第十章

第117話 ドアの前




久しぶりに訪れる場所って、こんなに緊張するものだっけ。


俺は教室のドアの前で立ち止まっていた。

冬ももうすぐ終わりそうだがまだまだ寒い教室は、ドアや窓を締め切っている。

入る際や出て行く際に最後まできっちりとドアを閉めなかったら、ドア付近の生徒から軽く苦情が上がるのも御愛嬌だろう。


そういえば、古典の教師は入って来る際に、ドアを全開にしたまま授業を開始する。

ドアのすぐ側の生徒が無言で立ち上がり閉める光景を、何度見ただろうか…。


そんな事を考えながら、ぼーっとしていると。



「…まこちゃん!?おひさー!」


「ぐぇ」



突如後ろから抱き着かれた。

いや、最早タックルだ。



「まこちゃんまこちゃん」


「…何、ちょっとうるさい…」


「久しぶりだね、まこちゃん!」


「……ん」



後ろの奴は、俺の後頭部にグリグリと頬ずりし、嬉しそうに話す。

…俺たち、もうちょっと気まずい関係じゃなかったっけ。


この男、裕也とは先日、男子トイレでちょっといざこざがあった筈だ。

何故かゆらりと瞳を濁らせた裕也に首元を噛まれ、キスマークなんかも付けられ、俺は彼を避けていた。

向こうだってそれに気付いて、大人しくなっていた筈だ。

そう、『筈』だったのだ。


今此処に居る彼は、気まずさなんて微塵も感じていないようで。

数日かそこら会わないだけで、リセットされてしまったのだろうか。

何それ、全然嬉しくない。



「おはよー」

「おはー、裕也ご機嫌だなぁ」

「おはよ、良いでしょう」



側を通って行くクラスメイト達からの生暖かい目が、何とも言えない。

何が良いんだ、全然良くないわ。


俺は早々と、学校に来た事を後悔した。




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