第106話 いざリビングへ





「立ち話し過ぎちゃったわね。引き止めてごめん。中入って」


「お邪魔します…」


「おう」



二回目のお邪魔しますと共に、俺はリビングへと入った。

ふわっと空気が暖かい。

寒空の下からやって来た俺達は、暖房の効いた部屋に大きく息を吐いた。


あ。鍋の匂いがする。

夕食にしては遅い時間だが、帰って来た拓夢の為に温め直したのだろうか。

俺がクンと嗅いだそれは、とても美味しそうだった。

拓夢の母親は、料理上手なのかな。

それとも、普通の母親ってそんなもんなのかな。



「其処座っといて。俺、着替えてくる」


「ん」



テレビの前のソファーを指差され、俺は頷く。

拓夢は部屋を出て行った。



「へい嬢ちゃん。隣かもん」


「…はぁ」



先に座っていたお姉さんが、隣をぽんぽんと叩き急かしてくる。

相変わらずの彼女呼びにどうしようかと思ったが、とりあえず言われた通り腰を下ろした。


そして感じるのが、またあの観察されてるかの様な視線。



「………」


「………」


「………」


「…あの、何でしょうか」



お姉さん…気まずいから、無言でじっと見ないでください。


その状況に耐えきれなくなった俺は、思わず口を開く。

ちらりと目線を合わせると、お姉さんは感心するかの様な顔をした。



「ほんと綺麗な子よね。媚びてない感じも好き」


「……えっと…」


「ねぇねぇ。何でうちの弟と親しいの?」


「…それは…」


「あーっ!お兄ちゃんの彼女だー!」


「紗智!」


「あー・・・」



出た。

声量拡声器な妹ちゃん。

びっくり顔のお姉さんとは対象的に、俺はげんなりとした。

勿論バレないようにだけど。



「紗智、違うのよ。この人は彼女じゃないの」


「そうなの?」



お姉さんナイス。

誤解を解いていく。これ大事。


妹ちゃんを膝に乗せた彼女は、優しく言い聞かせている。

こてんと首を傾げる妹ちゃん、かなり可愛い。

小さい子って天使だと思う。(黙っていれば)



「拓夢のね、片想いなの」



…どうやら、誤解がまだまだ解けていないようです。




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