第90話 元セフレで元彼氏






あいつが居なくなってから、俺はすっかり空っぽになってしまった。


真琴の元セフレで、元彼氏。

そして未だに俺は、真琴が好きだ。









——「好きなやつに首輪とか付けたい?」——








そう尋ねた真琴の言葉が、耳に残っては消えてくれない。


付けたい。

今なら、めちゃくちゃ付けたいよ。



俺の部屋にずっと住まわせて、何処にも行かせやしない。

たまに使うのを目にしていた携帯も、絶対使わせない。


真琴を見るのは、俺だけで良い。

真琴が見るのも、俺だけで良い。



最後に抱いたあの身体を思い出しただけで、気が狂いそうだ。


白過ぎて、血管が透けている肌。

細過ぎて、骨が浮き出ているくらいで。

吸い込まれるような、真っ黒な髪。

光を取り込むと、茶色を通り越して、淡褐色になる瞳。


そんな目を、たまにこちらへと向けてくれる。








その全部が全部、愛おしかった。







めちゃくちゃに、したい。

もう一度、『弘樹』と呼んでほしい。


もう一度、俺のものになってほしい。



そう思いながら動く足の行き先は、自然とあの街の公園で。

居ないだろうし、居たところで、あいつは俺の手を取ってくれるだろうか——



そこまで考えたところで、俺は深い溜息を吐いた。

考えれば考える程、どうしようもない。


けれども諦め切れなくて、俺はやっぱり公園のベンチを覗いた。








するとそこに見えたのは、黒髪短髪の男子高校生の後ろ姿だった。






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