第12話 森の惨劇
岩床に無数の窪地が出来上がり、熱が立ちのぼって空気を焦がしている。
じりじりと高熱で陽炎が立ち上る中、灼熱の熱線が貫いて奔った。
二本、三本と連続して放たれた熱線が岩床をバターのように抉って過ぎる間を、満身創痍のトリアンが必死の顔で避けつつ走る。
深刻なダメージは受けていない。
熱線を初見の時に十分な距離を取れずに火傷を負っただけだ。
問題は体力だった。
懸命の回避を続けているのだが、擦過傷は増える一方で、熱による火傷は体に本能的な恐怖を刻む。自分でも戸惑うほどに少しずつ動きが遅れた。
怯えで足が竦むのか、反射的に熱から逃れようとするのか。
理想の回避地点へ走り込む動きが少しずつ狂う。
巨甲冑は熱気の噴出と腕による攻撃を連続して行うようになり、トリアンがわずかでも姿勢を乱すと胸の透明な石から熱線を放ってくる。
甲冑の形状も変化した。
土瓶のような形状の腕に、鋭い刃物のような突起が無数に突き出していた。
回避の幅を大きくとらなければいけなくなり、これがトリアンの体力を削った。
開始から2時間は過ぎた気がする。
目の力こそ失っていないが、体力はぎりぎり絞り出している状態だ。
(あっ・・!?)
熱線を跳び避けたトリアンが着地した岩床が、大きく崩れるように窪んだ。巨甲冑の豪腕で殴られて、どこかに亀裂が入っていたのだろう。それでも、トリアンが足を取られて姿勢を乱したのは一瞬だ。
咄嗟に岩床に手をついて、手足を撥条に勘だけで真横へ跳ぶ。
だが遅れた。
肩口と脇腹を突起で引き裂かれていた。
「ぐっ」
短く苦鳴が漏れた。
トリアンは前へ走った。
離れたら死ぬ。
何も考えずに巨甲冑の真正面へと飛び込んでいった。
迎えるように、巨甲冑の胸元から熱線が狙い撃たれた。熱線はトリアンの胸を貫いて全身を一瞬で炭化させていた。
いや、そうなったように見えた直後、トリアンが巨甲冑の真後ろに立っていた。
『主様、遅くなりました』
「ああ・・だが、遅すぎなかった」
トリアンは息を乱しながら小声で答えた。
トリアンの中でスイレンが復活したのだ。熱線を浴びたのは、スイレンの見せた幻影だった。
ちりちりと耳の後ろで焦げた音がする。
直後に、上半身だけを回転させて巨甲冑が背後めがけて剛腕を振り抜いた。
そこにトリアンの姿は無い。
ドシッ・・
重い貫通音が鳴った。
綺麗に回り込んだトリアンが折れた短刀を巨甲冑の胸甲上にある小さな紋章に投げ当てていた。人であれば首がある部分である。下からでは見えないが、巨甲冑が身を屈めたりする時に、ちらちらと見えていた紋章だ。音は、金属というより砂のようだった。
トリアンはすかさず身を捻って巨甲冑から飛び退いた。
(・・どうしようも無いな)
何のダメージも与えていないだろうが、ひたすら回避を続けて、じわじわと傷を増やして追い込まれるばかりだったトリアンとしては嬉しい一撃である。
狂ったように連打を繰り出し、熱線を撃ちまくっていた巨甲冑がゆっくりと巨体の向きを変えてトリアンに正対した。
「うっ・・?」
"Drawn match!" extra points +1,000,000
身構えるトリアンの眼奥に文字が表示されて、どこからともなく声が響いて引き分けを告げた。
戸惑い、どうしたら良いか分からないでいるトリアンの目の前で、巨甲冑の両腕に突き出ていた突起が消え去り、さらさらと流れ落ちて岩床に砂山のように積もった。
(なんだ?)
トリアンが見守る前で、巨甲冑の胸甲が上へと持ち上がり始めた。
分厚い金属板が上へ持ち上がった下に、銀色の卵のような小さな塊がある。
すっと銀卵の表面に線が入り、左右へ二つに別れた。
中から、手の平に乗りそうなほど小さな人影が現れた。
『少し話しましょう。土着の子よ』
大人の女の声が聞こえてきた。スイレンでは無い。
大きくはっきりとした声だが、離れた巨甲冑の胸元で声を張り上げている様子では無い。
「おまえ・・いや、おれはトリアン。おまえは何者だ?」
トリアンは体の緊張を解いた。
『驚きを小さく見せる・・まだ幼いのに見事な心構えです。土着の民・・・トリアンというのは固有の名称ですか?』
「そうだ」
『わたし達は個別に名称を持ちません。ただ、守護者として、この地にあるものです』
「守護者?」
『永い眠りの時を経て我らの神は目覚めました。我らが眠っている間に生を得た者達・・あなた達のような土着の者達には種としての滅びか、我ら先住の者による支配を受け入れてもらうことになります』
「神・・おまえの言う神とは、ここに居た頭の大きな巨人のことか?」
『・・あれは神の産み落とした忌み子です。悪戯好きの困った者ですが、あれも神の生み出した亜神です』
「神とは?」
『我らが先住者を設計した創造主であり、我らの管理者を生み出した奇跡の御技を有する御方です』
「そんな奴がいるのか・・」
『奴では無く神ですよ。無知なる土着の子よ』
「・・おまえと戦う時、光る鎖で繋がったり、おれの知らない文字が光ったりしたが?」
『無知を恥じる必要はありませんが・・あれは決闘システムです。土着の者達にも馴染みがあるはずですが?』
「ん・・そうだったか?おれが知らないだけか」
『互いを決闘の契約で拘束することができます。ただし、5時間で勝敗がつかない場合は引き分けとなります』
「・・5時間?」
『お見事でした。土着の子よ・・その脆弱な身で、よくぞ守護者の攻撃を躱し続けました』
「・・やはり、手加減をされたのだろうな?」
『ここを破壊することは許されておりませんから。控えた攻撃手段は数多くあります。それでも、十分な攻撃力を有しているのですが・・・そうですね、あれをその脆弱な身で耐えきったのは報償を与えるべき功績です』
巨甲冑の胸元で小柄な人影が微笑したようだった。
『そこの怨砂を下僕となさい。土着の子よ』
「え・・と?」
『わずかで良いのです。血を滴らせれば、わたしが呪儀を執り行いましょう』
「・・血か」
岩床に積もった金属砂を見つめてから、トリアンは身を屈めて血まみれの手を砂に押しつけた。
そのままの姿勢で、ちらと巨甲冑の胸元に居る小人を見る。
『終わりましたよ?』
「え?」
今の一瞬で呪儀とやらが終わったらしい。ずいぶんと簡単な事だったようだ。
『その者達は、あなたの・・トリアンの下僕となりました。我の甲冑のように、その身で飼うと良いでしょう』
「身・・体で飼う?」
『我が甲冑を離れては、さしたる能力もありませんが・・その脆弱に過ぎる身を多少は強くしてくれるでしょう』
「これが・・?」
トリアンは金属粉の積もった山を見た。
『・・それにしても脆い体組織ですねぇ。魔法への護りも皆無で・・・よくもまあ、こんな身体で守護者の熱に耐えられたと・・感心します』
しみじみと呆れるように呟いて、
『このままでは哀れというか・・見ていて辛いほどなので、これを差し上げましょう』
巨甲冑の胸元で、小さな女性が何やらごそごそやってからトリアンに向かって何かを放った。
見る間に、見覚えのある黒い立法体が出現して岩床に重たい音を立てた。
---- 所有条件を満たしました。開封を開始します。 ----
聞き慣れた声が降ってきて、立法体が小さな塊になって崩れて行った。
---- 呑翁の法衣 ----
(・・なんか、危なそうな名前だ)
トリアンは体に纏わり付くようにして消えて行った黒い煙のようなものを見ていた。
『あなたに向けられる魔法の幾つかを軽減するものです。まあ、あなた自身の魔法抵抗力が低ければ何の意味も持ちませんが・・』
「・・魔法抵抗力?」
『階梯をあげることです。今のままでは、宝の持ち腐れですよ』
小さな女性がくすくすと笑った。
『それではごきげんよう。土着の者が闇海の底を訪れるには早すぎます。上へお帰りなさい』
女の声が聞こえた瞬間、トリアンの視界が真っ黒に塗りつぶされた。
闇に包まれていたはずの周囲が、いきなり眩しい光に包まれてトリアンは目を眩ませてしまった。
(熱・・?)
煙と一緒に熱気が吹き付けてくるようだった。
トリアンは目を眇めるようにして薄目を開けながら周囲に視線を巡らせた。
(・・は?)
樹が燃えていた。
トリアンが見たことも無い巨大な樹が炎に包まれていた。
考えるよりも先に体が動く。
炎明かりから逃れて下草の茂る木立の裏へ。音を立てないように身を潜ませた。
(あっ・・)
そこに人が死んでいた。
女だった。
胸元から下へ衣服を引きちぎられ、剥き出しにされた下半身には陵辱の傷が生々しく残っていた。真っ白な太腿の内に鉤爪で抉られたような痕がある。黄ばんだ精液が下腹部から胸元にかけて汚していた。
強烈に臭う。
苦悶の形相で息絶えた女の顔を見て、トリアンは息を呑んだ。
耳が頭の上側にある。それも、獣のような毛に覆われた三角に尖った耳をしていた。
(な・・んだ?人・・だよな?アニメみたいな・・)
トリアンは動揺しながらも、ちぎれて散乱した衣服を拾い、女の顔をぬぐってから瞼を閉じさせた。凄惨な陵辱の場に狼狽えていたが、よく見れば女の股間には尻から垂れた尻尾が見えている。
漫画やアニメでは普通に見ていた存在だが、実物を目の当たりにすると違和感が強い。
(え・・アニメ?なんだ?・・おれの・・知識?)
混乱したまま、トリアンは木陰に身を寄せて燃え盛る木々の間に視線を向けた。
悲鳴が聞こえていた。
襲撃者がまだ近くに居るのだ。
普段のトリアンなら大事をとって音を忍ばせて立ち去る。だが、初めて目の当たりにした女の裸に動揺したのか、無残な陵辱の痕に義憤が芽生えたのか、静かな怒りを宿しながら敵を捜した。
音を聞き、臭いを嗅ぐ。
すぐに地を滑るように蹴って走り始めた。
トリアンの眼が獲物を捉えた。
5人・・と数えるのが正しいのかどうか。
毛むくじゃらの体に汚れた腰布を巻いた怪人達が奇声をあげながら騒いでいた。
広場のようになっているらしく、そこで何が行われているのか、聞こえてくる枯れた苦鳴を聴けば、わざわざ確かめるまでも無い。
トリアンは拳を固めると、はやし立てるように騒ぐ怪人達の背から密やかに迫って拳を振り抜いていた。ほとんど一呼吸で、5人の頭部を吹き飛ばしている。
トリアンは走った。
女が陵辱されている。
のしかかっている怪人の後頭部を、真後ろからボールでも蹴るように蹴り飛ばして粉砕する。一見すると華奢な少年のようだが、ゴルダーンと打ち合える膂力の持ち主だ。
並の相手なら、一方的な虐殺になる。
トリアンは素早く視線を巡らせた。
長い歪な槍で、8人の男達が串刺しにされて並べられている。
すぐ近くの大樹に杭を打ち込んで縄を繋ぎ、裸にされた女達が4人虚ろな表情で転がっていた。いずれも怪人達の玩具にされた後だった。
広場に耐え難い異臭が満ちている。
トリアンは怪人の落とした手斧を拾った。
まだ、怪人達には何が起きているのか理解が追いついていない。
それほどに、トリアンの襲撃は速かった。
広場の隅に盛り土をして石が置かれ、大柄な怪人が座っていた。周囲の怪人をそのまま太らせ体格を大きくしたような姿である。その太い手に、串で刺された幼子が握られていた。せり出した腹や膝が血まみれである。すでに何本もの串が地面に捨てられていた。
トリアンの乱入に気づいたのは、その大きな怪人の横にいた妙な衣装の奴だ。
甲高い警戒の声を放って騒ぐ。
ほとんど同時に、頭から胸元まで叩き割られて斃れていた。
怒号があがる。
しかし、トリアンの手斧はそのまま大きい奴を乱れ打った。たちまち肉片となって散乱する。
へばりつく臓物を払い落としながら、後も見ずに木立の間へと駆け込んだ。
(・・・ちっ)
血が昇った頭がようやく落ち着いてきた。
自分らしくない行動だった。相手の様子も確かめずに突っ込むなど無謀すぎた。だが気持ちが猛って抑えられない。胸の奥で、ランとジーナの事が尾をひいている。
もう女達は死人も同然だったのだ。男達も幼子も死んでいた。
誰一人救えない。
トリアンは追ってくる足音を聞きながら荒い息をゆっくりと整えてゆく。
追ってきた怪人達は、人と猿の中間のような角張った顔で、口元だけがせり出して長い犬歯を覗かせている。頭は禿頭だが、後頭部から背、腹などにかけて長く赤黒い獣毛が覆い尽くしていた。
手には棍棒、槍を持った奴もいる。
(・・3匹)
怪人達が、騒がしく声をあげながら木立の間へ走り込んでゆく。
トリアンは樹上で息を潜めてやり過ごすと、枝から枝へ、幹から幹へと身を躍らせて先ほどの広場が見える枝まで移動した。
(女達は・・もう駄目か)
囚われていた女達は誰も動こうとせずに転がったままだった。
トリアンは、そのまま広場を見つめた。
逃がした3匹は戻ってくる様子が無い。あのまま遁走したようだ。
なおもしばらく様子を確かめてから、トリアンは地上に飛び降りた。歪んだ手斧を捨てて、汚れた短剣と棒に杭のような金属片を結んだだけの粗末な槍を拾った。
(獣人・・か)
怪人達に犯されていた女達も、串刺しにされた男達も、全員が獣のような耳や尻尾を持っていた。裸身は人と変わらないように見える。
トリアンは大樹に繋がれている女達の縄を切った。この女達だけは、喪心しているようだが命はある。
特に声を掛けることはせず、槍を手に、まだ地面で動こうとしている怪人達に止めを刺して回った。
(水が浴びたいな)
人面の犬から始まって、人喰い鬼、四つ眼の巨人、守護者だという巨甲冑・・。
(そして、こいつらか)
もう、トリアンの知っている世界とは完全に違ってしまっていた。
(来たが・・変なマーカ表示だな?)
周囲にかなりの数の危険探知マーカが集まって来ていたが、色が赤では無く、黄色である。まだ目で見えるほどでは無いが、10や20では無い、50近いマーカに包囲されてしまっている。
少数が、気配を殺して近づいて来ていた。
逃げた3匹が呼んできた仲間達なら、探知の色は赤いはずだ。
守護者との戦いの傷や疲れが癒えていれば、数など気にせずに戦えるのだが、今は慎重になった方が良いだろう。
(怨砂だったか?あれは結局なんだったんだ?)
体で飼うような事を言っていたようだが・・。
「スイレン」
『主様?』
「さっきの甲冑人形が言っていた怨砂というのはどうなったか分かるか?」
『主様の体を覆っております』
「・・なに?」
『極微細な膜となって御身を護っておりますわ。守護者と名乗った者の甲冑のように、形を変えられるようになるやも知れませぬ』
「ほう・・」
確かに、階梯がどうのと言っていた。
トリアン自身のレベルが上がれば、何かの役に立つようになるのかもしれない。
トリアンがぼんやりと考えていると、ざわつくような存在を主張するものがあった。
(これって・・あの砂?)
トリアンは身内の存在に意識を集中した。
不思議なことだが、確かにトリアンの体の表面には怨砂と呼ばれた粉が存在しているらしかった。
(ふうん・・)
これをどう活用すれば良いのか分からないが、あの守護者の女性はちゃんと仕事をしたようだ。
(・・来ないな)
トリアンは足下に転がる大柄な怪人を見下ろしたまま、遠巻きにして寄ってこない気配を数えていた。
一番近いのは樹上に二つ。木陰に四つ。
弓の弦が張られ、木が撓む音が聞こえる。弓か弩で狙っているのだろう。
音は斜め後ろの樹上。
不意に、小さく笛の音が聞こえた。
トリアンは半歩横へ動きながら笛の聞こえた左手の木立を透かし見た。立っていた場所を飛来した矢が通り過ぎて地面に突き立つ。
(弱い矢だ・・当たっても大丈夫だったな)
松明灯りが二つ、ゆっくりと近づいて来た。
トリアンは身を屈めて足下へ突き立った矢を拾い上げた。普通の弓で使うには短い。樹上の狙撃者は短弓を使うらしい。
鏃の臭いを嗅いだが毒は塗られていなかった。
トリアンは肩越しに大樹の枝葉へ視線を放ってから、再び揺れる松明の方へ視線を戻した。
もう、相手の背格好がはっきりと見えている。
少なくとも毛むくじゃらの怪人では無い。
鎧姿で剣や盾を持った男達であった。
どうやら人のようだ。
ただ、持っている武器も、着ている鎧の形や色、材質までばらばらでまるで統一感が無い。
(賊か?)
トリアンは休めていた体に力を込めて具合を確かめた。
いきなり矢を射かけて来たし、松明の炎に照らされる顔はどう見ても堅気には見えない。垢じみて汚れていた。見るからに臭いそうだ。
トリアンは半身になって右の木立を向いた。
動きだす気配があって、小走りに人影が飛び出してきた。
「テイラ!」
さらにもう一人、別の人影が駆けだして来た。
木立の間から駆けだして来た一人は、串刺しにされて死んでいる男にしがみつくようにして声をあげて泣いていた。もう一人は陵辱されていた女の傍らで呆然と座り込んでいる。
「どうやら、君には礼を言わないといけないらしい」
松明を持った若い男の方が声を掛けてきた。
二十歳をいくつか過ぎたくらいだろうか。鉛色をした鉄鎧には大小の傷が無数に刻まれ、腰に吊った剣の柄もよく使い込まれている。
トリアンは無言で見つめていた。
「俺らは狩猟兵だ。小鬼の集団が森に現れたと聴いて退治するために派遣された」
もう一人の松明の男が言った。
「こいつらの頭はおまえが仕留めたようだが・・」
言いながら男が近寄ろうとした。
トリアンは男が寄った分だけ離れた。
「ああ、いや・・おれらは礼を言ってるんだぜ?おまえに、どうこう・・危害を加えるつもりは無いって」
トリアンは、少し慌てた顔の男から、隣にいる若い男へと視線を移した。
「3匹を逃した。おまえらがやって来た方向だ」
トリアンの視線が集まってきた男達の顔を見回した。
当然だが、見知った顔は一つも無い。
大柄で筋骨逞しい体つきの男ばかりだった。山賊なら、即座に殲滅しなければならない。
「おいおい、俺らが妖鬼の仲間だってのか?冗談にしたって笑えねぇぜ?」
「矢を射かけておいて、こいつらの仲間では無いと言うつもりか?」
トリアンは握っていた矢を男に向けて放った。
手足の感覚がはっきりとしてきている。かなり回復していた。これなら、50人くらい素手でもやれる。
「なんだと!?いや・・どいつだっ?先走ったクソ野郎は?」
松明の男が声を張り上げた。
「うちの連中が誤って射たのだろう。申し訳なかった・・皆、慣れない妖鬼の討伐行で気が立っているんだ。大勢の仲間を失ったしね」
若い方の男が穏やかに見える笑顔を向けてくる。
トリアンはするすると後退ると、一転、地を蹴って樹上に跳び上がり、樹上に潜んでいた人影を蹴り落とした。
「そいつが、先走ったクソ野郎だ」
吐き捨てるように言って、トリアンはそのまま枝を蹴って樹上高く跳んだ。
矢でも射かけて来るかと思ったが、風切り音が飛び交う事も無く、トリアンは樹から樹へと身を移す事が出来た。
追ってくる探知マーカは3つ。
トリアンは相手の様子を確かめながら徐々に引き離し、いきなり速度をあげて追っ手を完全に振り切ると夜の森へと姿を暗ませて行った。
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