第103話 拓夢の家






…どうして、こんな事になったんだ?



「おねーちゃーん!おかーさーん!お兄ちゃんが彼女連れて来たー!」


「馬鹿!呼ばなくていい!」


「……」


「しかも男装が趣味だよ!どうしよう!?」


「色々と違う!ちょっと…叫ぶの止めろ!」


「おねーちゃーん!おかーさーん!」


「…紗智!!」



拓夢の怒鳴り声に、目の前で騒いでいた女の子が、びくりと体を震わせる。


ぴたりと黙ったが、その瞳にはじわじわと涙が浮かんできて。



「……うわぁああああん!!お兄ちゃんが怒ったぁあああ!!」


「えっ、ちょ……」



そして、そのままバタバタと走り去ってしまった。



「………」


「………」



もう一度聞こう。







どうして、こんな事になったんだ?






——「…俺ん家、泊まらね?」——



そう言われて俺は今、拓夢の家に来ている。

勿論、最初は断ったのだが。







『…なら、俺が真琴のとこに泊まる』


『…は?』


『良い?』


『いや…駄目』


『じゃあ俺のとこ来いよ。…やっと会えたのに、もう帰るとか嫌だ』


『………』






そんな事を言われたら、帰るに帰れない。


これが、惚れた弱みってやつ…?

拓夢は狡い。

物凄く、狡い。



そうして、渋々拓夢の家に来たのだけど。


俺は今、拓夢家の玄関に居る時点で、既に自分の選択を後悔している。



「……真琴、ごめん。妹が煩くて…」


「…いや…良いよ、別に」



嘘だ。

全く良くない。


ごめん、拓夢。

俺、すっげー帰りたいかも…。





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