第105話 勘違いが終わらない







「それにしても、世の中には色んな趣味の人が居るものね」



玄関先で靴を脱ぐ俺らに、そんな言葉が投げかけられた。



「…何それ」


「私、男装癖のある人を初めて生で見た」


「「………」」



…それは、もしかしなくても俺の事か?

さっきの妹さんといい、どうしてこの姉妹は俺を女にするんだろう。

確かに俺は168㎝と少し(強調)小柄だけど…それでも女にしてはデカイ筈だ。


納得がいかない。

むっとしていると、彼女が優しく笑った。



「でも、背も高いし顔整っているし、何か宝塚みたい。似合ってる。格好良い」



あ、似てる。

俺は思わずそう思った。

何でもズバズバ言ってしまう所も、褒め言葉でさえもストレートに伝える所も。

彼女は拓夢と似ている。


格好良いと思ってくれたのか。そうか。

でも、それはそれで美的センスを疑うんだけど…。

そんな事を考えつつ、思わずぼーっと彼女を見詰めていると、するりと項を撫でられた。



「——うわっ…」


「見すぎ」



バッと項を手で覆うと、聞こえてくるのは拓夢のちょっと不機嫌な声。



「何すんのさ」


「別に」


「………」



別にって何だよ。

訳分からん。



「拓夢、めっちゃ彼女好きじゃん」


「はっ!?」


「……え」


「あ、まだ付き合ってなかった?ごめんごめん」


「そういうんじゃ…っ」


「……えーと」



ぽんぽんと言葉を呟くお姉さんと、言葉を詰まらせる拓夢と。

入る余地もなく唖然とする俺。


やっぱりこの家は、試練が多い。




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