第21話『お持ち帰り』

 僕は真っ直ぐ自宅へと帰る。

 冷蔵庫の中を確認すると……お肉や野菜もたくさんある。きっと、昨日、帰りの早かった美来が近所のスーパーで買ってきたんだろうな。これだけ食材が豊富だと、何を作ろうか迷っちゃうな。

 台所の棚を見てみると……中華料理とか和風の一品料理の味付け調味料があるな。その中にホイコーローがあったので、


「ホイコーローにするか」


 美来と再会した日の夜に、彼女が初めて作ってくれた料理だ。あの頃はこういった市販のものを使わずに、そのときの冷蔵庫の中にあった食材と調味料を使って作ってくれたんだったな。

 夕食を何にするかを決めたところで、美来が帰ってくるまでの間に朝干した洗濯を取り込んだり、お風呂の掃除をしたりなどの家事を行なった。

 そんなことをしていたら、気付けば日がすっかりと沈んでいた。もう6時近くか。

 ――プルルッ。

 スマートフォンが鳴っているので確認してみると、美来からメッセージが届いていた。


『今、学校を出たところです。今から帰りますね』


 今から帰るのか。美来はクラスだけじゃなくて、声楽部の方もあるからな。今日の片付けや明日のための準備で時間がかかったのかな。あとは友達や先輩と喋っていたのかもしれない。


『分かった。夕食を作って待ってるよ。気を付けて帰ってきてね』


 という返信を送り、僕は夕食のホイコーロー作りに取りかかる。

 こうして作っていると、再会した美来のことを思い出すな。あの頃は月が丘の生徒で、今とは違った制服を着ていた。ただ、その頃にはもういじめられていて。きっと、僕と再会できて、僕の家に一緒にいられることがとても安心できたことだろう。

 きっと、月が丘に通っていた頃のいじめによって刻まれた傷は今も消えていない。ただ、


『天羽女子の生徒として、天羽祭を楽しんでいます!』


 声楽部のコンサートでの自己紹介で言ったその言葉で、美来は天羽女子という楽しくて安心できる居場所ができたんだなと思った。


「よし、これで完成っと」

「ただいまー」


 玄関から美来の声が聞こえてきた。いいタイミングで帰ってきたな。

 玄関に行くと、そこには制服姿の美来が。来週の火曜日から冬服なので、この夏服姿を見ることができるのは今のうちなんだな。


「おかえり、美来」

「ただいま帰りました。今日の片付けと明日の準備をしていたら遅くなってしまいました。友達や先輩方と色々とお話ししていて」

「ははっ、今日みたいな日はたくさん話しちゃうよね。おかえり。まずは1日目お疲れ様でした」


 僕は美来のことをぎゅっと抱きしめる。


「ありがとうございます、智也さん。智也さんに抱きしめられると、疲れがすっと抜けていきますね。あと、今日一番良かったクラスと部活について、投票結果が出たんですけど、1年2組と声楽部が1番になりました!」

「そうだったんだ! 良かったね。有紗さん達はどうか分からないけれど、僕も1年2組と声楽部に投票したから、両方1番になって嬉しいよ」

「投票してくれたんですね! ありがとうございます」

「いえいえ、1番おめでとう。たった今、夕ご飯のホイコーローができたから美来は着替えておいで。用意するから」

「分かりました」


 そう言って、美来は寝室の中へと入っていった。

 美来が着替えている間に、僕は食卓の配膳を行なう。今日みたいにたくさん人がいるところに行くと、家で美来と2人きりでいられることに安心するし、幸せを感じる。

 配膳が終わったとき、リビングの扉がゆっくりと開く。


「メイド『みく』をお持ち帰り注文していただきありがとうございます! ご主人様!」

「……ああ、そういえば今日のメイド喫茶でそう注文したね」


 ただ、美来が今着ているメイド服は文化祭で着ていたものとは違い、いつも家で着ているものだけど。

 美来は少し不機嫌そうな様子で僕のことを見つめる。


「もう、忘れてしまったんですか? 耳元で囁きながら言ってくれたのに。私は家で智也さんに色々とご奉仕することを楽しみに帰ってきたんですから」

「そっか。ご奉仕はこの後のお楽しみにして、まずは夜ご飯を食べようよ」

「そうですね。美味しそうなホイコーローですね。そういえば、私が初めて智也さんに作ったお料理もホイコーローでしたよね」

「覚えてくれていたんだね。さあ、一緒に食べよう」

「はい! いただきます!」


 僕は美来と一緒に夕食を食べ始める。

 こうして、メイド服姿の美来を目の前にしてご飯を食べると、なぜか天羽女子の文化祭に行ったのが遠い日のことのように思えてくる。


「ホイコーロー、とても美味しいです!」

「良かった。しつこいようだけど、今日は本当にお疲れ様。メイド喫茶に声楽コンサートと大活躍だったね」

「はい! とても楽しかったです。智也さん達と一緒にお化け屋敷に行ったり、屋台で色々なものを食べたりすることもできて。明日も同じような時間を過ごすことができると思うと幸せですね」

「ははっ、そっか。僕も今日は凄く楽しかったなぁ。今日は色々なことがあったけれど疲れてない? 先週、体調も崩したから心配で」

「疲れはありますけど、心地よいものですよ。いつも通りに眠れば明日も大丈夫だと思います」

「それなら良かった」


 ただ、明日のためにも今日はゆっくりと過ごして、早く眠った方がいいかな。


「今の流れだとちょっと言いにくいのですが、メイド『みく』をお持ち帰りしていただいたので、智也さんにサービスをしたいなと思うのですが。お風呂とかベッドで」

「……どんなサービスをしてくれるのか分かったよ。美来らしいね」

「ふふっ。明日は後夜祭や打ち上げがあって、今日よりも帰りが遅くなりそうなので、今夜……智也さんと色々なことがしたいんです。実は言うと、学校で智也さんと一緒にいる中で欲が溜まってしまって」

「そういうことか。分かった。ただ、明日も文化祭があるから、いつもよりも少なめだよ」

「分かりました!」


 正直、僕も文化祭で美来と一緒に過ごす中で、美来に対する欲が溜まっていた。メイド服姿は可愛いし、お化け屋敷ではずっと美来とくっついているし、バナナは嫌らしく食べるし、コンサートでの美来はとても輝いていたし。そんな魅力的な美来と恋人だなんて。


「……幸せだな」

「えっ? 突然言われましたからドキドキしちゃいました。私も幸せです」


 美来は文字通りの幸せな笑みを浮かべて、夕ご飯を食べる。

 その後も夕ご飯を食べ終わるまで、文化祭の話が尽きなかった。



 夕食を食べ終わって片付けをした後は、美来によるサービスタイム。

 まずはいつもよりも早めの入浴。昨日と同じく美来に髪を洗ってもらい、背中を流してもらった。メイド『みく』として洗ってくれているからか、いつもよりも優しい感じがした。

 入浴後はベッドの中で美来と愛を育んだ。そのときの美来は、今日の中で一番に美しくて可愛かったかもしれない。


「あぁ、気持ちいいですね。今日の智也さん、いつもより激しい気がします。メイドの『みく』をお持ち帰りしたからですか?」

「それもあるかな。あのメイド服姿の美来も可愛かったし。いつもの休日よりも一緒にいられる時間が少なくて、僕も欲が溜まってた」

「ふふっ、そうですか。その欲に応えるのがメイドの務めです。私もまだまだしたいですし、明日のためにもお互いの欲をここで昇華しましょう。……ご主人様」

「……うん」


 それからも僕は美来と体を重ねる。

 夕食のときに、明日の文化祭があるから少なめだと言ったけど、とても気持ち良かったので、結局いつも通りにたくさんしてしまったのであった。

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