第2話『見つけた日のこと』

 次は僕を見つけた日のことを話してくれるのか。


「確か、僕を見つけたのは、出会ってから2年くらい経ってからだよね」

「そうです」

「つまり、美来が小学2年生で僕が高校1年生のときか」


 10年前と再会してからの美来しか知らないから、僕を見つけるまで2年もかかるっていうのはあり得ない気がするけれど。ただ、小学校低学年だと探す手段がなかなかないから、僕を見つけるのに時間がかかってしまったのだろう。


「それでは、智也さんのことを見つけた日のことを話しましょう」


 既にこのパターンにはまってしまったな。どんな話を聞けるんだろう。そして、どんなところを見られているんだろう。楽しみでもあり、不安でもある。



*****



 幼稚園の頃は智也さんの絵を描くことで満足していました。

 でも、小学生になると、段々と智也さんの姿を実際に見てみたいと思うようになりました。放課後、時間があるときには智也さんのことを探しました。たまに、夢中になっちゃって家に帰るのが遅くなり、お母さんに怒られたこともありましたね。


「こら、美来! 今日もこんな時間に帰ってきて。智也君のことを探していたの?」

「うん。だって、ともやお兄ちゃんに会いたいんだもん……」

「その気持ちは分かるけれど、こういったことが明日以降も続くなら、智也君のことを探すのは禁止にするよ」

「ううっ、だって……」


 お母さんに怒られて。

 智也さんを見つけることができなくて。

 様々な原因で悲しくなって泣いてしまう日もありました。あの日が遠くなっていくほど、悲しくなる日は多くなっていきました。智也さんとはもう会えないと思って、智也さんのことを探すことを止めた時期もありました。

 ただ、ある日、お母さんからアドバイスしてもらいました。


「美来。自分1人で探すには限界があるわ」

「……もう、見つからないよ」

「でも、智也君には会いたいのよね?」

「当たり前だよ!」

「そっか。それなら、お母さんが彼を見つけることができるかもしれない方法を教えるわ」

「えっ! どうすればいいの?」

「クラスメイトやお友達の中に、中学生や高校生に通っているお兄さんやお姉さんがいる子っている?」

「うん、何人かいるよ」

「じゃあ、その子達に氷室智也っていう男の子を知らないかって聞いてみるといいよ。もしかしたら、知っている子がいるかもしれない」

「お母さん頭いい! 明日、学校に行ったらお友達に聞いてみるね!」


 考えてみれば、それまでは私1人で智也さんのことを探していたんですよね。知っている人がいないかどうか訊いてみればいい、というお母さんのアドバイスを聞いたときに一気に世界が広がったような気がしました。

 お兄さんやお姉さんのいるクラスメイトやお友達に、智也さんのことを知っているかどうかを訊きました。でも、なかなか見つからずに再び諦めそうになりました。

 しかし、小学2年生になったとき、初めて同じクラスになった女の子が、お兄さんの通っている高校に氷室智也さんという男子高校生がクラスにいると教えてくれました。


「お母さん、クラスメイトの子のお兄さんが、ともやお兄ちゃんとクラスメイトなんだって!」

「へえ、そうなんだ!」

「高校の名前も教えてもらったの! 明日、学校が終わったら行ってみるね!」

「智也君がいるといいわね。でも、遅くならないように気をつけること。約束ね」

「うんっ!」


 智也さんを見ることができるかもしれないと思って、とてもワクワクしていました。

 翌日、クラスメイトの女の子から教えてもらった高校に行きました。ちょっと遠くのところから正門をずっと見ていました。

 ただ、智也さんに会えることの期待もあれば、女の子と一緒にいるかもしれないという不安もありました。当時8歳の私でも、年齢が離れている自分よりも高校にいる女の子の方が好きになるかもしれないと。

 けれど、実際は違っていました。


「今日も1日終わったぜ!」

「貴様、体育以外の授業は全て寝ていたではないか」

「今週も明日だけだね」


 智也さんを見つけられたことも嬉しかったですが、一緒にいたのが羽賀さんと岡村さんだったことも嬉しかったです。2年ぶりだったこともあって、3人とも大人になっていていると分かりました。

 3人の中で一番かっこよかったのはもちろん、智也さんでした。遠くからでしたけど、智也さんの優しい笑顔を見てキュンしました。智也さんの前に現れて、キスをしたかったですけど、必死に気持ちを抑えました。


「ともやお兄ちゃん……」


 当時、高校1年生だったこともクラスメイトから聞いていました。およそ3年間、ここに来れば智也さんを見ることができる。それが分かって、とても嬉しかったです。



*****



「それが智也さんを見つけた日のことですね」

「なるほど」


 一時期は諦めていたのか。それは意外だった。1人で探すには限度があるからな。しかも、7、8歳の女の子だし。


「果歩さんも美来が僕を見つけることに協力的だったんだね」

「家に帰るのが遅くなって、何度も怒られましたけど、それだけ、智也さんへの想いが強いことを分かってくれたのだと思います」

「そっか」


 僕を見つけられずに落ち込んでいる美来に、友達やクラスメイトに僕のことを訊いてみたらどうかとアドバイスしたわけか。もうちょっと早く教えてあげても良かった気がしたけれど、美来なら自力で見つけられると思っていたのかな。


「智也さんを見つけたとき、女子生徒と一緒に帰っていたら、きっとショックを受けていたと思います」

「高校時代は大抵、羽賀や岡村と一緒に帰っていたな。女子生徒と一緒に帰るときがあっても、羽賀か岡村のどちらかはいたし……」

「それは私も分かっています」

「……僕を見るために、結構な頻度で高校の前に来たんだね」

「はい! 時間とお金が許される限り」


 それでも、僕は全然気付かなかったな。岡村はともかく、羽賀でさえも視線を感じるとか、知らない金髪の少女を見かけると言っていたことはなかった。美来のステルス能力がとても高かったんだろう。


「2年経って、ようやく僕のことを見つけることができた。そして、僕のことを見るために高校の前まで来る日々が始まったわけだ」

「そうです。ですが、そこからも色々とありまして」

「やっぱりあるんだ」


 以前、果歩さんから昔の美来の話を聞いているし。いったい、どういう話を聞くことができるのかな。楽しみだ。

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