第48話 逃げられない





「…すいません、急いでいるんで」



早口にそう言って、俺はその場を立ち去ろうとした。



「あ?ちょっと待てって」



1人の男に腕をがしりと捕まれ、その場からの退散が出来なくなった。

力の込められた指が、腕にくい込み痛い。


思わず眉を寄せるが、そんな俺の様子にも笑みを深くしていく男達。

気持ち悪い。

今すぐ死んでしまえよ。



「離せって…」


「暴れるんじゃねーよ」


「イケナイことしてる気分になるだろー?」


「やべー。興奮してきた」



どんなに体を捩っても、離れない手。

それどころか、どんどんと手は増えていく。

腕だけじゃなくて、肩や頭にも手が伸びてくる。



頭の悪そうな笑い声が、不快で堪らない。



「あー・・・。人が集まってきたな」


「やばくね?なんか通報されそう」


「場所変えようぜ」


「人目につかないところ、か。イイねー」







あ、もう逃れられない。





そうわかると、ぼんやりとしていく頭。

なんだかどうでもよくなってきたな…。


小さく深く、息を吐く。

白い息が顔を撫でては、消えていった。



「あれ?なんか大人しくなった?」


「諦めがついたんだろ」


「安心しろよ。たっぷり可愛がってやるから」


「俺としては、無理矢理感がある方が興奮したんだけどなー」



ずりずりと引きずられて、奥へ奥へと連れて行かれる。

一体、どこに行くんだろう。


多分俺は、今までが運が良かったんだろうな…。

めちゃくちゃに抱いてくる奴はいても、こんなに人を犯すことを嬉嬉としている奴は、いなかった。



…今度からは、セフレ探しももう少し、考えなければいけないかもしれない。


あー・・・でも、こんな奴らにヤられるのも、良いかもしれない。

そしたら、俺は少しは楽になるような気もする。

あの人は、喜ぶかもしれない。



そんな事をゆったりと考えていた時。

男達の歩みが止まる。



「丁度いいじゃねーか。ここでシようぜ」



目の前の光景に、サッと血の気が引いていくのがわかった。






俺は、拓夢と出会った公園にいたのだ。






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