第119話 結構普通な膝の上





「学校って、結構普通だよな」



昼休み。俺は自分の席に座っている裕也の膝に座りながら、そう呟く。

ぐでーっと寄りかかると、落ちないように腹に腕を回された。



「普通?その格好は、大分普通じゃないよ」



智紀が鼻を抑えながら、俺たちの写真を撮りつつ言う。

何でそんなに興奮してんの。



「智紀、携帯没収されても知らないよ」


「そうだけど。今このチャンスを逃したら、僕はかなり引き摺る」



そしてまた写真をパシャパシャ。

俺は小さく溜め息を吐く。



「…せめて丸出しにしないようにしなよ」


「うん!」



元気の良い返事。

そんなところはやっぱり天使。



「学校が普通って、何まこちゃん。哲学っぽいね」


「何でだよ」



多分、裕也は頭が良くない。

勉強は結構出来るけど、そうじゃない方面で。



「学校、まぁまぁ久しぶりに来たけど…すっごい何事も無いなぁって」


「刺激を求めるタイプですか」


「いや、別に違うけどさ」



裕也に耳元で話しかけられ、もぞもぞ動いてしまう。

序に言うと、髪の毛に鼻を埋めないでほしい。


結構普通って云うのは、裕也にも言える事だった。

もう少しぎくしゃくすると思っていた。

もう少し自分は邪険に扱うと思っていた。

それなのに、人肌求めて男子高校生にしては近い距離で接している。

膝の上に乗った俺に、裕也が嬉しそうにするから、つい甘えてしまった。


莫迦みたいだよなぁ。

人を突き放して求めて。

ここ数日間を思い出して、自分を嘲笑する。

なんて我儘なんだろう。

なんて身勝手なんだろう。


そして今この温もりに、違うって思っている。



昨日の夜に戻りたい。

また拓夢に抱き締めてほしい。


そう思いながら、俺は目を綴じた。




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