第5話 コーンスープの底







「…なんか用ですか」



固まったまま動かない目の前の男に焦れた俺は、不信感ばりばりの声をかけた。


男の制服はブレザーで、学ランの俺とは別の高校だと分かる。

俺は他校に知り合いが居ない。

つまり、こいつは絶対知らない奴だ。



「あ、いや。ごめん」



ぱっと離れた手。


けれども隣に座ったままで、どこかに行く気配はない。

まじで何なんだ。



「お箸…」


「え?」


「お前、箸持ってない?」


「…は?」



何か呟いたかと思えば、箸?

なんで今、箸?

わけわかんねー…。


急に想定外のことを言われ、俺の頭ははてなマークで埋めつくされた。



「いや、自販機でコーンスープ買ったんだけど、底にコーンが残って取れねーんだよ」


「は…?」



男はもう片方の手の中にあるコーンスープの缶を、俺に見せた。



やばい。俺さっきから「え」と「は」しか喋ってない。


でも…仕方無くね?

初対面の奴に箸を求められてるんだし。


しかも理由が、底に残ったコーンを取りたいから。



…どうでもよくないか?


飲み口の狭い缶なんだから、コーンが出てこないのは当たり前だ。

粉が固まってどろっとしたまま底に残ってしまうのも当たり前だ。


毎回気にして最後まで飲もうとしてたら、キリがない。

誰だって少し気にしながらも、少し残ったまま捨てるだろう。



…こいつ、やばい奴かな?

ちょっと頭いってるのかも。


それか凝り性なのか、めちゃくちゃコーンスープが好きなのか…。






どうやら俺は、不思議系の奴に捕まったらしい。






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