第88話 生かすくせに





「そもそも。どうして三年前に、私の前から消えたりしたの?」



じっと見てくる、彼の目。


三年前、俺が中2の時。

洋介さんの所に住み着いてから、一年くらい経った時期だ。



「それは普通、聞かないんじゃないですかね」


「………」


「………」



すっと目を逸らして、そう言った俺。

わざと、さっき彼が言った言葉を、真似する。


洋介さんは、困ったように黙り込んでしまった。




あぁ…俺は、餓鬼だ。


こんな態度を取ったって、仕方が無いのに。

わかっているのに、辞める事は出来なかった。



だって、それをあんたが尋ねるなんて。

余りにも酷だ。



俺が、洋介さんの所から出て行ったのは







その頃から彼が、左手の薬指に、指輪をしたからなのに。






毎日、毎日。

俺に『愛している』と、言ったくせに。

『君が一番大事なんだよ』と、言ったくせに。


本当は、とっくに他の人がいた。



俺を、生かすくせに。

俺とは、生きてくれない。


それでも、その口は『愛している』と『君が一番大事なんだよ』を、繰り返す。



それが、耐えられなかった。

ただそれだけなんだけど、それを本人に言う気には、なれなくて。


俺は、小さく息を吐いた。








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