第3話






この気持ちは、仕舞ってしまおう。

俺は、好きな人の好きを、応援しよう。

温かく見守ろう。


確かにそう思った。

でも俺は、自分が思っているよりも、立派じゃなくて。



「体育館裏に桜の木が、一本あるだろ?」


「そういえば…」


「入学式の日、一目惚れしたんだ」








目の前が、どろっと溶けた。






入学式の日?

よりによって、何でその日?

なぁ、結城。

俺もだよ。


俺もその日に、お前を好きになったんだよ。



「…今日は、先に帰ってて」


「…ぇ…」



カラカラに渇いた俺の喉は、満足に音も発せない。

普通にしなくちゃ。

変に思われないように。

この気持ちを、気づかれないように。


考えれば考える程、駄目になっていく気がした。

恥ずかしいそうにしている、結城の顔。

見たくないのに、目を離せなかった。



「俺は桜の木を、眺めて帰るから」






お願いだから。

そんな顔で、笑わないでくれ。

俺と居た時は、見たことも無い顔で。



お前に愛される、その木が憎い。

ただそこにいるだけなのに、どうして?

俺は、あんなに努力して、親友になれたのに。


理解したくもない。

受け入れなければ、良かった。

きっと、あの時に「気持ち悪い」って言って、離れれば良かった。






独りで歩く帰り道。


俺は、アスファルトの割れ目から顔を出した名前も知らない花を、ちぎって捨てた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る