことに。今日も相変わらず有紗さんと岡村は爆笑していた。

 落語研究会の演目が終わり、僕らはすぐに前の方の席を確保。今日も美来達の姿をハッキリと見ながらコンサートを楽しむことができそうだ。



 午後2時。

 会場の照明が全て消え、それから程なくしてステージのみ明るくなる。昨日と同じように、ステージには声楽部の部員7人全員と、指揮棒を持つ顧問の先生が立っていた。

 最初の合唱曲は昨日と同じ楽曲だ。個人的には好きな曲なので、また今日も聴くことができることに嬉しく思う。

 今日は青薔薇のことなどで色々とあったけれど、美来や乃愛ちゃんも含めてみんな伸びやかな声を出すことができている。

 1曲目が終わり、昨日と同じように花音ちゃんがスタッフの女子生徒からマイクを受け取る。


「こんにちはー! 声楽部でーす! みなさん、天羽祭2日目も盛り上がっていますかー!」

『いぇーい!』

「今日もみなさんいい声出してますね! 昨日のコンサートの後に、まさか青薔薇からメッセージが届いてしまうとは、世の中分からないものですね。声楽部はこのコンサートのために、たくさんの曲を用意し、たくさん練習してきました。昨日とは少し違うセットリストになっているので、昨日来ていただいた方も楽しめる内容になっています。天羽祭はもう終盤ですが、コンサートを含め最後まで楽しんでいってください! あと、昨日は投票ありがとうございました! みなさんのおかげで部活部門で1位になりました!」

『おおっ!』

「今日も精一杯歌います! いいなと思ったら、コンサート後に是非、声楽部に投票していってくださいね! では、もう1曲みんなで歌います!」


 花音ちゃんによる冒頭の挨拶が終わると、会場から拍手が巻き起こる。今日も彼女のトークは安定している。

 それから程なくして2曲目の合唱曲が始まる。その曲は昨日と違ったけれど、学生の合唱曲としては定番なので、僕も当時のことを思い出した。後ろから岡村が何度も「懐かしいよな」と言ってきてうるさかったけど。


「ありがとうございまーす! 改めまして、こんにちは、声楽部です! コンクールの関係で1人で歌うことが多いですが、みんなで合唱するのはいいですね。じゃあ、ここで自己紹介をしていきましょう! 昨日は3年生からやったし、今日は1年生からやりましょうか。では、トップバッターは声楽部の小さな巨人・神山乃愛ちゃんです!」


 トップバッターって野球じゃないんだから。あと、小さな巨人って。小さな体から大きな声を出せるのは凄いけど。

 スタッフの女の子からマイクを渡された乃愛ちゃんは爆笑している。


「小さな巨人って何なんですか。初めまして、1年2組の神山乃愛です。初めての文化祭は美来と一緒にメイド喫茶をやりました。昨日は投票ありがとうございます! クラス部門で1位になりました! 今日も投票してくれると嬉しいです! ご主人様、お嬢様! みんな盛り上がっているし、青薔薇は出てくるし高校の文化祭って凄いですよね! もう来年の文化祭が待ち遠しいです! 今日も頑張って歌いますのでよろしくお願いします!」


 乃愛ちゃんはそう言うと、会場は拍手に包まれる。


「今から来年の天羽祭が楽しみなんだね。来年は卒業しているから、あっちからコンサートを聴くのが楽しみだなぁ。でも、まずは今日、一緒に歌いましょうね。では、次の子はこの夏に天羽女子にやってきた黄金天使の朝比奈美来ちゃんです!」


 黄金天使というのは金髪からきているのだろうか。昨日と同じように大きな歓声と拍手が上がる。

 隣の乃愛ちゃんからマイクを受け取った美来は上品に笑っている。個人的には美来がステージの上で一番輝いている。


「みなさん、こんにちは。1年2組の朝比奈美来です。初めての天羽祭はとても楽しくて、忘れられないイベントになりそうです。クラスでは乃愛ちゃんと一緒にメイド喫茶でメイドさんをやって、声楽部ではこうして楽しく歌って。昨日はクラスでも声楽でも投票で1位になりました! ありがとうございます。あと、恋人や友人とは一緒に天羽祭を回ることができました。天羽女子の生徒として楽しめて幸せです」

「私達も美来ちゃんと一緒に歌うことができて幸せだよ! 今日も彼氏さんは来てくれているんだよね?」

「はい。今日も前の方に来てくれていますよ。智也さーん!」

「今日も頑張ってね!」


 さすがに2日目なので、昨日よりもちゃんと返事をすることができた。ただ、周りから女の子達の黄色い声が聞こえると恥ずかしいな。


「今日も彼氏さんはかっこいいですね。美来ちゃんにお似合いだなぁ。今日もチョコバナナ買ってくださってありがとうございます。特に後ろの金髪のご友人の方はたくさん買っていただきましたね」

「ど、どうも! こう見えても社会人なんで! チョコバナナ美味しかったっす! こいつの大親友なんで、今度ともよろしくお願いします!」


 岡村が両手で大きく手を振ると、会場は笑いに包まれる。そのことに岡村も喜んでいるようだ。こういうときでも、岡村は普段と変わらず明るく言えるから凄いと思う。

 その後も順調に部員紹介が進められた。


「はい、ありがとうございました! 最後に私は部長の新藤花音です。昨日も今日もチョコバナナを売っていました。3年生の中には、今日のコンサートで声楽部の活動がラストの子もいます。1年生の美来ちゃんと乃愛ちゃん、私は声楽コンクールの本選に出場し、通過すれば12月の全国大会に出場するので、みなさん応援のほどよろしくお願いします!」


「頑張って!」

「応援してるよー!」


「ありがとうございます。それでは、次はそれぞれの部員がソロで歌います。そのあとのJ-POPコーナーではみんなで盛り上がりましょう! 今日はスペシャルゲストがいますのでお楽しみに」


 スペシャルゲストがいるのか。天羽女子のOGに歌手とかがいるのかな? それとも、お金を出して女子高生に人気のアーティストを呼んだとか。楽しみにしておこう。

 その後は声楽部員それぞれがソロで歌唱する。昨日も思ったけれど、部活で練習しているだけあって上手だな。個人的にはラストで歌った美来が一番上手だと思ったけど。

 全員、ソロでの歌唱が終わり、再び声楽部のメンバーが全員ステージの上に。


「以上、ソロコーナーでした! みんな今日も良かったよ。では、これからラストまではJ-POPコーナー……と言いたいところですが、その前にスペシャルゲストをお呼びします! 今、日本で最も騒がせている人かもしれません! 青薔薇さんです!」

『えええっ!』


 本日一番の声が上がる。

 さっきと同じように制服姿の美来に変装した青薔薇が登場した。ただ、本物の美来も制服姿なので、見分けやすくするためか青薔薇の胸が小さくなっている。

 青薔薇は爽やかな笑みを浮かべながら大きく手を振った。


「みなさん、こんにちは! 青薔薇です!」

『きゃあああっ!』

「女子校だけあって可愛い女の子が多いですね。若い子からの黄色い声援を受けると気持ちがいいですね。活動上、素顔を見せたり、地声を出したりすることはできないので、既に変装済みの朝比奈美来さんの姿で。見分けをつきやすいように、さっきよりも胸はちっちゃくしましたよ」

「本当だ、私よりも小さいですね。それでも、それなりにありますけど」

「これが本当の私の胸の大きさだよ。そうなんです、私は女性なんです」


 さっきは美来に変装したからという理由で、第1会議室にいた僕らだけ女性だと教えてくれたのに。性別くらいは公開しても大丈夫だと思ったのかな。


「青薔薇さんといったら、今日、職員室にメッセージを送りましたね。あれはどういう意味なのでしょう?」

「それは既に解いてくれた方々がいて、逮捕されるべき人が逮捕されました。そういった経緯があって、一時、パトカーが校門の前に駐まっていたんですね。その節はお騒がせしました。この高校には私のファンがたくさんいると聞いたので、お詫びとファンサービスを兼ねてお邪魔しました。応援してくれて、本当にありがとうございます」

『きゃあああっ!』


 このコンサートにも青薔薇のファンが多いからか、黄色い声が響き渡る。もしかしたら、昨日を含めて一番の盛り上がりかも。

 あの文書に『自ら天羽祭を壊すことはない』という旨の文言が書いてあった。ただ、青薔薇自身は悪くないものの、警察がやってくる事態になり、騒ぎになってしまった。そのお詫びもあってコンサートに登場したのか。ファンがいて、今まで姿も現さなかったので、この形にするのが一番いいと考えたのだろう。


「メッセージについてはマスコミなどにも伝えてありますので、真相は是非、テレビやネットでご覧ください。その中で、本校生徒本人の名前やご家族の名前が出ますが、生徒さんの方は何も悪くないということは私・青薔薇が保証します。その生徒さんのことを温かく見守ってくれると嬉しいです。ただ、今はコンサートですから、スマホで私のメッセージがどんな内容だったかは確認せずに、コンサートを存分に楽しんでください! 昨日から天羽祭に来ていますが、とても楽しかったです! またね!」


 青薔薇は拍手と歓声の中、手を振りながらステージから姿を消していった。

 これで少しは、花園さんがこれからも平穏に高校生活を送ることができるようになるといいな。


「青薔薇さん! ありがとう!」

「またねー!」


 僕の前の席にいる花園さんは青薔薇がステージから消えるまで、隣に座る赤城さんと一緒に大きく手を振っていた。そんな2人はしっかりと恋人繋ぎをしている。


「青薔薇さんのメッセージは、これまでのように不正や犯罪を示していたんですね。でも、解決したそうなので大丈夫でしょう! 青薔薇さんが言っていたこともみなさん守りましょうね。では、そろそろJ-POPコーナーを始めますよ! みなさんも知っている曲があれば一緒に歌ってくださいね!」


 その後はJ-POP曲を中心に、最近流行った曲や高校生くらいの子が幼少期に流行っていた曲、年代問わず歌うことのできる曲などを披露していった。

 また、有紗さんは披露された曲を全て知っていたようで、隣でずっと綺麗な声を聴かせてくれた。

 途中、青薔薇が出演するというサプライズもあって、昨日以上に盛り上がったコンサートとなったのであった。

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