第91話 じゃれ合い







ごろりとソファーの上で、横になる。

流石、洋介さん家のソファー。

ふかふかだ。


でも、体勢が落ち着かなくて。

俺は、もぞもぞと動きまくった。



「何してるの?」



俺が押し付けたカルボナーラを、食べていた洋介さん。

こちらを見ては、くすりと笑った。


…何だか、機嫌が良いな。



不思議に思いながらも俺は、洋介さんの膝の上に、頭を乗せた。



「あ。ここが落ち着く」


「…随分と、スキンシップに慣れたんだね」


「お陰様で」



驚く彼の顔が、面白い。

楽しくなって、にこにこしながら俺は、洋介さんを見上げる。


ああ、眠い。







人の体温が、心地良い。






洋介さんの腹に抱き着いては、俺は頭をぐりぐりと押し付けた。



「…君って、こんなに可愛いかったっけ?」


「…うるさ。チンコ勃てんじゃねーぞ」


「驚いた。口調は、全然可愛くないな」



…ほっとけ。





そう言って、頭上でクスクスと笑う洋介さん。

腹が揺れている。


寝ずらいから、辞めてほしい。



それにしても、腹筋硬いなー。

歳の割には、若く見えるもんな…。


脱いだ時も、素晴らしい肉体美。

バリタチの鏡か。そうか。



つつーっと、思わずその腹を、右手の人差し指で、なぞる。



「——ッ!」






あ。


今、びくってなった。






俺が触ると、身体を震わせた洋介さん。

思いもよらない反応に、俺は動きを止めた。



「………」


「………」



しばらくの無言。


それを破ったのは、焦れた俺だった。



「…洋介さんにも弱い所とか、あるんですね」


「…その顔辞めなさい。楽しそうにしないの」


「…うわっ」



少し面白くなさそうな顔をした、洋介さん。

そんな彼に、俺は頭をくしゃくしゃと撫でられる。


その手は、温かい。

温かいんだけど。







俺が求めているのは、彼の温もりではない。






ズボンの中に入ったままの、携帯電話。


それが今日も、異様に冷たく感じられた。









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